登場人物のプロフィールを作る(小説の書き方の教科書のようなもの⑧)

現実世界の話をします。初めて出会った25歳の人と、あなたは数分間一緒にいたとします。あなたはその人のことを数分間分しか知りませんが、その人はあなたの見ていないところで25年分の人生経験を積んでいて、数分の間にあなたに見せたその人の仕草や発言や行動すべては25年分の経験をもとに生まれているわけです。

小説の登場人物も同じです。物語に25歳の登場人物が出てきたとします。その人の発言や行動は、その人が25年間をどのように過ごしてきたかに左右されます。どんな子ども時代だったのか。兄弟はいるのか。大学に行ったのか、就職したのか。どんなところに就職したのか。恋人はいるのか、今はいないなら過去にいたことがあるのか。休日はどのように過ごしているのか。どんなところで暮らしているのか。月収どのくらいで家賃はどのくらいで、生活は切り詰めているのか余裕があるのか。このような情報があればあるほど、その登場人物に血が通い、その人らしいふるまいをしてくれます。

登場人物のプロフィールを作ることは大切ですが、いつ作るかは書く人次第です。最初に詳細なプロフィールを作る人もいますが、わたしの場合は必要に応じて想像し、少しずつ育てていきます。

たとえば会社員でお昼を食べるシーンを書こうとしたら、次のようなことを考えなければなりません。この主人公は同僚と連れ立って外食にいく人なのか、ひとりで行動する人なのか。外食ならどんなメニューを選ぶのか。生活が苦しくて節約のためにお弁当を持ってきているかもしれません。そしてお弁当を持ってきているなら誰が作っているのかも気になります。そうすると一人暮らしなのか、実家暮らしなのか、結婚しているのかどうかも気になってきます。こんなふうにひとつひとつ考えていくことで、その人物の性格や生活スタイルや生き様が少しずつ見えてきます。プロフィールもだんだん埋まってきます。

これはストーリーを作るときとも共通しますが、登場人物のプロフィールは機械的に人工的に設定を作るのではなく、想像することが大事です。目の前の初対面の人を観察して、この人はどんな性格でどんなライフスタイルなのだろうと想像するように、登場人物の発言や行動から想像していきます。

隅々まで想像する。小説の書き方はもうこれに尽きるのではないでしょうか。構成や文章の磨き方は、言ってしまえば小説以外の他の文章ジャンルでもやり方はある程度共通です。でも、小説は「想像力を使ってゼロから物語を生み出し育てる」文章を書く、特殊な作業です。これができなければ、いくら綺麗な文章を書いても波乱万丈のストーリーを書いても、それは小説ではなく、ただの実況中継や説明であり、たとえるなら生き物ではなく魂の入っていない人形なのです。

ここでいう観察とは、ただ受動的に眺めることではありません。探偵が推理するように、占い師が占うように、医者が診察をするように、積極的に見ていくのです。いくつかの手がかりから、その人の背景を想像し、できればそれが当たってるか外れているかを会話の中からさりげなく確かめて答え合わせできると理想的です。当たっていても外れていても勉強になります。


生身の人間の観察だけでなく、たくさんの物語を摂取するのも有効です。生き生きとした登場人物を生み出すには、小説以外のフィクション(映画や漫画やドラマ)を楽しむのもよいでしょう。


ただ思いついた物語を文章で効果的に伝えるためには、小説ならではの技が必要です。そのためには小説をたくさん読む必要があります。ときどき、というか正直に言ってしまえば、わたしが出会う人の半分以上は、小説は読まないのに小説を書きたい人です。

もしあなたが該当者だった場合、なぜ、読まないのに書きたいのか、自分の心に問うてみてください。物語を作りたいだけなら、小説じゃなくてもいいかもしれません。お金持ちになりたいのなら、小説家はまったくおすすめしません。自分を表現したいのなら、それも小説はちょっと不向きです。小説は作者のためにあるのではなく読者のためにあるからです。

こんなふうに問い直してもなお、小説が書きたいのなら(たとえ小説が一番お金がかからないからという、消去法的な理由だったとしても)、腹を括って、小説をたくさん読んでください。もし、小説を読むことが苦痛で面白いと思えなかったら、やっぱり他のことをしたほうがいいと思います。


物語を妄想するところまでは誰でも楽しいですが、そこから小説という形に結実させるためには、根気と根性と体力が必要です。小説を読まずに書き始めることは、ジョギングをしたことのない人がいきなりフルマラソンに挑戦するようなものです。しかもどこに向かって走ればいいのか、コースもわからず、どうやって走ったらいいのかもわからない状態です。


人の書いた小説の面白さやテクニックがわかるようになると、ぐんぐん力がついてきます。世の中には初めて書いた小説でデビューした、という人はいますが、きっとその人は小説をたくさん読んでいたと思います。もしくは小説をたくさん読んできたプロの編集者の指導をガッチリ受けて直したのでしょう。

というわけで読みましょう。
観察力と想像力を鍛えましょう。そしてもちろんたくさん書いていきましょう。近道はありません。でも、過程も楽しんでください。

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。゚(゚´Д`゚)゚。ありがとうございます…!
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寒竹泉美

京都在住の小説家です。医学(博士)です。理系ライターもやっています。

小説の書き方の教科書のようなもの

小説を書いてみたいけれど、どうしたらいいかわからないという人のためのヒントになれば幸いです。有料マガジンにしようかなと思ったけれど、たくさんの人に読んでもらいたいので無料にしておきます。 もし興味が湧いたら、わたしの作品の方も読んでくれたら嬉しいです。
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