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小説の「構成」という技

何をどの順番で書くか、簡単にいえばそれが「構成」です。構成には大中小いろいろな段階があります。ここで取り上げるのは大きな構成、ストーリーの構成です。プロットで考えた「誰が(なぜ)何をするか、何が起こってどうなるのか」などのエピソードをどの順番で読者に見せていくかを考えます。

これは映画を思い浮かべてもらえるとわかりやすいでしょう。映画は、約2時間という限られた時間しかありませんから、何をどう見せていくか、入念に練られています。もしくは刑事ドラマなども参考になるかもしれません。犯人が謎のまま刑事の気持ちで犯人を探していくのか、犯行シーンを視聴者に見せてから刑事の謎解きを見守るのか、構成によって何を面白がらせるかが違います。刑事のキャラクターを伝えるために日常のシーンを最初に見せることもあるでしょう。視聴者を笑わせたいのか、ハラハラさせたいのか、共感してもらいたいのか、コンセプトによって構成も変わります。

小説の場合、映像作品とは違って読者に状況を伝えるのは大変です。映像なら、殺人現場で調べている警官を映せば複数の情報が一度に伝わり、短い時間で「ああ殺人が起こって刑事が調べに来たんだな」という状況を伝えることができますが、小説はそうはいきません。言葉が並んでいる順に一つずつしか情報を伝えることができないのです。下手をすると説明だらけで退屈になってしまいます。新しい人物が登場したときも、映像なら一瞬で印象づけられますが、小説だと筆を尽くさないとなかなかイメージが定着しません。

このようなことから、小説の場合、映画やドラマのように、あっちこっちに場面や時間が飛ぶと、読者はついていけなくなります(人物も一度にたくさん出てくると理解できません)。場面が飛ぶたびに読者の負担がかかり、ストーリーや登場人物の心情に集中できなくなります。ですから、小説の大きな構成を考えるときは、なるべく無駄な移動を省き、読者がついていきやすいシンプルなものにするのが大原則です。もちろん、応用編として敢えて例外を作ってもいいのです。その場合は、わかりやすさを犠牲にしているという自覚が必要なことはもちろん、相応の筆力が必要になるでしょう。

最もシンプルでわかりやすい構成は、出来事が起きた順(時系列どおり)に書くことです。読者の負担も少ないため、話がわからないという人は現れにくいでしょう。ただし、退屈になりがちです。そこで構成を工夫する必要がでてきます。

物語のラストシーンにあたる場面を書いておいてから、過去にぐいーっと戻って順番に書いていく(10→1→2→3…9→10)という方法もありますし、物語の時系列の真ん中あたりから始めて、途中で回想を挟み、ふたたび元の時間軸に戻ってくる方法もあります(5→1→2…4→5…9→10)。

小説に限りませんが、時系列の並び替えはどのようにでもできます。たとえば、桃太郎なら後者の順で「犬とサルを従えた少年が、キジに何か餌を与えている。どうやらキビ団子のようだ。キジが団子が好物だなんて聞いたことがないが、その団子を食べると大人しく少年に従って歩き始めた。この不思議な少年は実は桃から生まれたのである…」という語り方も可能です。

読者を惹きつけておいてから、過去に戻ってエピソードを回想していったり、スポットでいくつかの場面をシャッフルしていったり。いろいろ工夫できます。しかし、何度もいうように凝った構成にすればするほど、読者の負担は大きくなります(そして作者にとっての難易度も高くなりますのでご注意を)。

わたしたち書き手が最低限気をつけなくてはいけないことは、無駄な複雑さを排除することです。特に意図もないのにうっかり複雑になってしまっているところはないでしょうか? そんな箇所を推敲時に見つけて並べ替えます。

あなたは物語のガイドさんなのです。「わざわざ大変な思いをして歩いていったのに何のために来たの?」と読者が思ってしまったら、その先を読むモチベーションが下がってしまいます。無駄足を踏ませないように行程を整理してください。


よくある失敗例が何回もこまめに回想シーンが入ることです。5→2→6→1→7…10のように。そんなふうになるくらいなら、いっそ、5から一気に1に飛んで、5→1→2→3→4→5…10とできないか、検討してみてください。こうすれば戻るのは1回で済んでシンプルになります。パズルを並べ替えるように、部屋を整理するように、しっかりと構成を見直してみてください。


構成を考えるタイミングはいつでしょうか。多くの作家はプロット段階で行うでしょう。しかし、慣れていない初心者ならプロットのときだけでなく、推敲の段階でも行うとよいかもしれません。

推敲というと、文章を整えるイメージが強いですが、ここでいう推敲は、バラバラにして組み立て直す大手術です。いったんできあがったものを、切り刻んだりばっさり捨てたり頭とお尻を入れ替えたりするのですから、大変勇気のいる作業です。小説だとイメージが湧きにくいですが、苦労の末にできあがった立体の美術作品を、のこぎりでがしがし切るような作業です。発狂しそうですよね。


しかしそれをすることで小説は格段にすっきりして、メッセージや物語のエッセンスが伝わりやすくなります。考えたことをそのままだらだらと話せば伝わるのなら、小説家は必要ありません。24時間回しっぱなしの録画をそのまま流せばいいのなら映画監督も必要ありません。限られた時間のなかで、どうやったら受け取り手にストレスなく物語に没入してもらえるか。その技の一つが構成です。

これも試行錯誤しているうちに基礎体力のようなものが身について、うまくなります。こうしたらいいというテンプレートや法則のようなものはありません。毎回毎回、文章や物語と向き合って、それにふさわしい構成を考えなくてはいけないのです。逆にそれをしなければ、似たような作品ばかり生み出すテンプレート作家になってしまいます。


ですから何作書いても、やっぱり小説を書くのは難しいです。でも、やればやるほどうまくなるので楽しいのです。できることが増えていきます。この「小説の書き方の教科書のようなもの」を読みたいと思って、ここまで読んでくれたあなたは、自分の考えた物語を仲のいい人に読んでもらうだけでは満足しなくなった人だと思います。もっと多くの人に届くように、もっと自分の伝えたいことがこめられるようにするにはどうしたらいいのだろう。そう考えて読み始めてくれたのではないでしょうか。


つまりすでに小説を書くことの難しさを知っていて、さらにそれと格闘する楽しさも知っているはずです。この「小説の書き方の教科書のようなもの」があなたを絶望させるためのものではなく、わくわくさせるものになればいいなと願っています。

最後に、構成力をつけるトレーニング方法について紹介します。


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