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HUG YOU ALL


先日、長くlifeをご利用いただいていた、大切な利用者Aさんとのお別れがありました。
スタッフと一緒にエンゼルケアを終えて玄関先で靴を履く前に、私はAさんの奥さんとハグしました。
その時に奥さんが、
「HUG YOU ALLだね」
と私の背中を撫でてくれました。
いろんな思いが溢れました。

こんにちは!
訪問看護ステーションlifeで看護師をしている田代さとみです。
注文した飲み物に紙ストローが刺さっていると、
「あ…紙ストローか…」とあからさまにテンションが下がってしまいます。
地球に優しくない一面があります。


それはさておき、
HUG YOU ALLとは、私が訪問看護師として影響を受けている秋山正子さんの著書の中にある言葉です。
「人生丸ごと抱きしめる」
そんな思いが込められています。
目にした時に大変感銘を受けました。
こんな言葉に出会いたかったよ!!となりました。
私の思想がギュッと凝縮されているので、自分の名刺にも、
「人生丸ごと抱きしめる!
あなたの暮らしといのちに寄り添います」
と表記しています。
(つまりパクっている)
HUG YOU ALLは、life通信やlifeのパンフレットに表記して、lifeの理念の一つとしてささやかにアピールしています。
私の理念イコールlifeの理念としてもいいのである、というジャイアン的な発想を体現しました。
内向的な私にしては思い切った行動ですが、そのくらい揺るぎない思いを込めているわけです。(うん。つまりパクっている)

秋山正子さんご本人と、興奮し顔が引き攣る数年前のわたし(cancer Xの懇親会で名刺をいただき大感動。)
ビール持ってるのは懇親会だからです。




月に1回発行しているlife通信。
ど真ん中にHUGYOUALL


Aさんの奥さんは、月に1回発行しているlife通信を楽しみにして下さっていて、
「通信楽しみにしてるの。さとみさんの文章はありきたりじゃないから。この『HUG YOU ALL』っていいよね」と言って下さったことがありました。
(HUG YOU ALL丸パクリの件については触れないでおきました)
たくさんではないけれど、それなりのエネルギーと時間をかけて発行しているlife通信。
lifeの活動やスタッフを知ってもらえるように写真をのせて、誰かのこころの端っこにでもいいから届きますように!と思いを込めて言葉を紡いでいるので、感想をもらえるととても嬉しい。

Aさんは難病を持ちながら奥さんと2人で暮らしていました。
当初はリハビリが目的で、週に1回ご利用いただいていました。
在宅療養は、病状に合わせてその都度利用するサービスを変更します。
その過程で、週1回の訪問リハビリを卒業し、月1回の訪問看護を継続していただくことになりました。
私は月に1回訪問する看護師として関わっていました。
Aさんは薬を飲んでもリハビリをしても、病気がちっとも良くならないとお話されていました。
「薬飲んでるのに、なんで良くならないんだ。飲んでる意味あるのか」
「なんでこんな病気になったんだ」
答えのない問いと、簡単には解決できない苦しみを抱えていました。

私がしていたことは、体調を確認してお2人のお話を聞くことと、定点カメラのように2人の暮らしを見守ること。
(定点カメラと言っても、ただ見ているだけてはないですよ。看護の視点で見ています。)
じわじわと進行する難病を持つAさんにとって、「変化がない」ことがどんな意味を持つのかを一緒に考え、今の選択が最善であることを言葉にして伝えるようにしていました。
変化がないように見える暮らしにも小さな変化は存在していること、より良い暮らしを実現するためにチャレンジする力を持っていることに気づいて欲しかったので、「Aさんチャレンジシート」という紙を作って、1ヶ月の振り返りとこの先1ヶ月の目標を書いていました。
凪のような日々を経て、徐々に病状は進行。
春頃からは車椅子生活、ベッド上での生活に移行しつつありました。
病状の変化がありつつも「これが最後になるから」と家族旅行を決行。
(飛行機で北海道へ!)
無事全行程を終えて帰宅後、数日間の発熱があり急変。入院しました。

入院中にも衰弱は進行。
療養場所の選択を迫られ、「家で看取りたい」と、自宅に帰ってきました。
lifeでは看護とリハビリを再開。
毎日訪問して、ケアさせていただきました。
体力の消耗を最小限に。
髭をそって歯磨きをして手を洗って足を洗って。
自分で動かすことが難しくなった手足を動かして。
衰弱の進行は止められませんでしたが、Aさんは全身全霊で生きていました。
奥さんは疲れや不安はいっさい見せず、むしろ、はじめは「できない」と言っていた鼻からの吸引も座薬の挿入も上手にできていました。
「みなさん来てくれるから安心していられる。入院中よりも自分の体調がいいの!」と、キラキラした表情で伝えてくれる。ものすごい力を発揮していました。
退院から2週間、往診医の滞在中、医師と看護師と奥さんとお孫さんに見守られ、Aさんは息を引き取りました。
誰1人慌てることなく、その時を迎えたのです。

静かに眠るAさん。
ただただお別れがさみしい。
今までの日々がよみがえります。

月に1回の訪問で、いったい私に何ができるだろう。
自分がしていた看護に自信があったわけではありません。
でも、決めていたことがある。
最後までAさんと奥さんに伴走するということ。
病そのものに命が奪われる癌のような病気ではないからこそ、全身の機能がゆっくりと低下していく経過を看護師としてしっかり見つめる。
変化したとしても慌てずに、関連機関と連携して柔軟に対応していくこと。
それが、私にできることだろうと思い関わってきました。
日々のささやかな会話の中から、2人が大切にしていることを受け止める。
あの時あんなこと言ってたな・・そういうことが、有事の時に効いてくることを、私はこれまで関わってきた利用者さんやご家族から教えてもらっています。
だから、特に重要なことを話しているわけでもないおしゃべりやその時の表情や温度を大切にしてきたつもりです。


最後を迎える療養場所の選択を迫られた時、奥さんは動揺していました。
訪問と訪問の合間の時間、電話で奥さんとお話しました。
「私にできるのか」「本当にこの選択でいいのか」「さとみさんどう思う?」
大切な人を失うかもしれない恐怖と闘いながら、重要な決断をしなければなりません。
揺れる気持ちを聞いて、これまでの対話を思い出しながら話しました。
通院もあまり好きではなく、家が好きだったAさん。
今回の入院中も、家に帰ったらアイスとコーラが飲みたいと言っていたAさん。
「あの時奥さん、Aさんのことは家で看取りたいって私に話してくれました」
「私たちにはAさんと奥さんを応援する体制ができています」
このことを伝えると、動揺していた奥さんが落ち着きを取り戻します。
「そうだよね。連れて帰ります。家に帰ってからのことは、ケアマネさんとみなさんにお任せします。よろしくお願いします」と言って、電話を切りました。
Aさんと奥さんは自分で答えを出し、選びました。
力を持っているお2人だと、改めて思います。
退院当日、Aさんは念願だったアイス、ハーゲンダッツを少し食べたんです♡
「うまい」
「よかったねぇ」
2人の顔が輝いていました。

私は2人を丸ごと抱きしめたかった。
病気はAさんの一部であって全部ではない。
関わりを通してお伝えしてきたことです。
確かに病気によって思うような暮らしではなかったかもしれない。
それでも、Aさんや奥さんが自分たちの人生を振り返った時、
「悪くなかったな」と思えたなら。
それって、とっても素敵なことだと思う。

「HUG YOU ALLだね」

はい。
lifeがAさんと奥さんと過ごした日々は、素晴らしい日々でした。
私たちはお2人に丸ごと抱きしめてもらいました。
私たちの看護やリハビリも、悪くなかったな、そんなふうに思えるから。


月に1回の訪問でも、その1回1回を大切に積み重ねることで、深くつながることができる。
揺らいでいる時にかけられる言葉がある。
重要な決断を迫られた時に背中を押すことができる。
Aさんと奥さんが教えてくれました。
ありがとう。
また会いましょう。


おわりに
この文章は、岩瀬書店に併設しているドトールで一気に書きました。
外は溶けるように暑いけれど、ここは冷房が効いていて大変寒いです。
コーヒー断ちしようと思ってブラックコーヒーやめてたら、ほんとに苦く感じて飲めなくなってしまったので、カフェオレを飲んでいます。
ドトールのストローははじめからプラスチックなので。
スターバックスで執筆とか憧れるけど、あちらは紙ストローが基本で、プラスチック希望と言いにくいので。
最近は、今月のnoteは何を書こうかなーと考えることも私の暮らしの一部になりました。
読んでくれる人がいるって、このうえなくありがたいことです。
ここまで読んでくださったあなた。
いつかハグさせてくださいね。
幸あれ〜!

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