冷たい指

あの
タロットをシャッフルしている指は
冷たいと
私は知っている

静かだったとても

占ってもらった時の事を今でも思い出す

独特の変な匂いも
変な音楽もなく

ただカードの音がするだけ

あまりに静かで
変に緊張して
口の中に出たツバも意識して
飲み込むと
変な音がのどの奥でした

私は隠す様に
軽く咳払いした

「大丈夫ですか?」

きれいな
よく通る声が
響いてきて

大丈夫ですと
ごまかした

正直
動揺していた

少し
変に
興奮もしていた

いくつものベールで隠された相手からの声

何か甘い蜜
の様な

この場がそう思わせてるのか

初めての場所での高揚感なのか

ドクドク

脈打つ
私の鼓動は何なのか

しばらくして
鑑定は静かに始まった

「あっ…」
カードがテーブルからおちた
私側で
拾った

「スミマセン…」
お恥ずかしいところを…
と小さく聞こえる

その時に
指が
少し
重なった…

暖房が効いているにも関わらず
とても冷たい指で
私は驚いた

冷え性なのかな?
と私は自分の指通しを
触った

普通の体温で
少しほっとする

あの冷たさ
どこかで
見覚えがあった

ああ…確か…

「どうしましたか?」

はっとした
まだ鑑定中だったと

しばらく話したが
よぎった事で
頭は
上の空で

「ありがとうございました…」

終わって外に出ると
暗くなった街に
少し明かりが見えるだけ

少し歩いて
振り返った

占い師は
まだ立っていた

少し
笑っていた
気がした…

帰りの電車で再度思った

あの冷たさ

あれは
身内が亡くなった時の
体の
冷たさに
非常に似ていた

じゃあ
あの占い師は
あの空間は
俺は
どこにいたのか…

やめよう
詮索するのは

なんとなく思った

電車の車内が明るいのが
今は
とても有り難かった

end
「4.冷たい指」

読んで下さった方が自然にサポートしてみたい、と思ってもらえる様な文を日々書いていきたいです。頂いたものは彼方が日々生きるのに有り難く使わせてもらいます。