SEEKした先に見えた長瀬有花のルーツ~長瀬有花 コンセプトライブ「SEEK」ライブレポート~
Seek,and you shall find it again.
セットリスト
1.ロビンソン / スピッツ
2.車輪の唄 / BUMP OF CHICKEN
3.みずいろのきみ / 長瀬 有花
4.ミス・パラレルワールド / 相対性理論
5.駆ける、止まる / 長瀬 有花
6.ライカ / 長瀬 有花
7.異世界うぇあ / 長瀬 有花
8.ユリイカ / サカナクション
9.微熱煙 / 長瀬 有花
10.今日とまだバイバイしたくないの / 長瀬 有花
6月25日、だつりょく系アーティスト長瀬有花のコンセプトライブ「SEEK」が開催された。初の全編三次元ライブで行われ、「SEEK」に際して、ゲリラ路上ライブやHPの謎解きなどファンを楽しませる仕掛けが実施された。
「SEEK」には「見つける、求める」という意味がある。findやseeなどよりも探すという意味が強い。
私たちファンが長瀬有花の何に惚れたのか、長瀬有花がSEEKしてきたものは何だったのか。
ちょっと、SEEKしてみよう。
私たちと長瀬有花の思い出のSEEKを始めてみよう。
SEEK in advance
ライブのMCで長瀬有花はこう言った。
「“SEEK”には、あなたが自分を見つけ出してくれたあの瞬間を、思い出してもらえたらなぁという思いを込めています。現代はインターネットの中で日々たくさんの作品が飛び交い、それらを片手間に大量に手に入れることができる時代です。だからこそ、ここではたった1つのものを、自分の意志で探し出すことの楽しさを、味わってもらえたらいいなと思っております」
「SEEK」はこのコンセプトが十分に発揮されていた。
もはや定番となった長瀬有花のライブHPには謎が散りばめられ、スペシャルページに入るにはパスワードが必要だ。
RIOTのdiscordサーバーには#SEEK情報班 が作られ、少しづつ明かされる暗号を解き明かしていった。謎解きARGのようなゲームはまさに"一つのものを、自分の意志で探し出すことの楽しさ"をファンに気付かせてくれただろう。
また、路上のゲリラライブも複数回実施された。
ゲリラライブとは元来、インディーアーティストをSEEKする場所だ。今この瞬間も東京のあちこちでゲリラライブが行われており、ダイヤの原石を輝かせている。私たちはインターネット上で長瀬有花という一人の才能をSEEKした。今回のゲリラライブを通して、長瀬有花をSEEKした瞬間の感動を追体験したファンも多かっただろう。
SEEK to YUKA NAGASE
「最も影響を受けたアーティストは誰ですか?」という音楽業界鉄板の質問がある。それは、音楽というカルチャーが先人たちから脈々と受け継がれてきたもので、そのアーティストの原点を探すために必要な問いだからだ。
多くの有名なバンドがコピーバンドからスタートし、好きなコンテンツを模倣することから始めている。その過程の中で、好きなコンテンツへの構造を分析し、メッセージを汲み取り、自身の血肉となり新たな表現を獲得していく。それがオリジナリティの王道で、ゼロからアイデンティティは生まれない。文脈を受け継ぐことがオリジナリティの第一歩だ。
長瀬有花のカバー楽曲やTwitter、絵日記は彼女の好きで溢れている。
長瀬有花も先人たちの音楽へ好きを表明することで、彼女がもつ価値観やセンスをファンに伝え、独特の世界観を表現してきた。
平成レトロ
長瀬有花といえば、ブラウン管テレビを思い出す人も多いだろう。
活動開始当初からノスタルジーな平成レトロを長瀬有花は表現してきた。
90年代~00年代前半、デジタルとアナログが混ざった日本のエンタメの全盛期と呼ばれる時代を長瀬有花は大好きだ。彼女の趣味が駄菓子の袋収集であることが代表的かもしれない。
長瀬有花のレトロ趣味はカバー楽曲たちにも反映されている。
チキンライス - 浜田雅功と槇原敬之// covered by 長瀬有花
今回披露された「ロビンソン」、「車輪の唄」は90年代、00年代トップアーティストの位置にいたスピッツとBUMP OF CHICKENを代表する楽曲の一つだ。ともに夏の始まりを告げる歌で、楽曲とともにノスタルジーを掻き立てる。
「SEEK」では、ライブの先頭にこれらの楽曲を歌い上げることで長瀬有花そのもののアイデンティティを表明している。
相対性理論
放課後ディストラクション (AfterSchoolDi(e)stra(u)ction) - やくしまるえつこ // covered by 長瀬有花
長瀬有花チャンネルの最初の動画は放課後ディストラクション。彼女が尊敬するアーティストの一人である相対性理論のやくしまるえつこの楽曲カバーだ。
長瀬有花は相対性理論をよく歌う。
彼女の声質にマッチしているのはもちろんのこと、彼女自身が大好きなことも大きいだろう。
今回のライブでも「ミス・パラレルワールド」を披露しており、多くのファンを感動させた。特にアコギに合わせてピアニカで演奏する様はアナログ的ノスタルジーの良さが表れている。
また、今回「SEEK」のパンフレットは下北沢で撮影されているが、相対性理論が見出されたのも下北沢だった。相対性理論はたまたま自主制作音源『シフォン主義』を置いてもらっていた下北沢のハイラインレコーズを訪れたレコード会社の人間からの誘いでプロのミュージシャンとして活動するようになる。
憧れの相対性理論と同じ場所で路上ライブをする長瀬有花を私たちはSEEKする。尊敬する相対性理論の追体験として長瀬有花はそこにいた。
サカナクション
彼女は何回も「新宝島」をカバーしている。
新宝島(Shin Takarajima) - サカナクション // covered by 長瀬有花
1stlive「Alook」でも歌われた彼女お気に入りの一曲だ。新宝島のステップを楽しそうに歌っていた彼女の姿を忘れることはできない。
直近では「アイデンティティ」をカバーしている。
アイデンティティ - サカナクション // covered by 長瀬有花
今回のライブでも「ユリイカ 」が披露されている。ゆったりとしたビートから少しづつ気分が高揚していくサカナクションらしさが存分に出た楽曲だ。この楽曲を長瀬有花は激しく歌った。
「ユリイカ」は東京という情報に満ち溢れた街で「生き急ぐな」ということを伝えている。
映画や音楽を倍速再生して消費する時代である。
「たった1つのものを、自分の意志で探し出すことの楽しさ」が「SEEK」のコンセプトであるのなら、これほどぴったりの選曲は他にないだろう。
普段の長瀬有花の配信も「生き急ぐ」とは真逆のコンセプトで行っている。忙しない都会のオアシスのような空間は長瀬有花のライブ配信の特徴だ。
「今週もゆっくりほどほどに頑張りましょう~」という声で長瀬有花のライブ配信は終わる。だつりょく系アーティストとしての長瀬有花のアイデンティティは確かなものになっている。
SEEK out originality
先ほど挙げたように、一年と少しの間、長瀬有花は確かに自身の好きを表明してきた。カバー楽曲やTwitter、生配信や絵日記などを通して確かなものを発表してきた。
これらが少しづつ混ざり、オリジナル楽曲とともに熟成され、彼女がもつ独特のアイデンティティを表現する場所がライブだ。
3曲目に歌われたのは今回が初披露となる新曲「みずいろの君」。
アコースティックの素直なギター音が長瀬有花の優しい歌声を際立たせる。そっと寄り添ってくれるようなチューンは"だつりょく系"と表する彼女にぴったりの新曲だった。
そして、5曲目に歌われたのは「駆ける、止まる」。続けて「ライカ」「異世界うぇあ」を披露。1stアルバム「a look front」に収録されたこれらの楽曲は原曲とは異なるアコースティックアレンジが施され、ゆったりとしたテンポの楽曲となっていた。
「駆ける、止まる」は長瀬有花の初のオリジナル楽曲であり、彼女の代表曲だ。長瀬有花独特の世界観を一番最初に表明した楽曲とも言える。今回のアレンジは妖艶に叙情感たっぷりと歌い上げた。
ライカでは、新しくビデオシンセサイザーを活用。常に新しい表現方法を模索していることも長瀬有花らしい。
「異世界うぇあ」では、ステージを降り、会場を広く利用して楽曲を歌い上げた。1stライブ「a look 」ではバーチャル空間で情熱的に歌い上げた楽曲だったが、「SEEK」では、しっとりとしたバラード風のアレンジが加えられている。このことがバーチャルとリアルの違いを際立たせる。「次元を超えるアーティスト」もまた、長瀬有花のコンセプトだ。
最後のMCで「長瀬は初めてあなたが自分を見つけてくれた瞬間を思い出してくれて楽しかったです」と感想を述べつつ、「これから出会うあなたも、長瀬有花は、いつでもここで待っています。安心して探し出してくださいね」とまだ見ぬあなたへメッセージを伝える。
その直後、聞き慣れたイントロともに始まった9曲目は新曲「微熱煙」。
「SEEK」の宣伝で使用されていた楽曲がここで披露された。アニメOPのような徐々に疾走感が上がっていく楽曲は今後彼女の代表曲となりそうな雰囲気を備えており、長瀬有花はこの楽曲をドラマティックに歌い上げていた。
そして、照明が降りるとともにエンディングテーマ「今日とまだバイバイしたくないの」のインストが始まった。
リズムにのりやすいディスコチューンを背景にライブ後の楽しそうな片付けが映し出される。さながら映画のエンドロールを見ているようだった。また、2番から長瀬有花が会場を歌唱しながら散策する様子は多くのファンを驚かせた。
そして、終演後、ブラウン管テレビの中から汽元象レコード(KIGENSHO RECORDS)が発表され、不思議な余韻を残しながら「SEEK」は終演した。
SEEK for something
今俺に「最高にアバンギャルドでロックなVtuberは誰か?」と聞かれたら、「長瀬有花」と答えるだろう。
これは、長瀬有花がリアルで表現をしているからではない。
バズとスピードが重視されるインターネットの世界で、自身の好きを表現し、自身と向き合ってゆっくりと血肉にしていくドキュメントを表現しているからだ。流行り廃りなんて関係なく、ロックミュージシャンの王道の道のりを確かに歩んでいるからだ。
弾き語り生配信も路上ライブも、多くの先人たちが歩いてきた道のりで、そこに長瀬有花は確かな足跡を残してきた。「SEEK」もライブハウスでのリアルライブという新たな足跡をまた一歩残した。
そして、「SEEK」は初めて長瀬有花を見つけたときの気持ちをファンに思い出させてくれた。同時に、長瀬有花のコンセプトはもう「長瀬有花」としか言いようがないほどにオリジナリティに溢れているということを再認識させてくれた。もう最高に立派なアーティストである。
今回は初のコンセプトライブということになっているが、「長瀬有花」というコンセプトは今後ともずっと続いていくだろう。そして、確かなミュージシャンとしての道のりを進んでいくだろう。
一人のファンとして、好きなことを表現している女の子がミュージシャンとして大成していく姿をゆっくりと見守っていきたい。
こちらこそ出会わせてくれてありがとう。
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