カネを出さない理由

 新聞の場合、識者(主に学者さん)のコメント料を除くと、取材の謝礼は払わない。コメント料にしても、文章の長さ、紙面での扱い方によって違うが、一般的には数千円だ。

 芸能人にもコメント料に毛が生えたくらいの額しか出せない。だからテレビに比べて、新聞に芸能人はあまり出ない。芸能人は存在そのものが商品だ。商品価値を下げないよう、メディアに出るなら新聞だろうと衣装とメイクが必ずいる。テレビ局は会社として衣装を持ち、メイクさんがいるが、新聞社にはない。自前で用意するとなると、数千円の謝礼では割に合わない。

 なので、新聞の取材はテレビや舞台、イベントなどの出演時を狙う。もしくは、向こうから「この日に取材しませんか」と言ってくるのを待つ。たいていは出演作品の放映や著書売り出しの前、タダでもいいから露出を増やしたい時期である。

 ところで、事件や政治の取材でも、見返りにカネを要求してくる人というのがたまにいる。自分はすごくいい情報を持っているぞと近付いてくる。私はぜったいに払わない。

 カッコ付けでも、カネが惜しいわけでもない。カネを払って買う証言は信用できないのだ。カネを出した瞬間、情報提供者にとって私は「お客さま」になる。お客さまにはサービスをするもの。結果、この手合いは「マスコミが欲しがりそうな話」を捏造する。

 以前、とある大きな事件を取材していたときのこと。容疑者は犯行に拳銃を使った。その拳銃を容疑者に売ったと自称する男性が私に近付いてきた。会いに行くとカネを要求してくる。断ると、「タバコ1カートンでもいい」と言ってきた。それも断った。話は聞かずに帰った。

 後日、別のテレビ局のニュース番組にこの男が出ていた。何やらぺらぺらと喋っている。あとで本人に電話したら、「あんたと違って、デパートの商品券を3万円分くれたよ」。そういうこともすぐ喋っちゃうんだね。

 なお、取材相手と言っても人と人の付き合いなので、メシをおごるくらいのことはあります。政治家や役人、ヤクザなど、貸し借りを作りたくない場合はワリカンです。最近、新聞社はどこも経営が厳しいので、なかなか経費では落ちません。

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