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Lady Gaga "Joanne"

3年ぶりのアルバムとなった今作は、ポップミュージックの最先端を突き進み続けていた彼女が、これまでをリラックスしたムードで振り返るようなアルバムだ。

  

 ガガといえば、「奇抜なファッションとど真ん中のポップな楽曲」というイメージで多くの人に受け止められている。


 そしてたびたび、マドンナ、グレイシー・ジョーンズ、アニー・レノックスなどの80'sディーヴァたちの「模倣」だと言われ続けてきた。

 ネットを使って古今東西あらゆる音楽にアクセス可能な時代、そういった中で登場したガガは「ポップレジェンドたちの壮大なコラージュ」と言える。楽曲やファッションなども、80'sを中心としたスターたちの「引用」だった。

 それではガガの魅力は果たしてどこにあるかといえば、答えなき多様化の時代に、「自分だけの音」を見つけようと突き進む姿だと思う。

 1stアルバム以降、前述した「引用」によってポップクイーンとなったガガは、2nd、3rdとダークな世界観をコラージュに混ぜ入れ、自身の世界観を構築しつつあった。

 そうした人気、批判ともに絶頂にあった2013年にリリースした"ARTPOP"は自身の「引用」を認めるかのようなタイトルで、攻撃的でダンスポップな曲調と、まるで虚勢を張って自身を肯定するかのような内容だった。

 しかしながら、セールス/批評ともに伸び悩み、ライバルのケイティ・ペリーに完全敗北した形になった。また自信持ちライブを続けていた疲労ががたまり、股関節を骨折した。
 

 そんなまさにどん底の中で、しかしそれでも新しいことに挑み続けるガガは、シナトラをして「 音楽業界最高の歌手」といわしめた 最後のジャズ・エンターテイナー、トニー・ベネットとジャズのスタンダードナンバーを見事に歌い上げたアルバム"Cheek to Cheek"(2014)をリリース。

ポップシンガーのルーツミュージックへの接近はたいてい一線を退いてからですが、当時の状況でこういったアルバムをリリースするのは彼女だからこそだろう。
「自己破滅型のディーヴァ」にはならない、という覚悟が伝わって来るようだ。
 またこの時期からガガの歌唱力が向上してきている。

トニー・ベネットといえば、現在90歳ながら現役時代からほぼ衰えないまま歌声をキープしているプロ意識のたかさが知られているので、彼からいい影響を受けたのか。なにか秘伝の奥義でも受け継いだかのような歌唱力の向上だ。

ガガ自身も、"ARTPOP"を自身の中で失敗作と位置づけた上で、トニー・ベネットは打ちひしがれたガガ自身を「救ってくれた」と述べている。

2015年以降のガガは、歌手活動だけではなく、エンターテインメントの世界に足を踏み入れている。第87回アカデミー賞でのサウンド・オブ・ミュージックメドレーの成功を皮切りに、人気テレビドラマ"American Horror Stroy "にて、アールデコ様式の寂れた怪しいホテルで悠久の時を生き続ける怪しい女主人役を演じた。

彼女自身が持つファッションスタイルや、独特の怪しさ、人の良さなどを役に組み込むことでゴールデン・グローブ賞TV部門女優賞を獲得。実際にドラマを見てみると、ファッションやアートに彩られた狂気、そしてその中にある「人間らしさ」を、彼女独特のタッチで表現していて見ごたえがある。
 
 それから、16年のスーパーボウルでの国歌斉唱、グラミー賞でのデヴィッド・ボウイトリビュートなどの一大イベントを全て成功させ、まさに満を持してのアルバムが"Joanne"だったわけだ。
 

近年のエンターテインメントへの接近から、わたしは勝手に、そういった活動で得たものを彼女のクリエイティビティに結びつけて、凄まじくポップでロックでソウルな、要は傑作を期待したわけだが、実際にリリースされたのは、とてもリラックスしたムードで彼女が気持ちよさそうに歌い上げる、アコースティックな響きの作品だった。わたしの予想とは違う形でしたが、"ARTPOP"以降勝手に膨らんでいた期待を満たしてくれた、素晴らしい作品だ。


 プロデューサーにはイギリス人のマーク・ロンソン。彼も時代やジャンルを横断して、「ビンテージな雰囲気の新しい音楽」を作り出す、ガガに近いものがある。例えばラッパーのA$AP Rockyの楽曲 "Everyday"に参加した際には、ロッド・スチュワートの ”In A Broken Dream”を大胆にサンプリングしたり、Bruno Marsをフィーチャーした"Uptown Funk"では80'sファンクなテイストでワールドヒットになったのは有名だ。

 ガガ自身、"Joanne"リリース前後から、これまでのファッションショーから飛び出して来たような仰々しいショーピースばかりの「作られたアイコン」的な装いから、とてもシックで落ち着いたスタイルに変化している。
ネットの一部では「ガガが地味になった!アルバムに暗雲!」みたいな取り上げられ方も見られるが、わたしは、決してガガの魅力が失われたわけではなく、普遍的な「うつくしさ」を獲得したたたずまいだと思っている。

 
 これまでのような派手な装いをしてもそのたたずまいが変わらないのは、この「変化」が、けっして表面的なものではない証拠だ。

 
 アルバムに話を戻す。タイトルの"Joanne"はガガのミドルネームにもなっているガガの伯母の名前だ。ガガが生まれる前に亡くなった彼女はガガの家族の守護霊のような存在だそう。

 こうしたタイトル名の背景からわかるように、「パーソナルなアルバム」だと言うことが宣伝ポップなどで強調されている。
 
 これまでの、奇抜なファッションに身を包んだポップミュージックのコラージュであった自身を振り返る内容であり、既存のレディー・ガガ像を打ち破ると同時に、暖かく、常に「あなたは、あなたのなりたいあなたになれる」と訴え続けてきた彼女の哲学が最も反映されているアルバムでもあると思う。
 
 こういったリラックスしたムードのアルバムにありがちな気だるさや鬱々した雰囲気はまったくなく、自身の打ち立てたテーマに飲まれず新しい音を模索しているのがガガらしい。
  フローレンス・ウェルチ、ジョシュ・オム、ベック、テーム・インパラのケヴィン・パーカー、ファーザー・ジョン・ミスティら、インディーポップの大物たちを起用しています。これだけのメンバーを起用して、散漫になることなく見事な作品に仕上げているマーク・ロンソンの技も流石だ。

 「あなたは完璧な幻想だった」とパワフルに歌い上げる、その姿はつねに自分らしくあろうとしたガガだからこそ至ったある種の境地であって、これまでのキャリアがまったく否定されてしまうわけではなく、つねにポップであろうとし、ポップとは何かを探り続けてきた彼女の魅力があふれるアルバムだと思う。

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doukin

酒とバラの日々を気取っても、実情は半ば世捨て人。白黒映画の彼にあこがれ、タイプライター代わりのキーボードに向かう。
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