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「ひとつだけつくる」「極限まで遅くする」、新しい価値をつくる覚悟。→tamaki niime

■ 兵庫県のエルメス

1960年代の黒く光る織機。自然のすべての色をあつめたような穏やかで暖かな糸・糸・糸。ひとつひとつ食器が違う社員食堂。ごはんが終わったら出てきたタルマーリさんのパン。ジョン、ルーシー、マイク、アリスと名前がつけられた機械。羊が3頭、ヤギが2頭、種類が違うプードル2頭、あと噂によるとオオカミ1頭に烏骨鶏2羽もいるし、綿花も栽培している。
 
これが「兵庫県のエルメス」と呼ばれる(←私が言ってる)、伝統産業・播州織をアップデートしすべて1点物の作品をつくり高い評価を受ける、世界のtamaki niimeさん本社。

場所は、神戸と姫路のあいだから北に上がった西脇市、「日本のへそ公園」徒歩9分。トイレや社員食堂が横尾忠則作品で埋め尽くされているのは、西脇出身だから。色とりどり。


■ 人間のペースに合わせる

「niime」さんは「新しい雌」。伝統におもねることなく新しい価値をつくる覚悟が、工房のいたるところに溢れている。古い織機は、好みの織りになるようカスタマイズして使うため。いろんな食器は、社員さんが毎日のごはんでも「好き」を選ぶ習慣をつけるため。

そして「遅さ」にこだわる。服の生地まで一点もので、複雑に糸を変えなければならない生地の編み機は、人間のペースにあわせてゆっくり動かす。古い織機も、最新の機械も、極限まで遅くすることで、フワフワうっとりのショールや服をつくりあげる。それらを製品、じゃなくて「作品」とよぶ。
 
シャツ工程の最後、袖のところでは、ひとりの男性が「あーでもない、こーでもない」と、左右2列に分けた様々な袖型の布を組み合わせていた。「めくったときの袖の見え方」まで考えながら、すべて世界でひとつだけになる素敵な組み合わせをつくるところ。いやー、えぐい。
 


■ 命がけで自分の「好き」にこだわり続ける

「好き」のこだわりを貫いていく。それがどこかで「なりわい」になるタイミングがあった。命がけで自分の「好き」にこだわり続けるから、誰かを感動させるものができる。自然の素材を、自然にある様々に素敵な色で染め、人間ができるだけ優しくつくった「ひとつだけのもの」は、身につけると、自然の美しさや豊かさをまとっているようなきもちになる。

今日の本社と夕焼け、左手は川
代表作「ショール」/「日本のへそ公園駅」にて


もともと「租庸調」の「調」は布。鶴の恩返しも布。布は最高級の贈り物。そんな布を「織ってから染める/刺繍する」ではなく、「いろんな色で染めた糸を組み合わせて柄のある布をつくる」というクレイジーな伝統産業を、さらにクレイジーなこだわりで、現代に価値あるものに昇華させた。それは大量生産と真逆を行く、「ひとつだけ、つくる」。そういえば工房の入口に書いてあったな、「あたりまえを疑え」って。


もう糸からつくりたいよね、と、綿の栽培を始めたという。綿の種はヒツジたちが食べてウン〇にする。コンクリートをみんなでかち割って土に戻したところから、綿の新芽が出てくる。それをヤギが食べる。

どんどんゆっくりになる。ただ、どこかで止まらない。分断しなければきっと続けていく力はあるんだ、自然にも、人間にも。



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