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パー タム (Pah Tum) は捏造されたゲームだったようです

2022年からクラシックシリーズの1作として、クラウドファンディングののちクィーンズガード、モリスとともにウェブサイトで販売していたパー タム (Pah Tum) というゲームについて、再調査の結果、実際には各サイトで説明されているような古代アジアのゲームではなく、おそらく捏造された現代のゲームである可能性が高いことがわかりました。

↑ ページは残していますが販売は停止しています。Kanare_Abstract版では私が考案したオリジナルヴァリアントも付属しており、現代のゲームとして十分楽しめる内容になっていたと自負していますが、古代のゲームに対する興味から購入された方も少なくないと思いますので、購入された方々、ならびにおそらく誤った情報を伝達する結果となりましたことに対してまずはお詫びを申し上げます。

パー タムについては、BoardGameGeek(BGG)のデータベースのほか、ドイツ語版Wikipedia、SuperDuperGames、BrainKingなど少なくないサイトに掲載されており、また丸革スタイルで古典ゲームとして販売しているドイツのサイトも2つ確認できます。後者のページには、Quwellen(情報源)としてドイツ語版Wikipediaと、Erwin Glonneggerの著作『Das Spiele-Buch』が挙げられていました[1]

出版時点でこれらのことは確認しており、『Das Spiele-Buch』の記載内容にも興味があったのですが、日本からドイツの古書を取り寄せるのは若干高くついたため、つい躊躇して未確認のままで販売に踏み切ってしまいました。しかし最近、Facebookを通じてこのゲームに興味を持っている方と連絡し、この書籍の内容を確認してもらったところ、このゲームに対する言及がどこにもないということがわかりました。

改めて情報源を探索したところ、書籍や論文検索でも、ネット上の情報を転載したもの以外は見つかりません。記録されているかぎりでは、2006年の下旬にBrainKingに作られたページ[2] が、現状確認できる最古の情報源のようです。ボードゲームの歴史を研究している方からも、おそらく捏造だろうとのご意見をいただきました。

また、英語版WikipediaではPah Tumのページが一度作成された後,
2014年に削除されており、削除依頼での議論において情報源を精査した記録も残っています[3]。実は英語版が削除されていたことまでは気が付いていたのですが、Wikipediaでは単に情報源が十分記載されていないというような理由で記事が削除されることがあるため、あまり気に留めていませんでした。削除記録の議論をちゃんと確認することにまで思い至っていれば出所の怪しいゲームかもしれないということに気づいていたと思うのですが、このあたりもいかにも迂闊でした。

以上のことから、現時点ではパー タムは古代のゲームではなく、2000年代に匿名の作者によって作られ、おそらくゲームに箔をつけるために「紀元前アジアに存在したゲーム」という虚偽の来歴を付与されたものがそのままネット上で流通してしまったものである可能性が高い、と判断しました。

なお、同じように来歴の捏造が疑われていたアブストラクトゲームにボベイル (Bobail) があります。こちらは当初アフリカの伝承ゲームとされていたのですが、自分のコマと中立コマを同時に動かして後者を相手側の後列に運ぶという内容でロバート・クラウスのニュートロン (1978) に酷似しており(まったく同じではないのですが)、メカニクスの面からみても他のいかなる伝承ゲームとも関連性・類似性がありません。このゲームの出版者ははじめアフリカから持ち込まれたゲームと表明していたのですが、のちにニュートロンが原作であると認めたようです[4]

実はボベイルについても、汎用ボード「スクエア」セットに付属させるルールの一つとして検討していたことがあるのですが、上記のような不自然な点に気づいて思いとどまったという経緯があります。しかしボベイルとは違い、パー タムのメカニクスは十分素朴に思われ、特異なスコアリングルールも古代の知識を伝えるもののように感じられたため、そのような勘がうまく働きませんでした。日頃フェイクニュースの類には気を付けているつもりだっただけに忸怩たる思いです。


このようなわけで(可能性は低いと思われますが)今後新たな情報源が発見されないかぎり「パー タム」の販売を停止し、ウェブサイトのカタログからも削除することにいたしました。ただ製品のアートワークやヴァリアントルールは私も気に入っており、遊ぶこと自体は問題なく可能であるため、上記のような事情を踏まえたうえでなお購入したいという方がもしおられれば、個別にご連絡いただければ製作可能です。


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