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Fleeting Love(完全版)


はじめに 

こちらは #Clubhouse のルーム"Clearly Brain × Everyday"に寄稿したラジオドラマ用の作品として書いてみました。
8月のテーマは「ひと夏の恋」(正式には「忘れられないあの日の恋」)

【clubhouse用に、作った作品を短くしたのですが、こちらはノーカット版になります】

Fleeting Love


もうすぐ夏季休暇、予定?…何も入ってない。
去年までは、旅行は自粛していた。

というのは、言い訳かな。
一緒に行く相手もいないし。


今年は、友人も職場の人も旅行に行くらしい。
どこにも行かないのは、カッコ付かない。

今からでも予約取れるところあるかな?
えっと、国内旅行、新幹線、ホテル付。
結構高いなあ。


あ!広告に飛んじゃった。ん?海外セール”まだ間に合います!夏の海外旅行お得です”…か
英語話せないし、一人で行く勇気ないな…


あ、ちょっと待ってパスポートいつまでだっけ?
2024…3月 来年切れちゃうのかあ。
どうしようかな、思い切って行っちゃう?

韓国なら近いし、4年前に友達と行ったからアプリがあれば何とかなるかな?

私は思いきって韓国旅行に行くことにした。


ひとりで海外なんて緊張する。
金浦空港から、バスに乗ってホテル近くのバス停で降りた。


この辺なんだよね、ホテル。よし、地図アプリ使おう!
えっと…こっちじゃない?ん?反対に来ちゃった?うーん全然わかんない。怖くて人にも聞けない。
どうしよう〜もう1時間も歩いてるよ。
あれ?また戻って来ちゃった。はぁ~疲れた。

案内所だ!聞いてみようかな。
ここなら日本語通じるよね?


「こんばんは、道を教えていただきたいのですが」


「はい、どこに行きたいですか?」


(良かった日本語通じる)


「ここなんですけど…もう一時間迷ってて」


「このホテルなら、すぐですよ」


「え?そうなんですか?」


案内所の彼は優しく、ホテルまで連れて行ってくれた。え、1分もかからないところにあったの~。


「カムサハムニダ~」


「またわからないことがあったら、いつでも来てください。夜中の1時まで開いてます」


「あ、ありがとうございました!」


なんて親切なんだろう。良い人に出会えて良かった。今日はもう疲れたから、コンビニで買ったもので夕飯済ませよう。
初日からこれじゃ、明日から不安だな。


次の日の朝

時間もったいないと思いつつ、出かける気になれずゴロゴロしていた。
すっかり自信なくなっちゃった。

ホテルから歩いてすぐの南大門なら大丈夫だろうとブラブラ歩き回った。そうだお土産買っておこう。


今日はカフェに行きたいんだけどなぁ。
そうだ!案内所で、聞いてみよう。


「あ、こんにちは」


「こんにちは、今日は楽しんでますか?」


案内所の近くで彼に会った。


「あの…カフェに行ってみたくて、でもどこに行ったら良いのか…」


「良かったら案内しましょうか?」


「え、ホントですか?わぁ!ありがとうございます」


「日本語お上手ですね」


「子供のころ、少しだけ日本に住んでたことがあるので」


「え~そうなんですね」


私は、お礼にご馳走させてくださいとお願いして、勤務前の彼と少しだけコーヒーを飲んだ。




「明日仕事が休みなので、良かったら案内しましょうか?」


「良いんですか??お休みなのにごめんなさい!本当にありがとうございます。なんだか一人で歩くの不安で疲れてしまって…助かります」


「大丈夫ですよ。明日ホテルに迎えに行きますね」


なんて優しい人なんだろう。あー泣きそう。


「大丈夫ですか?えっと、お名前は?」


「あ、恵美です」


「えみんさん」


「え、み。あ、えみんでいいです」


「あの、お名前は?」


「イジュンです」


「イジュンさん…素敵なお名前ですね」


「ありがとうございます」


背が高く、顔はかわいいのに声が低くて素敵な人。いくつくらいなんだろ、年下かな?


はぁ…でも良かった。明日はお任せ出来る。
もう考えるの疲れちゃった。
海外で、男性とお出かけかぁ…フフッ
楽しみだな。


次の日、ホテルのフロントにイジュンさんが迎えに来てくれた。


「どこに行きたいですか?何に乗りたいですか?何でも行ってくださいね」と、彼は優しく聞いてくれた。

私は”冬のソナタ”を思い出し、バスに乗りたいと言って、案内所の横からバスに乗った。


やった~ 一番後ろあいてる!!


「ここに座っても良いですか?」


「ええ」


イジュンさんと並んで座り、ソウルの街並みを眺めながらちょっとドキドキした。


なんだろう、この感覚。国籍も違うのに、彼の横はなんだか懐かしいような…黙っていても心地よい。
お互いのことは、上手く伝えられない言葉の問題もあるけど…あまり聞かずに、ただその時間を楽しめた。

周りには私たちどう見えるかな?
観光客を案内してるように見える?
もしかして、付き合ってるように…それは、
ないか…笑


出店を覗いたら、彼がキャップを被せてくれた。


「暑いから…似合いますね」


「え?ホント?私帽子似合わないと思って、被ったことない」


「似合いますよ」


彼はそういうと、おばさんにお金を払って買ってくれた。


「私からのソンムルです、受け取って下さい」


「プレゼント!嬉しい…ありがとう」


こんなことされたことない、なんて自然なんだろう。久しぶりにキュンとしてしまった。顔赤くなってないかな?


私も彼にプレゼントしたくなった。

人混みでもわかるように、彼にもキャップをプレゼントした。

ふたりで目を合わせて笑った。
なんだか嬉しくて、恥ずかしくてドキドキしてる。胸がキュッと苦しくなった。

まさか、会ったばかりの人なのに、好きになっちゃったのかな?
そんなことあっても良いのかな?
彼といると楽しい、今日が終わらないで欲しい。
歩きながらふとそう思った。



屋台でおでんを立ち食いしたり、とにかくたくさん歩いた。楽しい時間は、なんであっという間に過ぎてしまうんだろう。


夜は夜景が見たいと伝えたら、Ñソウルタワーに連れて行ってくれた。

一日歩き回った最後のタワー。
足が前に進まない。


「大丈夫?」


「うん、大丈夫ごめんなさい」


「手を貸して」


「えっ…」


彼は手を差し伸べてくれた。

疲れていたので遠慮なく手を差し出したら、彼はぎゅっと握り返してくれた。


2人手をつなぎながら、どこまでも続く階段を上った。

タワーから見る景色は絶景だった。風が心地よい。昼間の暑さから解放され、体がやっと落ち着いてきた。


沈黙の中、私は考え事をしていた。


彼は今、何を考えてるのかな…
そういえば、お互いのことは、名前しか知らない。連絡先も知らない。
私のこと今どう思ってるんだろう…

私はもう彼のことが好きになってしまった。
この想い伝えたい、でも、好きって言ったら彼はどんな顔するんだろ?急にそんなこと言ったら
困るよね。だって、もう会えなくなるんだもん。

彼はすぐ隣にいるのに。
繋いだ手から温もりも伝わってくるのに。
何を思っているかはわからない。


ふと、目があった。
優しい顔…彼の顔を見ていたくてじっと見つめてしまった。
彼は背が高い、見上げていたら首が痛くなってきた。すると、彼の顔が近づいてきた。

え?と驚いていたら、彼は頭にそっとキスをした。

私は思わず抱きついてしまった。
彼は何も言わず、優しく抱きしめてくれた。


彼はいくつなのか?どこに住んでいるのか?
そんなことは関係ない。この時間だけが今は大切。離れたくない…ずっと一緒にいたい。

なのに、明日は日本に帰らなきゃいけない。



気持ちが伝わったのか、帰り道もずっと手を繋いでくれた。ホテルに着いて帰ろうとする彼に
思わず後ろから抱きついた。
こんなことしたって、どうしようもないのは
わかってる。でも少しでも長い時間一緒にいたい。

彼は私の気持ちを振り払いもせず、何も言わずに、ただ私の頭を撫でながら朝まで一緒にいてくれた。

彼の勤務する案内所の横は、バス停。
空港行きのバスに乗るために、一緒にバス停まで行った。


「ありがとう…楽しかった」


「エミンさん、ぼくも楽しかったです」


この言葉が精いっぱいだった。
泣かないと決めてたのに、どんどん涙が溢れてくる。


「泣かないで…」


彼はそう言うと、そっと指で涙をぬぐって包み込むように抱きしめてくれた。


バスが来た。
帰りたくない。

私の涙を見ながら、彼の目も潤んでる。
席に座ると、窓越しに彼の顔を見ながら
精一杯の笑顔を作った。

涙で顔はぐしゃぐしゃだけど、せめて笑顔を
覚えていて欲しくて頑張って笑った。

心の中で”サヨナラ”とつぶやいた。


また会いたい…イジュンさんにそう言ったら
何か変わっただろうか?私達は、連絡先も交換してない。彼がどの程度思っているかもわからなかったから、聞くに聞けなかった。

彼と出会った瞬間から、別れの一歩を踏み出しているのはわかってた…。


でも…会いたい。
彼に会いたい。

日本に帰って来てからも、彼のことが忘れられなった。一分一秒も、何をしていても彼のことが頭から離れない。


あの優しい顔、低い声…
忘れたいのに、忘れられない。


胸の痛みを抱えたまま、夏は過ぎて行った。


冬がきた。
ソウルは雪が降っているらしい。



私は、彼にプレゼントしてもらったキャップを被り、もう一度あの案内所を訪ねることにした。

彼はどんな顔をするだろう。
嫌な顔するかな?優しい顔でほほ笑んでくれるかな?覚えてるかな…。

ドアを開けると、そこに彼の姿はなかった。


「こんにちは、何かお困りですか?」


「あの…イジュンさんはいらっしゃいますか?」


「イジュン…あぁ、キム・イジュン。彼はもうここにはいません」


「え、今どこに?」


「ごめんなさい、私達にもわからなくて。彼は辞めたので」


「そうですか…わかりました。ありがとうございました」


泣きそうな気持ちを抑えて、明るく挨拶をして
案内所を後にした。

彼は辞めていた。
もうどこにいるかもわからない。
会いたいのに、会えない。
この空の下のどこかにいるのに…

私は、ひとり、あの日の想い出を辿りながら
ソウルの街を歩いた。

本当に彼は存在してたのだろうか?
そんなことまで考えてしまった。
私にとっては、非日常の空間。
夢のような時間。


あの夏の日のことは、きっと夢だったのよね。
そう夢だった…そう思い込むしかない。
この夜景を見ながら泣いても、涙を拭ってくれる彼はいない。

Ñソウルタワーのキーツリーに、恋人たちが永遠の愛を誓いながら、愛の南京錠を掛けている。

あの日と同じ場所に立ってみた。
彼がいるはずもないのに…
ふと、振り返ればいるような気がしたけど
やっぱりそこに彼の姿はなかった。

あの日と違って風が冷たい。
季節は動いてるんだ。自分だけが立ち止まって
いる気がした。

私は南京錠を手に持ち、月夜に照らした。
満月に想いを込めて、運命ならばまた出会えると祈り、この想いに鍵をかけた。

ひとりでは開けることの出来ない心の鍵を…



あとがき


今回、ひと夏の恋愛ドラマの原稿を募集していると伺って、勇気を出してチャレンジしてみました。

ひと夏の恋愛だから、ハッピーエンドもなく
そのまま終わってしまう恋にしようと思いつき
非日常の方がいいかなと考えて海外へのひとり旅にしました。

私は、2019年コロナの前に友人と渡韓したときに、目と鼻の先の宿泊先のホテルに辿り着けず、1時間もぐるぐる迷ってしまいました。
その時は案内所は見つけられなかったので
アプリを見ながら自力で到着したのですが(笑)

次の日の深夜に、ファッションビルで買い物をしたときに、am1時前にタクシーを拾おうとしたら1台も止まってもらえず、困り果てていた時に案内所があったので、そちらへ飛び込み相談させていただきました。

その時、案内所の方がとても親切な方で
1時に案内所の勤務が終わった後で
ホテルと同じ方向の深夜バスに乗るので
一緒に行きましょうと言って下さり
「ここで降りて、そこにホテル見えてますから」
と、優しく説明して下さった思い出があり
今回、その案内所の方をモチーフに作品を作ってみました。(顔も何も覚えていませんが、優しそうな方で左手には指輪が光っていました)

ソウルタワーの南京錠、ドラマで見たことはありますが、行ったことはありません。
いつか素敵な人と?(笑) 行ってみたいものです。

作品をアップしてから、読み直しをして
どんどん加筆しています。
説明や思いの足りない部分、心情をもっとわかってもらえるように増やしました。

キリがないと思いつつ💦

ラストは、ここで終わり…という最初の文だったのですが、含ませるような内容に変えました。
また変わるかも知れません(笑)


この作品は
clubhouse内のroom
クラブハウスの歩き方(大西恵美さん)主催
(毎週平日9:00〜11:00)
水曜日Cleary Brain
第4水曜日のラジオドラマ用に作った作品です。

ラジオドラマの時間が限られているので
実際に使った原稿は、clubhouse版になります。
下に原稿と音声版のYouTubeが貼り付けてあります。
良かったら、覗いてみてください。


最後までご覧いただきありがとうございました。

*この作品を、朗読される際は
Xか、InstagramのDMへご連絡ください。
よろしくお願いします。







































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