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他人から学ぼうとしない危うさ

先月、知り合いの紹介で、台湾中部(台中)にある工作機の部品を作っている会社を訪問させていただきました。その会社の社長が、実はとても素晴らしい人でした。
会社訪問の前日に、ご自宅での夕食に招待されたのですが、我々の到着前からご自宅の前で一人で立ったまま待たれていたようで、最初は誰か部下の方とか、使用人の方などかと思ったら社長ご本人だと知ってとても驚いたのと、満面の笑顔で迎えてくださり何かとてもいい気持になりました。
地上4階、地下2階の豪邸を一通り見せていただき、豪華な夕食を社長のご家族もいっしょにいただきながらいろんな話をしたのですが、何気ない会話の中には成功者の奢りなどは一切感じられず、ご自身の話をしているときでさえ、こちらの話も一生懸命に聞いてくださり、我々が話すときには、他愛のない会話からですら何かを学ぼうとする姿がとても印象的でした。

翌日、この会社を訪問し、工場を見せていただいたのですが、冒頭に社長が言った言葉は、本当は先生たち(我々のこと)の話をたくさん聞かせていただいて色々と教えていただきたいのですが、今日は時間の制約もあるのでこの工場の紹介をメインにさせていただきます。是非とも何か思う所があれば遠慮なく指摘してください、ということでした。
会社説明を聞かせてもらいましたが、様々な学びから社長自らが陣頭指揮して、でも社員たちが高いモチベーションでそれを支え、革新し続けている様子が良く伝わってきました。
話を聞いていて、30年前に日本が持っていたものを思い出させてくれたような気がします。

彼らが学んでいたのは、いわゆるトヨタ生産システム(TPS)で、TPSのコンサルを入れながら、社長自らもどうやってそれを自社の無駄の排除につなげていくかを考え、試行錯誤しながら、例えば、製品製造のリードタイムを数年前は5日間であったものを、4時間まで短縮することに成功し、さらに、一部の製品では30分にまで短縮することが出来ているというのです。さらに、いわゆる在庫(部品、仕掛かり、半製品、製品在庫)については、全部含めて売り上げの0.6%、在庫回転率でいうと150回という驚異的な数字を達成しているそうです。
部品の仕入れに関しては、価格が変動するような部品は安いとき買いだめするようなことが考えられがちなのですが、この会社ではそれはご法度で、とにかく在庫を極限まで減らすことを目指しています。このやり方が正解というのではなく、これが彼らの方針であり、優先することをしっかりと決めているということです。
新人教育で一番最初に教えることは、トイレを使った後はキレイにし、特に手洗い所には一滴の水も残さないようにふき取って出てくることだそうです。単に5Sを教えるということだけではなく、次工程はお客様という考えを徹底させるためだそうです。
我々が行ったときは、工場はフル生産状態で、ここまで生産が稼働しているのに、こんなに綺麗な工場を見たことがありません。
何より従業員の顔が生き生きしています。
ここまでやったら他にやるべきことはありませんね、と言ったら、社長とその横にいたマネージャーが声を合わせて「何を言っているんですか。やるべきことは山積みですよ。私たちはグローバルで戦える企業になりたいんです。」と目を爛々と輝かせていました。

私自身は社会人として働きだしたのは1981年からですが、日本では70年代くらいに、TQCという手法が盛んに取り入れられていました。全社を挙げた取り組みで、製品の品質だけでなく、業務全体を改善していくという取り組みで、いろんな会社でQCサークルという職場でのグループ活動が盛んに行われ、社員のモチベーションも高く、経営者、中間管理職、現場が一体となって会社が成長していった時代だったと認識しています。
私が勤めていた会社でも、「次工程へのお役立ち」「問題意識を高める」などの言葉が、呪文のようになって社内で使われていたものです。

最近の台湾や中国では、70年代の日本で起こっていたことがまさに今起こっているのかもしれません。
私は、これは企業が宗教(のようなもの)を持って、全社一丸になって同じ方向を向いて革新し続けているのだと解釈しています。
ここには他人から学ぶという基本的な考えが根本にあって、自らを過信せずに謙虚に学ぶことが重要だと教えてくれている気がします。

仕事がら企業のトップの方、経営者とお会いする機会も多いのですが、冒頭の台湾の社長の一件があってから、あることに気が付くようになりました。

人には性格というのがあり、良くしゃべる人、どちらかというと寡黙な人、話題の多い人、大らかな人、気づかいの人など様々です。
そんな中で気付いたのは、調子の悪い会社の経営者の方に多いのは、他人にあまり関心がない人ではないかという仮説です。よく話を聞いていると、ご自身の話を一生懸命されるのですが、相手側の話になると興味なさそうにしていたり、まったく質問をしなかったり、極端な例では早く相手の話を切り上げて、またご自身の話に戻そうとする傾向がある人がいて、そういう人の会社、あるいは組織は、あまりいい状態ではないと、断言まではできませんが、そういう傾向があるように思います。
逆に、いい会社、いい組織のトップの方は、他人への関心が強く、何かを学ぼうとする気概が強い人が多い気がします。

自分自身に自信を持つことは大事なことだと思います。でも、自信と過信とは大きく違うとも感じています。たとえ自社や自分の組織がそれなりにいい状態であっても、その中での問題点や課題を常に意識して、ある部分謙虚になって、そこについて他者から学び改善していくのが本当の経営ではないかと思うわけです。

他人への興味を持ち続けることは、他人から学ぼうとする意識にもつながるものと気付かされました。

日本は島国であるのと同時に、言語力(英語力)の弱さもあって、企業トップの人たちでも外に出ようとする人が少ない気がします。たとえ海外には出かけて行っているとしても、個人同士のレベルで本当の友達になってネットワークを広げていけている人はとても少ない気がします。
日経新聞の記事で、日本企業はたくさんシリコンバレーに出て行っているけれど、シリコンバレーのエコシステムに真に入り込めている企業や人は非常に少ないということが紹介されていましたが、まさに日本企業の弱みなのかもしれません。
こういうとお叱りを受けるかもしれませんが、弱ってしまった日本の大企業のトップ同士でお決まりの会食やゴルフでの懇親をしている場合ではないのではないでしょうか。

「他人から学ぶ」は、今の日本企業にとっては、日本国内の他人だけでなく、真にグローバルな視線で他人から学ぶことが必要であるように思います。

まずは、関心を持つことからで、関心がない、学ぼうとしなくなる危うさを多くの人に感じて欲しいと思います。

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