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俳句鑑賞 ひらくヨムヨム001

巨大蛸(クラーケン)の白夜を歩く針のごと

小田島渚 第39回兜太現代俳句新人賞受賞作「真円の虹」より

 天地創造の頃より存在するという得体の知れない怪物が、ノルウェーの白夜に身を晒している。大きさは一つの島ほどもあると云う。何本あるか知れない足と触腕を、針のように鋭く、街に森に氷原に突き立てて歩いている。本来ならば、この偉躯を人が目にすることはないのだが、日の沈まぬ時計の壊れた世界ならばむべなるかな。
 いやひょっとすると、クラーケンは異空間にある時計盤の上を歩いているのではなかろうか。数多の時針を突き立てて、ゆっくりと、でたらめに夜を進めているのだ。新しい朝の来る夜なのか、世界終末の夜なのかは分からない。
 掲句はある意味で十七音を超えている。あたかも北極圏の不眠症の人々が、厚いカーテンのかすかな隙間から怪物の姿を垣間見て残した、恐るべきサーガの一節のようである。

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