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ラジオドラマ Fleeting Love (clubhouse版)

(clubhouse ラジオドラマ版原稿)

はじめに 

こちらは #Clubhouse のルーム"Clearly Brain × Everyday"に寄稿したラジオドラマ用の作品です。
8月のテーマは「ひと夏の恋」(正式には「忘れられないあの日の恋」)。
ラジオドラマスペシャルということで、普段は1本のところを3本放送されました。 
YouTubeリンクは他のドラマも合わせて最後に貼っています。

Fleeting Love


この夏、私は思い切って韓国へひとり旅を
することにした。

毎日何も変わらない、こんな日常から飛び出したくて。


確かこの辺なんだよね、ホテル。

えっと…あれ? こっちじゃない?
うーんどっちだろ?全然わかんない。どうしようかな。あ、案内所があった!



エミン「こんばんは、道を教えていただきたい
のですが」

イジュン「はい、どこに行きたいですか?」

(良かった日本語通じる)

エミン「ここなんですけど…ずっと迷ってて」

イジュン「このホテルなら、すぐですよ」

エミン「え?そうなんですか?」


案内所の彼は、ホテルまで送ってくれた。

え、1分もかからないところにあったのか…

エミン「カムサハムニダ~」

イジュン「またわからないことがあったら
いつでも来てください。夜中の1時まで開いて
ますから」

エミン「あ、ありがとうございました!」

なんて親切なんだろう。
良い人に出会えて良かった。

初日からこれじゃ不安だな…
すっかり自信なくなっちゃった。

明日カフェに行きたいんだけど…
おすすめの場所、案内所で聞いてみようかな?



エミン「あ〜こんにちは、昨日はありがとう
ございました」

イジュン「こんにちは」

案内所の前でばったり彼に会った。

エミン「あの…カフェに行ってみたいんです
けど…」

イジュン「この近く案内しましょうか?」

エミン「ありがとうございます」

エミン「日本語お上手ですね」

イジュン「子供のころ、少しだけ日本に住んでたことがあるので」

エミン「あ、そうなんですね」



私はお礼にお茶をご馳走したいと言ってみたが
これから仕事なので…と断られた。


イジュン「明日休みなので、良かったら
どこか案内しましょうか?」

エミン「良いんですか??嬉しい!なんだか一人で歩くの自信なくなっちゃって…助かります」

イジュン「大丈夫ですよ。明日ホテルに迎えに
行きますね」

なんて優しい人なんだろう。泣きそう。


イジュン「大丈夫ですか? えっと、お名前は?」

エミン「あ、恵美です」

イジュン「エミンさん?」

エミン「え、み。 あ、エミンでいいです」

エミン「あの、お名前は?」

イジュン「イジュンです」

エミン「イジュンさん…素敵なお名前ですね」


背が高く、顔はかわいいのに声が低くて
素敵な人。
海外で、男性とお出かけかぁ…ふふっ。
明日楽しみだな。


次の日、ホテルのフロントにイジュンさんが
迎えに来た。

イジュン「どこに行きたいですか? パッピンス食べますか? 何に乗りますか?」



私は”冬のソナタ”を思い出し、バスに乗りたいと言った。

イジュンさんと1番後ろの席に並んで座り、ソウルの街並みを眺めながらちょっとドキドキした。



なんだろう、この感覚。国籍も違うのに、彼の横はなんだか懐かしいような不思議な感覚。
黙っていても心地よい。


周りにはどう見えるかな?
付き合ってるように見えるかな?
それは、ないか…


バスを降りて歩いていたら出店のところで、彼が足を止めた。





イジュン「暑いから…これ」

そう言って、彼がキャップを被せてくれた。

エミン「え?」

イジュン「私からのソンムルです、受け取って
下さい」

エミン「プレゼント!!嬉しい…ありがとう」


こんなことされたことない、なんて自然なんだろう。久しぶりにキュンとしてしまった。
顔赤くなってないかな?

ふたりで目を合わせてくすっと笑った。

胸が…トクンっと、鳴ったような気がした。

会ったばかりの人なのに、好きになっちゃったのかな?

こんな時間がずっと続けば良いのに…。



屋台でチーズホットックをイジュンさんが
買ってくれた。

エミン「熱いっ」

イジュン「大丈夫ですか」

エミン「チーズが…」

イジュンさんは、優しくティッシュで口に付いたチーズを拭ってくれた。

こんなに優しい人、周りにいない。



夜は夜景が見たくてÑソウルタワーに行った。

一日中歩き回った最後のタワー。
足が前に進まない。



イジュン「大丈夫ですか」

エミン「うん、大丈夫ごめんなさい」

イジュン「手を貸して」

エミン「えっ…」

彼は手を差し伸べてくれた。


私は疲れていたから、遠慮なく手を出したら
彼はぎゅっと握り返してくれた。

手をつなぎながら、どこまでも続く階段を登る。




タワーからの景色は絶景だった。

言葉が…出ない。

私の中には色んな感情が溢れてきた…。


彼は今、何を考えているんだろう?
そういえば、お互いのことは、名前しか知らない。

繋いだ手を離すタイミングもわからず、そのまま繋いでる。
この手を離したくない。



彼の優しい顔…見てるだけで癒される。
つい、じーっと見つめてしまった。

彼は視線に気がついて、私を見た。

イジュンさん背が高いな…見上げてたら首が痛くなってきた。

すると、彼の顔が近づいてきた。


彼は…頭にそっとキスをした。
私は思わず抱きついてしまった。

彼は何も言わず、優しく抱きしめてくれた。



彼が何歳なのか?どこに住んでいるのか?
そんなこと、どうだっていい。
この時間だけが今は大切。

離れたくない…離れたくなかった。

このまま夜が明けなければ良いのに…。


彼は何も言わずに、一晩中そばにいてくれた。



案内所の横はバス停。
空港行きのバスに乗るために、一緒にバス停まで歩く。

エミン「イジュン…さん……」

この言葉が精いっぱいだった。
泣かないと決めてたのに、涙が溢れてくる。

イジュン「泣かないで…」

彼はそう言うと、そっと指で涙をぬぐって
包み込むように抱きしめてくれた。


バスが来た。
帰りたくない。

私の涙を見ながら、彼の目も潤んでる。

バスに乗り込み、窓越しに彼の顔を見ながら
”サヨナラ”とつぶやいた。




また会いたい…と言いたかったけど、言えなかった。私達は、連絡先も交換しなかった。


彼と出会った瞬間から、別れの一歩を踏み出しているのはわかってた。

でも……。会いたい。

やっぱり彼に会いたい。


日本に帰って来てからも、彼のことが忘れられなかった。

あの優しい顔、低い声…
考えたくないのに、頭から離れない。

胸の痛みを抱えたまま、夏は過ぎて行った。



冬が来た。
ソウルは雪が降っているらしい。


私は、彼にプレゼントしてもらったキャップを
被り、もう一度あの案内所を訪ねることにした。



彼はどんな顔をするだろう。
嫌な顔するかな?優しい顔で微笑んでくれるかな?

私のこと覚えてるかな?


ドキドキしながらドアを開けると、そこに彼の姿は見えない。

案内所の人「こんにちは、困ったことがありますか?」

エミン「あの…イジュンさんはいらっしゃいますか?」

案内所の人「イジュン…あぁ、キム・イジュン。彼はいないですね〜」

エミン「えっと…今どこに?」

案内所の人「ごめんなさい、僕たちもわからないです。彼はここを辞めました」

エミン「そうですか…わかりました。ありがとうございました」


彼はいなかった。
今どこにいるのかもわからない…。

私はひとり…あの日の想い出を辿りながら歩いた。



本当に彼は存在してたのだろうか?
そんなことまで考えてしまった。

この夜景を見ながら泣いても、涙を拭ってくれる彼はいない。



Ñソウルタワーのキーツリーに、恋人たちが永遠の愛を誓いながら、愛の南京錠を掛けている。



私は一人でこの想いに鍵をかけた。

開けることのない 心の鍵を…






この物語は
clubhouseでめぐねぇさん(大西恵美さん)主催の
クラブハウスの歩き方
(毎週平日9:00〜11:00)
こちらの水曜日Cleary Brain の中で
第4水曜日のラジオドラマ用に作った作品です。

作品の音声データはこちら⤴️
素敵に編集していただいてます。

エミン   kana
イジュン  小羽勝也

めぐねぇさんの素晴らしい編集で
作品が仕上がりました。
ありがとうございました。

今回、ひと夏の恋愛ドラマの原稿を募集していると伺って、勇気を出してチャレンジしてみました。

ひと夏の恋愛だから、ハッピーエンドもなく
そのまま終わってしまう恋にしようと思いつき
非日常の方がいいかなと考えて
海外へのひとり旅にしました。

私は、2019年コロナの前に友人と渡韓したときに、目と鼻の先の宿泊先のホテルに辿り着けず、1時間もぐるぐる迷ってしまいました。
その時は案内所は見つけられなかったので
アプリを見ながら自力で到着したのですが(笑)

次の日の深夜に、ファッションビルで買い物をしたときに、am1時前にタクシーを拾おうとしたら止まってもらえず、困り果てていた時に案内所があったので、そちらへ飛び込み相談させていただきました。

その時、案内所の方がとても親切な方で
1時に案内所の勤務が終わった後で
ホテルと同じ方向の深夜バスに乗るので
一緒に行きましょうと言って下さり
「ここで降りて、そこにホテル見えてますから」
と、優しく説明して下さった思い出があったので
今回、その案内所の方をモチーフに作品を作ってみました。(顔も何も覚えていませんが)

ソウルタワーの南京錠、ドラマで見たことはありますが、行ったことはありません。
いつか素敵な人と?(笑) 行ってみたいものですね。


*この作品を、朗読される際は
Xか、InstagramのDMへご連絡ください。
よろしくお願いします。


ラジオドラマ3本中のあと2本はこちら⤵️

やまねたけし作 『鮎と鯉』

めぐねぇ作『16年間~for sixteen years~』


最後までご覧いただきありがとうございました。

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