【短編小説】土のうつわ

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ノート

【短編小説】土のうつわ-1

帯に書かれたそのキャッチフレーズを、わたしは小さな声で読み上げる。『米谷瑞穂のおいしい家庭料理』というタイトルの下で、瑞穂は、両手で鍋を持って立ち、カメラに向かって笑っている。白を基調にしたカントリー調の台所。この写真を見た人は、瑞穂の料理を楽しみに待っている幸福な家族を思い浮かべるだろう。
――おいしい料理はひとを幸せにする。
 ひととおりぱらぱらとめくってから、本を飾り棚に戻す。視線を店内にめ

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いいことありますように!
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【短編小説】土のうつわ-2

工房にこもっていると、誰にも会わずに一日が終わる。土を練り続けるだけの日々。もうずっと、自分の声を聞いていない。
 二年前、宇都宮のはずれに納屋付きの貸家という物件を見つけて借りた。土地勘も縁もない場所だったが、東京から車で三時間という距離が気に入って即決した。
 大家と交渉し、納屋を工房に改造させてもらった。電気窯の電源を引き込む工事をし、土を乾かすための棚や作業テーブルを自分で作り、椅子と蹴ろ

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わたしも好き!
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【短編小説】土のうつわ-3

わたしにうつわを作ることを教えたのは、瑞穂の十一人目の恋人だ。
 瑞穂は男が変わるたびに、引越しをした。相手の家に転がり込むこともあったし、男と一緒に新しい部屋を借りることもあったが、未成年だったわたしは、母親である瑞穂の付属品として、一緒に引っ越さなくてはいけなかった。そのせいで、わたしは転校ばかりしていた。
 十一人目の恋人の家は、都会からずいぶん離れた山奥にあった。引っ越しの日、わたしたちは

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【短編小説】土のうつわ-4

大きなレンズが横に移動して、カメラマンの顔が現れた。
「緊張してる? 普段みたいに笑ってくれたらいいよ」
「普段も、笑いません」
 わたしの答えに、カメラマンはぷっと吹き出した。
「何かおかしいですか?」
 思わずわたしは抗議した。森川と名乗ったカメラマンは、ひょろりと背が高く、大学生のような格好をしている。もらった名刺によると、わたしよりも五歳年上だったが、そうは見えなかった。大きなカメラを首か

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。゚(゚´Д`゚)゚。ありがとうございます…!
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【短編小説】土のうつわ-5

森川の予告のおかげで、編集長から電話がかかってきても驚かなかった。でも、電話の内容は予想していたものと違っていた。
「陶子さんのお母さんって、米谷瑞穂だったのね。知らなかったわ」
 編集長の声は、陽気に弾んでいた。
「それでね、もし、陶子さんが嫌じゃなかったら、うちで、親子で特集させてもらえないかな。陶子さんのうつわに、瑞穂さんの料理を載せる、親子のコラボレーション」
「わたしは構いませんけど、母

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いいことありますように!
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