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東京のタクシーのお話 3

第三回です。

ちょっと汚い話もあるので、食事中・食事直前の方はご遠慮ください。

9.決戦は金曜日

東京のタクシー乗務員にとって一番美味しい曜日といえば、間違いなく金曜日です。

飲み歩いて終電を逃したビジネスマンとか、接待されてタクシーチケットをもらった方とかが多くて、ロングが出やすいからです。

そんな金曜日にまつわるお話を書きます。


法人タクシーの場合、シフトは会社が決めます。

一般的には一台の車に二人の乗務員が交代で乗るのですが(この二人のことを相番(あいばん)という)、みんな金曜日に乗りたいから一人が毎週乗るわけにはいきません。

金曜日の乗務は、月に二回か三回ってとこですね。

だから尚更、金曜日の乗務には熱が入ります。

前に書いたとおり給料は歩合制なので、金曜日にいかに稼ぐかで給料の額が決まると言っても過言ではないのです。


そんな金曜日に一番困るのは、酔客が戻すこと

お客さんが戻してしまった場合は、ほとんどはそこで営業終了になります。

何故なら、匂いが凄いから。

掃除をしたところで、この匂いはどうにもなりません。

乗務員は営業所に電話して、帰庫して洗車しますが、匂いは抜けないから業者に出すんですよ。

予定の半分くらいの額を納金して、着替えてトボトボ帰るときの、あの悲しさはハンパないです。


酔っ払ってタクシーに乗るのは、全然構わないです。

ただ、戻しそうなら早めに乗務員に言ってくれないと。

タクシー乗務員は、車内に「」を必ず用意しています。

袋で済めば、あとは消臭スプレーを撒いて、窓全開でしばらく走れば、ギリギリ営業OKとなるのです。

乗務員の生活がかかったことなので、よろしくお願いします。


ちなみに、戻してしまったからといって、それでお金を要求されることはありません。

もしあったらそれは違法行為なので、警察に相談しましょう。

(要求してしまう気持ちは分かるけど……)

私が聞いた範囲では、戻したお客さんかその家族に車内の掃除をお願いすることは可能なのだそうですけど…… 普通しませんよね。

どうせ営業終了なのだから、掃除させたって気が晴れるわけでなし。

ただ、

「今度は戻しそうになったら乗務員に言ってくださいね」

とお伝えするだけです。


金曜日の夜にロングが出ると、都心から郊外へ行きます。

平日ならまだしも、金曜日はロングが多数出るので、次をお乗せするためにまた都心に戻らないといけません。

それで高速代が自腹だとしても、みんな高速を使うのです。

早く戻らないと、お客さんはいつまでもいるわけではないから、儲けそこねてしまいます。

個タクの場合は、車のローンもあったりしますので、そこは必死です。

金曜日の深夜に首都高とか乗ると、郊外から都心へ戻る個タクが物凄いスピードで走っているのを見られます。

法人タクシーの場合はそこまでじゃないかな、大体個タクほどいい車じゃないし、パクられたら元も子もないです。

私は乗務員時代に、高速でパクられている個タクを多数目撃しましたよ。


酔客でもう一つ困るのは、寝てしまって起きないことです。

にわかには信じられないのですが、大声で呼ぼうが揺すろうがまったく起きない人というのは少なからずいるのです。

そうするとどこへお送りすればいいのか分からなくなるし、料金を頂くこともできません。

そういうときに声をかけるのはOKですが、体に触るのはNGです。

後で「セクハラされた」とか「財布を抜かれた」とか言われたら、こちらはどうしようもないからです。

だからそういうときは、警察署や交番の前に車を停めて、警察官に事情を話し立ち会ってもらいます。

お客さんも警察官の姿を見ると、多少はシャキッとするので助かります。

そうやっている間にもメーターは上がっていくし、とにかく迷惑なのでやめてください。


そういえば一度、陽気な酔客をお乗せしたとき、途中でコンビニに寄ってくれと言われまして。

そのお客さん、戻ってきて車が走り出してから、

「運転手さん、これこれ!」

って、見るとそこにはアサヒスーパードライの350ml缶がっ!

「一緒に飲もうよ、盛り上がろうよ!」

ってアンタ、私運転中……

私、お客さんの話に合わせて盛り上げるのが結構得意で、やり過ぎるとこういうこともあるのです、やれやれ。

ちなみにそのビールは、うちに帰ってから美味しく頂きました(笑)。


金曜日の夜にロングを2,3本拾って、目標額をしっかりと超えたときには本当に嬉しいものです。

真っ暗な郊外で、最後のお客さんを降ろして。

ホッとして、回送板を出して(業界独特な言い方、昔は本当にそういう板があった)、コンビニでコーヒーと軽食を買って、のんびり走る帰り道。

『ラジオ深夜便』とか『走れ歌謡曲』とかを聴きながら走るあのひとときが、何より好きでした。

営業所に帰ると仲間達と、その日の成果とかトラブルの話とかで盛り上がります。

その流れで、朝からやってるお店で飲んだりすることもありました。

どうですこの、上に書いた「戻された私」とのコントラスト。

タクシー乗務員も、大変なのです。


最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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