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謎のボードゲーム「PICKIT」のルールを調べた

この記事はアブストラクトゲーム Advent Calendar 2023 参加記事です。

経緯

2020年にアブストラクゲームのデザインを始めた頃から、勉強のためネット上にあるアブストラクトゲームの情報を収集し自分用にデータベース化するという作業を行っています。

意外と面倒で最近少しさぼり気味なのですが、ざっと数えて1500程度のタイトルが画像、ルール、主要メカニクスなどの摘要と参照用リンクともにまとめられていて、ルールを思い出したり、類似するゲームを探したり、特定のメカニクスの発生時期を推定したりするのに便利です。

そうした収集作業を行っていると、当然ながら「画像やタイトルの情報はあるけど詳細が分からない」ゲームに行き当たることがあります。そういう場合は「詳細不明」カテゴリに入れておいて何かのきっかけで詳細がわかるのを待つのですが、中にどうしても気になるものがありました。「Pickit」(ピキット)というゲームです。

戦中期の1937年に、アメリカの老舗パーカー・ブラザーズから出版されたもので、当時のゲームでしばしばあるように作者はクレジットされていません。

BoardGameGeekのデータベースでは、三本の軸のあるボードに薄いディスクがいくつも重ねて差し込まれている写真があるのですが、記事執筆時点で本文には4行程度の漠然とした内容しかなく、52枚の穴の開いたディスクを使い、なるべく相手のスコアを増やすようにするゲームであることがわかるくらいで、実際のプレイの流れや、写真左下の小さいディスクの役割など何も分かりません。

このゲームが気になった理由は、見た目の似たアブストラクトゲームがなく、ルールが類推できなかったためです。三本の軸のあるボードは古典パズルの「ハノイの塔」でも使われていますが、ハノイの塔(に似たもの)にしてはディスクが多すぎます。何か現代では失われた斬新なメカニクスが使われていたりするかもしれない、と思ったんですね。


調査方法

Google検索では詳細が分からなかったため、アブストラクトゲームに興味を持っている人が集まっているネットコミュニティでまず情報を募集してみました。

まずBoardGameGeek(BGG)のアブストラクトゲームフォーラム。ここには趣味的なアブストラクトデザイナーが多く集まっており、私もルールの検証などでお世話になっています(メリディアンはここで激賞されたことで多数のプレイサイトへの実装につながりました)。

次にFacebookのグループAbstract Nation。こちらはどちらかといえば愛好者・プレイヤーのコミュニティで、新作ゲームの情報などが共有されていることが多いです。

これらのコミュニティで質問を投稿したところ、知っている人は見つからなかったのですが、BGGの管理者もやっている方から、Strong National Museumに所蔵されているから説明書のコピーを頼んでみたらどうか、というアドバイスを受けました。

Strong National Museum はニューヨークにある、玩具を専門とした国立博物館です。所蔵する文書のリストが公開されており、日本の公共図書館のような感じで複写サービスが利用できます。実は最初に検索したときにもこの博物館の所蔵ページがヒットしていたのですが、そのときは何を意味するページなのかよくわからずスルーしてしまっていました。

外国人が利用できるのか不明でしたが、メールで問い合わせてみると同意書と10ドルの費用を支払うための決済ページへのリンクを案内されました。この後クレジットカードが認証されなくてしばらく間が空いたりといったあれこれがあったのですが、最終的に無事説明書の写真コピーをPDFで手に入れることができました。

以下がところどころ潰れた文字を判読して分かった内容です。

Pickit ゲーム内容

ピキット - トレードゲーム
3人から6人用

コンポーネント

・穴付きディスク52枚:赤22、白11、青7、紫8、黄4
・小型の赤いディスク(カウンターディスク)200枚
・3本の軸のあるボード

遊び方

プレイヤーの一人をディーラーとして決める。ディーラーはカウンターディスクを30枚ずつすべてのプレイヤーに配り、穴あきディスクをシャッフルして、ボードの3つの軸にランダムに置いて3つのスタックを作る。各スタックは同じ高さでなくてよい。

ディーラーの左隣りのプレイヤーから手番を開始する(以降左へ手番を送ると思われる)。手番プレイヤーは、3つのスタックのうちのいずれかから、一番上のディスクを取る。このとき、同じ色のディスクが重なっていたらそのすべてを取らなければならない。

紫と黄のディスクはペナルティディスクであり、1枚取るごとにそれに応じて手持ちのカウンターディスクをテーブルの中央へ支払わなくてはならない。紫は1枚につきカウンターディスク1枚、黄は1枚につきカウンターディスク2枚を支払う。

得点

スタックのディスクがなくなったら得点計算を行う。獲得したディスクのうち、赤は1枚につき1点、白は3点、青は5点。ペナルティディスクの紫は1枚につきマイナス1点、黄色はマイナス2点になる。プレイヤーごとに総合得点を計算して記録し、ディーラーを変えてゲームを繰り返す。

通算得点が101点以上になったプレイヤーは脱落(負け)、また手持ちのカウンターディスクが尽きたプレイヤーも脱落する。

通算得点が81点~100点のプレイヤーは、カウンターディスク5枚を支払うことで、2番目に通算得点が低いプレイヤーと同じ点数まで自分の得点を「買い下げ」ることができる。買い下げは1ゲームにつき一人2回までしか行えない。

最後に残ったプレイヤーが勝者となり、中央のカウンターディスクをすべて受け取る(複数回プレイするときの得点になると思われる)。

子供向けの簡略版ルール

穴あきディスクはランダムに3つの軸におく。チップは色に関わらずすべて1点。カウンターディスクは使用しない。1ラウンドのみ行い、スコアの最も低い者が勝ち。

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以上のようなゲームでした。スコアを低くしなければいけないので「ペナルティディスク」は得のように見えますが、カウンターディスクを失うと「買い下げ」ができなくなるので取りすぎると結局損になる、その辺のギリギリを狙うチキンレース感とか、得点の高いディスクを誰かが取らざるを得なくなるまで押し付けあう、といった展開が想像でき、パーティゲームとして面白そうです。ルールが理解できるとPickit = Pick it だということにも気づきます。

ゲームのタイプとしては、ボード上の得点チップを取っていくもの(Hey That's My fish! など)のミゼール(勝利条件が逆)と言えそうですが、垂直に取っていく形は珍しいです。どちらかというとアブストラクトよりもむしろカードゲームなどに類似するものがありそうな気がしました。あと3人からとなっていますが、調整すれば2人用ルールも作れそうです。

あまり知られていない戦中のこんなゲームがあったよという話と、アメリカの公共施設はこんな使い方もできるよというお話でした。



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