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BEST COMBINATORIAL 2-PLAYER GAME OF 2022 内容紹介

この記事はアブストラクトゲーム Advent Calendar 2023 参加記事です。

BoardGameGeekのアブストラクトゲーム・フォーラムで有志により例年開催されている、2人用アブストラクトを対象としたBEST COMBINATORIAL 2-PLAYER GAME(ベスト・コンビナトリアル・2プレイヤーゲーム)の選考が今年も行われ、Nick Bentley(ニック・ベントリー)氏のStrands(ストランズ)の受賞が決定しました。おめでとうございます!(選考結果のページ

ニック・ベントリーさんは2015年にCircle of Life(サークル・オブ・ライフ)、2017年にBug(バグ)、2018年にBlooms(ブルームズ)で同賞を3回受賞しており、今回でなんと4回目の受賞です。ちなみに一人で複数回受賞しているデザイナーはそもそもニックさんだけです。

選考方法や過去の受賞作一覧は以下のエントリで紹介しています。


さて、残念ながら今年は私のゲームはどれも最終候補に残らず、せっかくなので投票で参加しようか…とも思っていたのですが、このころKickstarterの発送が予定より若干遅れていたため、身を入れてゲームをテストしている余裕もなさそうでそれも断念してしまいました。

とはいえ面白いゲームデザインが集まっていたので、いまさらながら最終候補10作の大まかな紹介だけでもしてみようと思います。(以下得票順になっています)

なお、今年もスティーブン・タブナー氏のご尽力により、候補作のほとんどがゲームエンジンai aiでプレイできるようになっています。


1.Strands(ストランズ)

by Nick Bentley

ストランズは接続ゲームの一種で、六角形ボードの各ヘクスに1~6の数字が割り当てられたものを使用します。ヘクスに書かれている数字と同じ数の石を一気に置くことができ(たとえば「5」なら、5と書かれているヘクス5つを選んでそのすべてに石を置きます)、すべて埋まったときもっとも大きいグループを持っているプレイヤーが勝ちです。

ストランズはBoardGameArenaにも実装されていますが、こちらでは標準セットアップのほかに数字をランダム生成で割り当てられるようになっていて、標準セットアップより人気があるようです。

ちなみに「グループの最大化」を勝利条件とするアブストラクトは、私の知る限りでは四角ボードを使うコレクター(2002年)が初出のようですが、ニックさんには六角形ボードをつかうこのタイプのアブストラクトの歴史的傑作キャッチアップ(2010年)があり、ストランズはある種キャッチアップのアップデート版ともみなされていた面もあったようです。そういう意味でもストランズの受賞には妥当感がある気がしますね。

ちなみに筆者はエステートという、若干ストランズに似たメカニクスのゲームを今年出しているのですが、これは特に影響を受けたということではなく、たまたま同じ時期に似た発想のゲームを構想していたという感じです。(エステートはボード端を接続するゲームで、遊んでみるとけっこうプレイ感も異なると思います)

2.Scaffold(スカフォルド)

by Andrew Lannan

ヘックスと同じタイプの接続ゲームで、一方のプレイヤーは四角ボードの東西の端、他方のプレイヤーは南北の端を自分の石のグループで接続することを目指します(斜めは接続とみなしません)。

これだけだとただのヘックスの亜種ですが、スカフォルドを特徴づけるメカニクスは「手番の石を置いたあと、盤上にたがいに石ひとつぶんだけ隔たっている自分のグループがあれば、その間に追加で石を置いてそれらを繋ぐことができる」というものです。条件を満たす限り、一手番内に連鎖的にいくつでも追加することができます。

四角形ボードで辺をつなげるゲームをデザインするとき、考えなければならないのがクロスカット、つまり2×2のスペースで2色の駒が✖形にクロスする形になると、どちらも接続できなくなり引き分けの余地が発生するという問題です(かといって斜め接続を可とすると、接続が容易過ぎてゲームになりにくい)。

しかしスカフォルドでは、斜めに石を配置すると(すでに別の地点でつながっているのでない限り)ただちに3つ目の石でそれらが接続されることになるので、クロスカットは原理的に問題になりません。四角形ボードでの接続ゲームの問題をユニークなアイディアで解決した点が評価されたようです。


3.Streetcar Suburb(ストリートカー・サバーブ)

by Drew Edwards

リソースマネジメントがあるユーロゲーム風のアブストラクト。開始時点ではボード上の各ヘクスに家を表す4色のコマがランダムに配置されます。プレイヤーは交互に (1)任意の家コマをボードから取り手元に置く (2)ヘクスの間に線(路線)を2辺分つなげて引く、の2つのアクションを行います(先手番のみ路線を1辺分だけ引きます)。

家コマを除去したとき、ちょうど3つの家コマに接している空ヘクスがあれば、その位置にビルを建てます。ビルの色と高さは、接している3つの家コマの色によって次のように決定されます。 a) 3つのうち2つが同色→その色の2階のビルを建てる b) 3つとも同色→その色の3階のビルを建てる c) 3つとも色が異なる→そこにない色の1階のビルを建てる。ただし、ビルに接している家コマは除去できません。

除去可能な家コマがなくなったらゲーム終了し、スコア計算を行います。スコアは「自分の路線につながっているビルの階数×手元にあるその色の家コマ」の合計です。ただし、路線は途切れるごとにマイナス10点のペナルティが発生します。

路線引きの陣取りと家コマの取り合いに絶妙なインタラクションがあり、特に色のメカニズムはよく思いついたものだと思います。アブストラクトファンの好み直球という感じではないのですが、まだ製品化されていないことが不思議なほどのクオリティです。


4.Lifeline(ライフライン)

by Michael Amundsen, Luis Bolaños Mures

ライフラインは拙作メリディアンと関連のあるゲームで、一言でいうと視線メカニクスのないメリディアンです。

メリディアンでは、同一直線上かつ相手の石に妨げられない位置に味方のグループがない(=見えない)グループは死んだグループとして除去されるのですが、ライフラインでは同一直線上である必要はなく、(連続した)空きスペースを介して他の味方グループと繋がっていれば生きたグループとして扱われます。

また正六角形のボードを用いる点、手番で石を置いた直後に相手の死んだグループを除去する点などもメリディアンとの違いです。

ネガティブスペースを介してグループがつながる、という発想が斬新で、発表当時は受賞候補筆頭と思われたのですが、BGAへの実装後、メリディアンと比べて配置の自由度が高いぶん序盤の指針を持ちにくかったり、戦略が固定化しやすいといったプレイ上の側面が明らかになってきたかなと感じられました。

5.Slidestone(スライドストーン)

by Joshua Snead, Jonathan Snead

駒をボード端かほかの駒ににぶつかるまで直線移動させていき、中央のスペースにうまく到着させたほうが勝ちというゲームで、日本のキングスヴァレースライプのゲーム性を六角形ボードに移したような感じです(キング駒はありません)。

ルールが簡潔なことで票を集めたように思いますが、上記の四角形ボードを使うゲームと比べて面白くなっているかというと、もどかしさが勝つ面や有効な移動が限定されそうな面(どの石を初期位置に残しておくか等)が筆者は気になりました。

ちなみにこの「何かにぶつかるまで直線移動する」スライド移動のメカニクスを使ったゲームで有名なのはアレックス・ランドルフのハイパーロボット (1999) ですが、調べた限りではアウトウィット (1978) あたりからアブストラクトで使われ始めたもののようです。

6.boop. (ブープ)

by Scott Brady

ブープは同じ作者のGekitai (2020) の商業版で、6×6マスのボードを使用する三目並べです。特徴は「衝撃波」のメカニクスで、駒をあらたに配置するとき、その駒に隣接する既存の駒はすべてそこから遠ざかる方向に1マスずつ動きます。

過去の記事でも少しふれたように、同様の衝撃波のメカニクスはモメンタム (2010) などですでに使われているのですが(ただし押されるコマの処理が少し異なる)ブープでは三目並べというメジャーな勝利条件と組み合わせたことで親しみやすいゲームとなりました。

このゲームは2022年のメンサセレクトに選ばれたこともあり、欧米で商業的に非常に成功していて定番アブストラクトになりそうな勢いがあります。これも過去に話題にしましたが、商業的な成功がかならずしもアブストラクトコミュニティの評価につながらなかったのは興味深いところです。


7.Laniakea(ラニアケア)

by Marco Teubner

高品質な木製ゲームで知られるClemens Gerhardの新作の一つで、同社にはめずらしくハワイモチーフのアブストラクトです。基本的にはいわゆる横断ゲームですが、ボードにタイルを差し込みスライドさせるギミックがあります(雰囲気はだいぶ異なりますがシャトルという古いゲームを思いださせます)。

手番ではボード手前に並べられたコマを、一歩前のタイルの亀が描かれていないスペースのどこかに配置するか、すでに置かれている自分のコマの一つを前後左右に動かす、というアクションを2回行います。その後、最後に動かしたコマが載っている行の右か左から、余っているタイルを差し込んでずらします。

亀の上にコマを載せることはできません。コマは敵味方に関わらず3段まで重ねることができ、移動時は1番上のコマだけ、高さに応じた距離をジャンプすることができます。タイルをずらすアクションによってボードから落ちたコマは持ち主のもとに戻ります。8個のコマのうち5つをゴールさせたプレイヤーが勝ちです。

2スペース分ずつずれるスライドギミックとスタックルールの組み合わせがかなり曲者で、慣れないと移動後の状態がなかなか予測できません。のどかな見た目に似ずかなり上級者向けのアブストラクトという感じです。

8.Shape Chess(シェイプチェス)

by Richu

四角形ボードを使うパターンマッチゲームで、手番では自分の駒を空きマスに追加するか、盤上の自分の駒を任意の空きマスに飛ばすか、相手の駒を1マスずらしてそこに自分の駒を追加します。6つ以上の自駒のグループで線対称の図形ができると、(グループの駒の数-5)点を得てそのグループを除去します。4点先取で勝ちです。

「対称」の判定はその駒グループの一部ではダメで、つねにグループ全体をみられるため程よい難しさがあります。よくある〇目並べ型のパターンゲームとくらべて攻防の入り組み方が抜群に面白く、候補作の中では筆者の一番のお気に入りだったので、あまり票が伸びなかったのは少々残念でした。

シェイプチェスはもともと2010年に発案されましたが、独自のコミュニティでルールを調整・洗練されていったという経緯があるようです。〇点取れば勝ち、といった勝利判定はアブストラクトでは恣意的とみなされる余地があることや、通常アクションの選択肢が多いことなどが票が集まらなかった理由かもしれません。


9.Iriri(イリリ)

by Hoembla

こちらもパターンマッチゲームで、おそらく今回の候補作中もっとも独創的なゲームです。「言葉のないワードゲーム」がコンセプトになっています。大・中・小の3つの大きさがあるコマ(ルーニーピラミッド)の使用が想定されていて、ボードはありません。

ピラミッドは各自の色でサイズごとに5個、合計15個ずつ使用します。まずプレイヤーは自分の色のピラミッドを3つずつ選んで手元に置き、残りは色をまぜてランダムに円環型に並べます。この円環を「辞書」と呼び、辞書の中にある2個以上のピラミッドの並び方を「単語」と呼びます。

手番では、手元の3つのピラミッドから1~3個を共通の場に配置します。ピラミッドを出すときは、すでに置かれているピラミッドの縦か横に接するようにします(先手の最初の配置以外)。かつ、その配置は「辞書」の中の「単語」のいずれかに一致していなくてはなりません。

ピラミッドを配置するごとに、できた「単語」につき1点を獲得します(1つの配置で複数の得点を得ることがあります)。最終的に総合得点が高い方が勝利です。

あまり例のないメカニクスということもありますが、1手ごとに変化する「辞書」と場の両方とにらめっこしつつプレイする必要があり、やってみるととにかく難易度の高さを感じます。楽しさを感じられるところに到達するまでのハードルの高さが票が控えめだった原因だと思われます。


10.Paintbucket(ペイントバケット)

by Michael Amundsen, Alek Erickson

オセロのように駒をひっくり返すゲームです。非常に簡潔なルールで、駒をチェッカー柄に並べた状態で開始し、手番プレイヤーはただ縦横でつながっている相手の駒のグループの一つを選んで裏返すだけ、自分の色の駒がなくなったら負けです。

駒のグループを裏返すたびに必ず盤上のグループの数が減るので、ループは起こらず必ず勝者が決まります。ともに有限性とシンプルさにこだわる両作者の面目躍如たるデザインで、これでちゃんとゲームとして成立していることに驚かされます。

若干気になるのは、毎手番に駒をグループ単位でひっくり返すため、物理的なコンポーネントだととても遊びにくいという点です。投票者がその点を考慮したのかはわかりませんが、物理的なコンポーネントでも十分遊べるストランドと比べてその点で明暗が分かれたかもしれません。



以上10作品でした。来年も開催されることと思いますが、次はどんな新しい発想に出会えるのか楽しみでなりません。

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