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「不公平」は「あたりまえ」

不公平。

小学校、中学校、高校と、学校にいるとこの言葉に敏感になる。

先生は生徒に対して公平であろうとするし、生徒も自分が不公平に扱われることに対して敏感だ。誰にでも分け隔てなく接する公平な女子や男子は、周りから一目置かれている。

不公平は悪であり、公平は正義なのである。


そんな社会で大半の時間を過ごしていると、自分が不公平な境遇にいることを、ひどく悲観的にとらえてしまう。


不公平。この言葉と向き合ったのは、大学受験の頃だった。

わたしの育った家庭は裕福ではない。貯金はおそらくないけれど、それでも、食べてはいけてるし、電話やガスが止まることも、たまにしかない。不満に感じることは多々あれど、窮地に立たされるような経験はしなかった。

そんななか、わたしにも大学受験が近づいてきた。父親から出された条件は「国公立なら大学に行かせてあげる」だった。

中のちょい上あたりの偏差値の高校に滑り込んだわたしは、少々落ちこぼれ気味。しかし、大学には何としてでも行きたかったので、国公立を目指してがんばった。

半分逃げるようにして部活を同期より早く引退し、勉強を基礎から頭に叩き込んだ。睡眠、移動以外すべての時間を勉強に費やし、食事、風呂も15分以内にすませ、できるだけ時間を確保した。これだけ一つのことに力を注いだのは、後にも先にもこの時だけだ。

当然塾には行けなかったけれど、熱心な高校だったので受験のサポートは十分してもらった。すごくいい環境だった。


受験の時期が近づく中、学校から奨学金に関する案内をもらった。お金は重要。家に帰って、父親に見せた。しかし、「必要ない」と。私は私立じゃなかったら大丈夫なのかと思った。


わたしはそのまま、勉強に打ち込み見事、国公立大学に合格した。本当にうれしかった。数学、化学が苦手でよく理系の学部に合格できたものだ。

合格したら、次は入学の手続きが待っている。書類をそろえ、入学金を納めないといけない。振込用紙を父親に渡した。


でもここで、衝撃的な一言。「そんなお金ないよ」


意味が分からなかった。

「国公立なら行かせてあげる」という言葉を信じて、すべてを受験勉強に注いできたのに、とんだ裏切りである。高校生のわたしには成すすべがなかった。

不公平だった。




何とか大学は、祖父母にお金を出してもらう形で入学することができたが、それでもこの事件は、わたしの中で大きな事件であることは変わりなかった。不公平という言葉と向き合わされ続ける。


大学にはいろんな人がいる。わたしのこんな経験なんて、考えにも及ばないほど不自由なく過ごしてきた人もたくさんいる。いやになるほど。

そんな中で痛感するのだ、不公平を。

環境は人々に公平になるように与えられていない。

教科書買うのですら、きついなんて、そんなの理解できない友達のそばにいると余計につらい。すごく自分が不幸に見える瞬間だ。


経験した人しかわからないから、わからないのは悪くない。

しかし、わからないからこそ発せられる、悪気のない「当たり前」を語る言葉は殺傷力を持つ。悪気がないから容赦ないのだ。



しかしあるとき不公平を受け入れるしかないと思えてきた。

傷つくのに疲れ果てたのかもしれない。


不公平は当たり前なのである。

恵まれた環境とか、恵まれていないとか、幸せとか、不幸せとか、そんなことは置いといて、それが事実なのである。

いいとか、悪いとか、そんな話は意味を持たなくて、不公平というのは当然の事実としてそこにある。


大切なのは、不公平がどうだとか考えることではなく、今の状況からどうやって一番いい道を探すかなのである。

違う場所を旅している人の、道の多さなんか気にしたってしょうがなくて、今ここにある目の前の分かれ道でどの道がいいのか選ぶことに集中しなければしかたない。


不公平は当たり前。

不公平の中の最良の道を歩もう。




その考え方は他の面でも好循環を生み出した。

苦手なことに対して、いじけた態度をとらなくなったのだ。

今まではできないことがあると(たくさんあっていやになる)、がんばったところであの人には及ばない。なんで私はこんなに努力してもできないのに、あの人は当たり前のようにこなしてしまうんだろう。と、かなり落ち込んだ。

しかし、そんなふうに思ってしまうこともなくなった。

できなくたって、できないなりの最善を選ぶしかないからだ。しかない、というか、最善を選ぶだけでいいのだ。


境遇、評価、理由、考え出せばキリがない事を考えることから自由になれる。

迷いがない人間は強い。


最善を尽くす、その言葉が実感として理解できたのは、不公平を受け入れたからじゃないだろうか。

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