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お産の時「あなたにいてもらえてよかった」と言ってもらえたこと

助産師になるための実習、正確には助産師の国家試験受験資格を得るための実習の思い出で、
なにがいちばん思い出深いことかなぁとかんがえると、
いろいろあるなかでひとつ、病院のお産介助のケアをしたお母さんに、

「あなたがそばにいてくれて、励ましてくれて、支えてくれて、ほんとうによかった。」
と涙を流して言っていただいたことを思い出す。

「お母さんになった、●●さんが一番頑張ったんです。その支えを、助けをさせていただいて、私こそ、ありがとうございます。」
と、涙もろい私は、指導してくださる先生に、実習中あまり泣いてはダメ、と言われてるにも関わらず、ぽろぽろと涙が溢れた。

助産師さんや先生に教えてもらうことの多さ、お産という常に変化する状態へ向き合うことの緊張、手技の難しさ、記録の膨大さに押しつぶされ
毎日未熟さを噛み締めながらも、必死に向き合ってた私に、
こんな私でも、力になれていたのしれない、という喜びを与えてくれた。

“お産のとき、女性のそばに誰かがいること”
“産婦さんの状態についての説明とケアの必要性の情報を伝えること”
“産婦さんができていることを伝え、励まし、力を引き出せるように寄り添い、支えること”
助産師のあり方として、授業で習っていたことが、学生としてできることに限界はあるなかで、すこしできたのかな、と感じられた経験だった。

ICMという国際的な助産師の倫理綱領でも、
助産師とはどうあるべきか、が書かれていて、
大切なキーワードにとして、女性、家族、新生児、地域といった幅広い対象と分野で、
自立と尊厳をまもることや、
女性が考えをのべ、意思決定できるように支え、
ケアの決定に積極的にかかわれるように情報を共有する、といった
“ケアの相手の力、考え、思い、意思決定能力を引き出す”
という関係性が大切と述べられている。

https://www.nurse.or.jp/nursing/international/icm/basic/ethics/index.html

看護実習と助産実習で、大きく異なったのは、
お産は、常に変化し、その変化は時にすごいスピードでおこるものだった。
安全を確保し、そして正常からの逸脱を見逃さず、先を見据えてケアや治療を行う必要があるため、
看護計画という、『受け持たせてもらった方の状態の把握、これからの経過の予測、そしてどんなケアが必要で、なにを行うか』という計画を、
のんびり立てている時間などなく、
15分ほどでまとめ上げなければならなかった。
働いてからの助産師さんと同じように。

実習する病院や助産院も、実習期間も、学校によって様々で、
オンコールと言われる、お産があると電話で呼ばれて、夜でもケアをする場合や、
決められた日中の時間のみお産のケアを担当する場合もある。

私の場合、日中の決められた時間、つまり日勤帯のみ実習をさせていただいたため、
受け持たせてもらった産婦さんが日中にお産にならなかった場合、
時間いっぱいでその方のケアを離れなくてはならなかった。
だから、10例という実際に助産師さんの指導のもと、お産を取り上げさせてもらった方以外にも、
10人以上の方のお産を、途中まででも、ケアをさせてもらった。

「痛みを逃せるような呼吸がうまくできてますね」
「もうすぐ陣痛の波が終わりますよ」
「さっきよりも赤ちゃんは下がってきていますよ」
「腰のどこをさすると楽ですか?」
「強さはどれくらいがいいですか?腰を温めてみますか?」
学生だから、医療行為はできないこともあり、できることに限りはあるけれど、
その人の状態をアセスメントして、どんなケアが良いのか助産師さんに相談しながら考え、相手に伝え、少しでも良いお産になるように、と向き合ってきた。

そんな時、そばで立ち会う旦那さんの存在の大きさも、感じた。
産婦さんが触れてもらって、声をかけてもらって、ほっとするのは、
連れ添うと決め、赤ちゃんの誕生を一緒に迎えようとする旦那さんだろう。
腰をさする方法を伝え、旦那さんにしてもらったこともあった。
私の母は、お産のとき、立会いの家族はいなかったという。
数十年前は、安全のために家族の立会いが病院ではできないこともあった。

そばに誰かがいること、頑張っている自分を見守り、なにかしたいと思ってくれること、声をかけてくれること。
そしてそれが専門家ならば、つまり助産師や医師ならば、状態や経過を伝え、必要な治療やケアを行うことができる。
エンパワメント(empowerment )とは、
“個人や集団が自分の人生の主人公となれるように力をつけて、自分自身の生活や環境をよりコントロールできるようにしていくこと”
といわれる。

お産という人生で大きなイベントは、
経験したことのない心と身体への負荷がかり、
いろんな感覚を生み、思いを感じると思うが、
自分の赤ちゃんが生まれてくる、という、幸せもつまった時間だ。

お産に限らず、
自分で自分の状態がわからなくなったり、不安や苦しい気持ちが大きくなり、冷静になれなくなったりするときに、
あなたは頑張っている、あなたのそばにいる、あなたのためにできることをする、
あなたがより良くなれるように関わりたい、
と、そばにいる人がいることは、
その人が持つ力を、もっと引き出すことができるのではないかな、と考える。

実習をしていて感じていた。
お産をするのは、医療者じゃない、お母さんになる産婦さん自身なんだ、と。
だから、そのサポート、より良くなるような治療はできるけれど、
最後に産むのは、お母さんなんだ、と思った。
だから、その産婦さんに、お産に前向きに向き合ってほしいし、私が学生として学んできたこと、今も指導を受けながら学んでることのなかからできることをしたい、と
実習の後半から、特に思うようになった。

そんな思いが、冒頭の産婦さんに、伝わってくれたのかな、と思う。
人生で一度のお産、何度産むとしても、同じ経験はない、一度のお産を迎える産婦さんと家族に、
「あなたがそばにいてくれて、励ましてくれて、支えてくれて、ほんとうによかった。」
と言ってもらえるような助産師になりたい。

心のケアの面でも、
専門家としての確かな技術の面でも、
助産師として、そんな姿を目指したい。

4月から新社会人、助産師1年目だ。
不安でいっぱいだけど、きっと怒れてばっかりだし、落ち込むこともあると思うけど、
だからこそ、この思い出を胸に、1歩ずつ進みたい。

参考文献
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/glossary/Empowerment.html

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