横浜

余命6時間

時計の針が夕方6時を指した。
お疲れ様の声が職場にこだまする。

今日は金曜日。
早く帰って、愛犬のマー坊と遊ぶぞ。
そう思っていた矢先に電話が鳴った。

「はい。西横浜 法律事務所です」

…杉山です。出願を依頼していた発明を、急遽学会で発表する事になって...

いつも穏やかな杉山さんとは違う。動揺した声だ。

「発表はいつですか?」

...明日の午前9時です!だから、今日中の特許出願をお願いしたい!...

今日中!?マジかよ。

あと6時間しかない...!

杉山さんは、中小企業のベテラン技術者。
この発明に、社運と技術者人生をかけている。
出願前に公にしてしまうと、それは特許として認められない。
みなが知っている『公然の技術』となってしまう。

何としても、24時までに特許庁への電子出願にこぎつけなければならない。

今日は定時帰宅が多く、人が少ない。
うちの担当の黒木はどこだ...。

見当たらない。

しかし、パソコンは点いていた。

助かった!帰ってはいない。

「ご安心ください。必ず対応しますので、お待ちください。」

そう話して受話器を置いた。
これが、その場しのぎの方便だというのは、
杉山さんも分かっているだろう。
正直、6時間で対応できるか分からない。

すぐさま、帰ろうとしていた事務のあきちゃんに出願準備を依頼。
彼女は、少し慌てたが、美しい横顔のまま席についた。

問題は、出願書類を時間内に書きあげられるかだ。

黒木が戻って来た。
状況を話すと、顔が青ざめたのが分かったが、
すぐに席へつくと私に言った。

「必ず書類を仕上げる。しかし、図面も必要だ。手書きでお前に回すから仕上げてくれ」

まず5枚の下図が渡された。
パソコン起動しつつ、下図をざっと見渡して息を飲んだ。

…複雑すぎる。
出願までに、図面が間に合わない。
時計の針は、7時を指そうとしていた。

そこに、残業していた技術顧問の真田さんが、杖をつきながらやってきた。

「金田君。いいことを教えてやろう」

続く

この作品は第2回逆噴射小説大賞最終選考作品に選出されました。皆様、読んで頂きまして、本当にありがとうございました。
※第2話は、メンバーシップ(有料)で公開中です。

第二話 


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