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Life is beautiful (a)

(年齢設定ありversion)

(女性)

50歳を過ぎたら、後の人生を楽しもうと決めていた。今まで1人でがんばってきたから。

仕事と家(うち)の往復…。

若い時は友達と旅行に行ったりしていた。
付き合ってくれる友達もいた。

でも、みんな家庭が忙しくなり旅行に誘っても、「そんな時間も余裕もない」「独身はうらやましいわ」「子供のことで忙しくて、どこにも行けないから」と断られる事ばかり…

気がつくと、いつも1人が多くなってきた。

今の世の中昔とは違って、お一人様が流行っているから、1人旅は行きやすい。
街を見てると、割と1人で食事をしている人や
旅行している人が多い。

今までは国内旅行に行っていたけど
思い切って海外に行こうと決めた。

60まであと数年。いつまで頑張れるかな?
今のうちに、1人で海外に行けるように慣れて
おかなきゃ。

そうして、秋のシーズンの良い時に休みを取って私は1週間の海外旅行に出掛けた。

1人もなかなかいい。
誰に気を使うこともなく、人のスケジュールに合わせることもない。
行きたい所も自分で自由に決められる。

この自由が、きっと手放せなくなるのかも。
面倒くさいことが苦手な年齢になったな。


(男性)

60歳を迎え、定年だがまだ会社にはいられる。
そうゆう良い時代がやってきた。

定年の記念にというか…
これまで仕事が忙しすぎてどこにも行ってない。自分に休暇をあげることにした。

今回は休みを長く取り、海外旅行に行くことにした。

出張で海外はあるけれど、プライベートでは初めてだ。どこに行こうか?
仕事で訪れて、気に入った都市に行くことにした。

ノープランなのも、一人旅のいいところ。
まずは、ホテルで少し休んでそれから散歩に出かけるか。

夜の街は心地良い…柔らかな風が吹いている。
ここは日本人が割と少ない。

1人でぶらぶらしていると、日本人の女性を見かけた。珍しいな。
その女性も1人で歩いていた。

最近は、女性も1人で旅をするんだ。
時代は変わったな。

カジュアルなレストランに入った。ロブスターのビスクと、スパイスのきいたレモンチキンを頼んだ。この食事には軽めの赤かロゼが合いそうだ。今日は、きりっと冷えたロゼにしよう。


気分よく食事を終え、外の風に当たる。
歩いていたら少し酔いが醒めるだろう。

部屋に戻りホテルの窓から見える景色は最高だった。
古い町並み、見ているだけで日常から離れ
癒される。仕事で訪れたときは、この景色の美しさには気が付かなかった。日本に帰るのが嫌になってしまいそうだ。


今日は時差もあってか、ベッドの上に横になったら、いつの間にか眠ってしまった。


(女性)

次の日の朝。ゆっくりと起きて、遅めの朝食を軽く済ませ街並みを散歩する。

この街は日本人が少ない。
ちょっとドキドキするけれど、でも日本人が少ないほうがいい。

ぶらぶら歩きながら、タイミングよく来た
ケーブルカーに飛び乗ってみた。

車内には日本人と思われる男性が1人座っていた。異国の地だからか、やはりつい目がいってしまうものだ。

男性の隣しか席が空いていなかったので
隣に座ることにした。


男性:「こんにちは、ひとり旅ですか?」

女性:「はい、そうなんです。ひとり旅ですか?」

男性:「ええ。いつこちらへ?」

女性:「私は昨日到着して、今日初めて街を散策してます。そちらは?」

男性:「僕も昨日です。昨日、お散歩されてるところをお見かけしました。この土地は日本人が少ないので珍しいなと思ったのですが、あなただったのですね」

女性:「え、昨日見られてたんですね。笑
なんだか海外で日本の方とお話しすると不思議な感じがしますね」

男性:「確かに(笑)お名前伺ってもいいですか?」

女性:「はい。〇〇です」(好きな名前で)

男性:「私は〇〇です」
「〇〇さんは、今回の旅の目的とかあるんですか?」

女性:「そうですね…旅をして知らない自分でも見つけられたら…それも楽しいかな?
旅することの素晴らしさって、自分を深く知ることもできますよね」

男性:「そうですね。また旅行中に出会った人たちから学ぶことも多いですね。たとえば、ローカルの人たちがお薦めするスポットや、文化的なことも含めて」

女性:「ええ。私も全く同じことを考えていました」(クスッと笑う)

男性:「今日良かったら、一緒にまわってみませんか?」

女性:「ご一緒しても良いんですか?」

男性:「ええ、一緒だともっと楽しく、良い思い出が出来そうですから」

女性:「ええ」


ーその日、〇〇が旅先で出会ったのは、60歳の男性だった。最初はただ旅先での話し相手として話をしていたが、数日過ごすうちに互いに惹かれ合っていったー

私達は旅行中、お互いの趣味や思い出話し
年齢もさほど離れていないので、共通点が多く
話していて居心地が良かった。

女性:「〇〇さん、スイーツにも目がないのね。
ワインも詳しいけど、ソムリエなの?」

男性:「いや、ただ好きで飲んでいたら覚えただけだよ」

〇〇は旅先のことにも詳しく、任せていたら
毎日色んなところへ連れて行ってくれた。

女性:「土地のことも、歴史にも詳しいのね」

男性:「世界史が好きだったんだよ。世界史検定持っててね」

女性:「すごい」

私達は話が合った。
興味のあることが似ていて、食の好みも…
一緒だった。

わからないことを沢山教えてくれる。
聞いていて楽しい。

たくさんワインを飲んで、久しぶりにいっぱい
笑った。

日常から離れて、私の気持ちは舞い上がっていた。


日本に帰国する前日。

夜の湖畔でくつろいでいると〇〇は〇〇に向き直って言った。


男性:「本当に素敵な旅だった。ありがとう」

女性:「こちらこそ、私も楽しかったです。
ありがとう」


旅先での恋愛は、ストレートで面倒なことが
省かれる。相手の気持ちを確認したり、探りを入れる必要もない。

ただフィーリングが合えば一緒にいて
合わなければそれまで。

会話や、空間、時間を楽しめばいい。

心地よければそれで良い。
お互いのプライベートのことは何も聞かない
言わない…。
そういうことなんだと、それが大人の付き合いなのだろうと思い込み、言いたいことは飲み込んだ。


男性:「本当に、〇〇さんありがとう。あなたに出会えたことで、旅が思い出深いものになりました。お元気で」

女性:「ええ、私も今回の旅で、〇〇さんに出会えたことが、私にとってのプレゼントかな。体に気をつけて…」


明るく挨拶したあと、なんとなく別れのハグを交わした。初めて体温を感じ、離れがたくなった。

だがどちらともなく、すっと離れ…
私たちはオトナのさよならをした。

離れなければ、そのまま流されてしまいそうだった。
そうすれば、この先の人生は違う景色が見えるだろう。
でも、一瞬の思いに身を任せられるほど若くはない。
自分を変える勇気もない。

ふたり、背を向けてそれぞれの場所へ歩きだした。振り向いてはいけない。

出会う運命の人ならば、またいつかどこかで
出会うだろう…。


f i n


お読みいただきありがとうございました。二次創作以外の作品を、初めて投稿させていただきました。

朗読はご自由に。読まれる際は、TwitterのDM等でご連絡いただけるとありがたいです。
よろしくお願いします。

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