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リーダーが「してはならない」3つのこと。

私は「リーダーしかできない人間」と、自他共に(深いため息とともに)認めざるをえないかんじなのだが、実は「リーダーシップ」というものに、ものすごーく苦手意識がある。

なぜか。単純に、一度、会社を(ほぼ)つぶしているからだ。今日はそんな、「リーダー失格」と思っている私の、リーダーシップについての話。

▶リーダーは、迷惑である。

そもそも、リーダーとは、何か。こういうときには、語源をさかのぼるに限る(←語源フェチ)。どれどれ? なんでも”lider”は、遡るとインド・ヨーロッパ語の”leith”となり、「出かけること、または、死ぬこと」を表すらしい。

げ。こいつは激しいな。視点を変えると、「リーダーとは、一歩踏み出させる、または、死なせるひと」になる。総合すると、「越境させる」という意味合いになるだろう。

たしかに、モーゼとか、イスラエルの民を率いてエジプトから脱出させて、40年荒野をさまよって、でも自分も約束の地カナンを目の前に死んじゃうんだよね、たしか。


もしも、リーダーであるモーゼがいなかったら。イスラエルの民はエジプトで、奴隷として、それはそれで安定した生活を送っていただろう。ちなみに奴隷というと可哀そうっぽいけれど、人間としての権利と自由が認められないだけで、衣食住と労働は保障されている。

まあまあ安定している毎日、と、言えなくもない。人間としての権利と自由が認めらないだけで。そこに、リーダーが出てきて言うわけだ。「いやいや。つーか、乳と蜜の流れる地へ行こうぜ!」と。それでみんなが、越境をはじめる。途中で、死んじゃうひともいる(※神を呪った者は死にました)。ある意味、リーダーって、迷惑かもしれない。



▶リーダーはディレクションできない。

こういうとき私は、スペイン語でも考えてみる。「リーダー」はそのまま英語由来として使われているので、本来のスペイン語ではない。本来のスペイン語、つまりラテン語を語源とする似た単語だと「dirigir(導く)」になる。名詞形が「direccion」(ディレクション)、人になると「director」(ディレクター)だ。

ディレクターは、監督や指揮をするひとである。ラテン語の語源は「まっすぐ」なので、集団やチームがまっすぐ進むように、監督や指示をするひとなのだろう。そう、ディレクターは、具体的な指示をする。目的に向かってまっすぐ進むための具体的な指示それがディレクションだ。


ディレクターは、越境させたり、死ぬ危険を冒させたりはしない。リーダーであるモーゼが「you、越境しちゃいなよ!」とイスラエルで奴隷になっていた民をついつい立ち上がらせてしまった後、もしもカナンの地へまっすぐ導くディレクターがいたら、ひょっとしたらみんな早めに目的地に着けたかもしれないね。

でもリーダーは、語源を見る限り、本質的にはディレクターではないのだ。残念だけども。



▶リーダーは、一歩間違うと、詐欺。

リーダーにできるのは、基本的に、死を賭しても越境してみたい!と思わせる「乳と蜜の流れる地」を見せること、だけである。それをおそらく現代では「ビジョンを共有すること」いう。ビジョンとは「見ること」だ。つまり、「我々に起こりうる最良の未来像を可視化する」とでも言うのかな。

そしてリーダーには、そうやって未来を見せつつ、もうひとつ、することがある。奴隷の状態である人に対して「それって奴隷だけど、いいの?」と問うこと。つまり、「現実」を直視するきっかけをつくること。

「見よ、あなたの手と足にはめられている、透明な鎖を。あなたはたしかに安定した毎日を過ごしているだろう、ただし、人間としての権利と自由と引き換えにね。それが良いなら、それで良い。再び、目をつぶって毎日を過ごせば良い。しかし、もしもそうでないなら? 立ち上がれ、友よ。仲間と共に行こう。約束の地へ」……一歩間違うと、詐欺だな。

いやほんと、私自身、「一歩間違うと、詐欺」だと思いながら、リーダーシップ業をやっている(だって他にできないんだもん)。今期で7期目ということもあり、いろいろと、「リーダーがしてはいけないこと」が、見えてきた。(※正確には「リーダーしかできないひと」が、してはいけないこと)



▶リーダーが「してはいけない」3つのこと。


①越境する覚悟がないひとを、巻き込む

死を賭して越境する、って、「大航海時代に新大陸を目指して船出する、コロンブスのサンタ・マリア号」とか、「正義なき旧世界に見切りをつけ新世界に清らかな宗教の理想の地をつくるべく102人のピルグリム・ファーザーズが乗り込んだメイフラワー号」とかくらいの覚悟が必要だ。

そこに、「えー、豪華客船で安心・快適な船の旅じゃないの~?」という乗客が紛れ込んだら、どうなるか。そもそも本人が幸せでないし、チームもガタガタになって目的地になんてたどり着けない。誰も幸せじゃない。死ぬ覚悟がないひとを、旅の仲間に入れない。それが、リーダーが詐欺師にならないための、第一のルールだ。


②未来(結果)を約束する

リーダーが誘うのは、果たして新大陸に着くかどうかわからない旅である。約束できる程度の結果(たとえば「隣の港を目指そうぜ!」)ならば、それはリーダーが誘うまでもない。

というか、ディレクター要素を併せ持つリーダーでない限り、隣の港への到着が確実になった時点で「いや、ここでいいのか!? 我々の理想はもっと遥か彼方にある、さあ大海原へ漕ぎ出そう!」とか言っちゃうはずだ。そんな奴は、確実に隣の港に着かないといけない船にクルーとして乗せちゃいけない。

「ぜんぶがうまくいったら、たぶんこうなる。けど、うまくいくかどうかは、これからの我々の行動にかかっているので、成功を約束することはできない」 そう、最初にしっかり告げるのが、ビジョンを見せるタイプのリーダーに求められる誠意、なのだと思う。


③諦める

他人様の貴重な命を、ハードな旅に誘ったからには、諦めちゃいけない。ひとりになっても、いや自分だけが死んでも、その霊あるいは環境あるいは後継者等をもって、共に旅に出てくれた仲間を一歩でも先へ、約束の地へと後押しする覚悟を決めないといけない。じゃなかったら、口説いちゃいけない。



▶「言い出しっぺ」くらいで、ちょうどいい。

私はスペイン在住時代を中心に、フリーライターとして活動していました。ある日、当時連載していた「ほぼ日刊イトイ新聞(カナ式ラテン生活)」に、「カナさんの文章を読んで、元気がでました。8年引きこもりだったのですが、明日、外に出てみようと思います」という感想をいただきました。

しまった! と思ったんです。彼、翌日、だいじょうぶだったでしょうか。彼のマインドが変わっても、もしも彼を守るスキルがなく、かつ、彼の命を大切にしようという環境が整っていなかったら、彼は、勇気を出して一歩踏み出したがゆえに、ひどく傷ついたかもしれません。


残念ながら、私は、「周囲をその気にさせる」力がある(それしかない)。ならば、せめて私は高みにいてそれっぽい言葉を放つのではなく、現場に居続けて自らも体験をしながら実践者としてリアリティある言葉だけを発するようにしよう。それが、帰国して「リベルタ学舎」を始めた、いちばんの動機です。
「こう生きたらいいよ」と言うからには、ちゃんとそれやってみよう、と。


それから7年が経ちます。たくさんの失敗をしました。私とかかわったことで不幸になるひとが減るように、「失敗し、かつ、その主な原因が自分の能力不足であること」とわかったことは、その後はやらないようにしてきました。そのひとつが、「マネジメント」であり、「ディレクション」です。

「世の中にはディレクション受けた方が動きやすいひともいる、湯川さんちゃんと指示出してあげて」と当事者からも周囲からも言っていただくのですが、残念ながら、その能力はないんです。あれば、みんなもっとハッピーでいられたよね。


べつにリーダーって格好良いわけじゃなくて、本当に、それしかできない。平時には詐欺師にしかなれない。乱世、誰もがエクソダスを望んでいるときに、ビジョンを見せることでみんなが一歩踏み出すきっかけをつくる、という意味で、役に立つこともあるかもしれない。それだけだ。

いまは、ちょうど時代の変わり目だから、たまたま私の出番もある。しかし、もしも「有能なディレクター」や「主体的に未来を共に作りたいクルー」が一緒にいないと、リーダーって、ただ夢を語ってはニコニコしてるだけの諦めの悪いひと、だ。いや、私、本質的にそうなのだよね。なので、「リーダーシップ」は「言い出しっぺ」くらいでちょうど良い、と本気で思っている。語感も、似てるでしょ?

(湯川カナ/リベルタ学舎代表)


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