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noteで長編小説を全文「無料」公開にした理由

デビュー作「月野さんのギター」をnoteで全文無料公開しました。こちら

講談社から2009年に出版された作品で、契約期間中はもちろんこんなふうに勝手に公開することはできないのだけど、最初に定めた契約期間が切れしばらく経って絶版になり、再び刷ることは絶対にないということなので自動更新をせずに、権利をわたしが全部所有しています。

(契約切れてもKindleでそのまま販売してるし印税は振り込まれているけど、これはわたしが委任している、という解釈でよいと思う)

さてこの作品をどうするか、と、ずっと考えていたのです。一番の希望はどこかの出版社から文庫本で出してもらいたい。でもそれは、わたしが小説家として活躍すれば叶う話だし、活躍していない今は叶えるのに苦労するだろうから、過去作の売り込みをするよりは新作を書いて、「小説家として活躍する」ことを目指したい。

自分で販売することもできる。紙の本で手売りするなら買ってくれる人の顔は結構浮かぶけど(イベントとか講座に来てくれた人とか、新たに知り合いになった人とか)、自分で小説のようなページ数の多い本を少部数で作ったら原価700円くらいかかるし、それは誰も幸せにならないし、やはり出版社から出してもらうことを目指した方がいい。

電子書籍をわざわざ自分で出版する意味もない。今もKindleや他のサイトで買えるのだから。印税率は高くなるけど、そもそも、ほとんど買われていない。

このnoteで有料公開することも考えたけど、ダウンロードできる電子書籍と違って、プラットホームに左右されるこの場所でいくらで売るのか、という問題もある。もしかしてこの先、新たな出版契約を結んだら、公開を停止する事態も出てくるかもしれない。そうしたらいただいたお金はどうなるのか問題が生じる。

というあれやこれやの葛藤を経て、期間限定で全文無料公開という結論に至りました。

これがいい判断かどうかはよくわからなくて、とりあえずえいやっとやってみて、どうなるのか実験中。とにかくわたしは自分の小説を読まれたい。わたしのことを知っていても、わたしの小説を知らない人の方が最近は多い。わたしは小説家なので、どんな小説を書いているのかを知ってもらいたいのです。

ネットの普及でなんでも無料で楽しめる時代がきて、次に玉石混交のコンテンツが溢れて、いまはお金払ってコンテンツを買うことが前よりも抵抗のない時代になってきている気がするんですよね、時代の空気感として。

前から本屋でどんどん本を買う人はいたけど、これが本屋以外の場所で、たとえばnoteとかニコ動とかKindleとかで、よいものならどんどん買う人たちが現れている。

SNSでコミュニケーションできることが目新しくて楽しかった時代が過ぎ、SNSが空気のように当たり前になり、揺り戻しでひとりの時間が見直され、成長のために「テキスト」や「アイデア」の作品やリーダーのような存在が求められるようになっていてそこにお金を払う人たちが出てきた、気がする。

でも、小説は蚊帳の外のような気がする。それでいいのかもしれない。世間の時間の流れと少し切り離されているからこそ、小説は小説の役割を果たせるのかもしれない。

でも、でも、いま、小説は、もっと読まれる可能性があるんじゃないか。いつもの行動パターンの延長上に小説がはまりにくいだけで。たとえば、noteを見る習慣がある人が、noteに無料の小説があったら、読んでみようかなと思う可能性がKindleや本屋にあるより高いのではないか。

「気がする」ばかりの話で、申し訳ないけども。わたしの偏った見方でしかないけども、とりあえず考えてることを発信してみたら、そうじゃないよ、とか、もっとこうだよとか言ってくれる人がいて、何か発展があるかもしれないし。

ツイッターに漫画の数ページが流れてきて、そこから出会って読み始めることがよくある。漫画好きの友人は本屋を巡回して気になった漫画をジャケ買いしたりするけれど、わたしなんかは大量の漫画の中から自分のお気に入りを見つけ出せなくて途方にくれる。でもいつもツイッターにいるので、ツイッターに回ってきたら読む。誰かがおすすめしていたら試し読みしてみる。

出会いの場は多いほうがいい。
縦書きじゃないと読めないとか、紙の本じゃないとダメという人もいるけど、noteだから読むという人もいると思う。

とにかく読まれたいのですよ。無料でもいい。読んでもらわないと始まらないから。わたしの魂はそこにすべて入っているから。最近は「小説も書いているんですね」と言われることが増えてきたしなあ。

小説は読まれて初めて完成する。小説家も、わたしの書く小説を読みたいと思ってくれる人がいて、初めて小説家と言えるのではないか。

ピーターパンの話で「妖精なんていない!」と言われる度に、妖精が一人ずつ消えていく、というエピソードがあったけど、いつもそれを思い浮かべる。読みたくない!と言われても消えやしないけど、読みたいと思ってくれる人がひとりもいなくなったとき、わたしは…

…うーん、やっぱ消えないな(笑)次の作品こそ、誰かに届くと信じて、また書き始めるかも。

とにかく読みたいと思ってくれる人がたくさんいたら元気になるので、またおひまなときに読んでみてくださいね。

期間限定だけど、反応がまったくなくなるまで、しばらく載せておくつもりです。うちの長男「月野さんのギター」をよろしくお願いします。なかなか波乱万丈な人生なのよ、この子…。親がふがいなくてね。


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