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俳句鑑賞 ひらくヨムヨム002

ソフトクリーム舐むれば個人的な崖

西生ゆかり

 二十一世紀に入って日本人の主語は小さくなった。団塊から少子化へ、高度経済成長期から失われた20年へ、SNSの流行とか価値観の多様化とか、理由を挙げれば枚挙にいとまはないだろう。いつしか周囲に気を遣った「個人的には」という言い回しが一般化した。
 対して俳句では、以前から「私」とか「吾」とか書いて自己主張することは嫌われがちで、なんとかこの言葉を使わずに表現するという配慮が要求されがちである。
 掲句は一物仕立ての顔をしながら、これらの二物衝撃である。また、発見を伴う写生句であると同時に、日常詠で社会詠だ。ラーメンのトッピングで言うところの全部入りではないか。ついでに言えば、句末の「崖」で切れている、言うなれば「崖切れ」である。

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