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アンダー・ユア・ベッド

映画「アンダー・ユア・ベッド」をシネマスコーレで観てきました。

観る前の私のツイート。

そう変態性にばかり気を取られていたのだけど、そうではなかった。こんなにも私の心をえぐることになるとは。っていうネタバレ満載の感想を。



まさかの今年第1位です。これは変態性の話じゃない。私たちの物語だ。気づかないうちに忘れられていった、風景でしかなかった私たちの。

もちろん変態的なところはある。学生時代に一度だけお茶をしたことがある千尋をずっと忘れないでいること。そして興信所を使って見つけ出して、盗撮、盗聴、そしてベッドの下でずっと待つ。千尋が健太郎にDVを受けながらのセックスを真下で感じている。ベッドの下から見えるのは脱ぎ散らかされる下着だけ。上下に動くベッドをそっと触る三井くん。
近所に引っ越して盗撮部屋と化した三井くんの観賞魚店兼家。千尋の顔の拡大コピー。A4かな?そのサイズを組み合わせてつくる感じがなんとも。あのときの千尋の格好をしたマネキン。あのときの千尋の香水をかける。
盗撮した千尋の裸に興奮する。千尋の殴られた蹴られた叫び声に、無理矢理セックスやフェラさせられてる声に、興奮する。千尋の喘ぎ声をイヤホンで聞きながら街を行く。

でも、元はただの恋だったはずだ。授業で助けられて、お礼言って勇気を出してお茶に誘って。千尋の笑顔。みんなに優しい千尋の笑顔。いつか見たような気がする。人に慣れない私にも笑みをくれるあの人のように。背中を指でつついて、声をかけてくれた。あの笑顔を側にいれるだけで幸せだった。けして恋人ではなくても。
こんな風にきっと三井くんは心の中にずっと千尋を育んできた気がする。そして千尋のように彼女は私のことなどさっぱり忘れてしまっているのだろう。
キラキラした学生時代の千尋と現在の疲れ果てた千尋を西川可奈子さんが演じ分けていて。幸せを願いながら、どこかで私はそんな風になってたら、なんてことも思うのだろう。

そう、忘れられること。そこには居ないということ。卒業写真に写ってなくても誰も気づかないということ。人間の存在自体が消えるということ。その辛さ。そして誰にも覚えてもらえてない生き難い私たちは誰かとのふれあい方がわからないのだ。

三井くんのこうなったらいいなという妄想が肥大しすぎて、なのにいざとなったら足がすくむように何にも出来なくて、家に帰って自分にスタンガン当ててしまうあの感じ、どうして、どうしてわかってしまうのだろう。

三井くんの妄想について。千尋がグッピー飼ったことないって言っててあれ?と思った。それを忘れるものかなぁ?なんて思ってたら違ってたんだ。それもまた三井くんのこうなったらいいな、だ。そうそれは中学生のような幼稚さで。胸があたったりなんかして。
学生時代、暴力的な彼から千尋を守る。そして二人はキスをして抱き合う。この希望的すぎる安易すぎる妄想。江戸川乱歩「蟲」で殺してしまった芙蓉との二人だけの生活を想う愛造の現実離れした幸せな妄想に似てるような気がして。
でも、結局いざそのときに何にもできない。
本当の自分は盗撮した千尋の裸を見てオナニーするだけ。

DV夫健太郎の凄まじい暴力に支配され続ける千尋。呪いだ。「誰のおかげで食べれてるんだ。」とか。「俺の知らないところで誰と会ってた。」とか。三井くんが贈ってた毎月の花が千尋の支えになっていたこと、まぁその花に付けた手紙のせいで千尋はより酷い目にあうのだけど。
そして千尋は子どもを連れて家を飛び出す。三井くんはただ途方にくれる。小学校のときから飼って子孫を繋いできたグッピーも見捨ててしまう。そう動いたのは千尋で、三井くんは今日も見てるだけ。

でも健太郎に見つけられて連れ戻されて殴られる千尋。でもここでついに三井くんが動く。ベッドから這い出して、ついに健太郎をスタンガンで。そして健太郎の首を絞めようとする千尋の手を解いて自分の手で。どんな心の変容があったのか。自分に似た青年が忘れられてたきっかけで人を殺してしまったこともあるのだろうか。

高良くんの表情の素晴らしさ。セックスする夫婦の下の三井くんの顔。
最後、千尋が思い出してくれたこと。そして高良くんのあの顔。
最後に希望があったっていいじゃないか、って思ったけど、あれは本当だったのだろうか。三井くんの部屋まで千尋は本当に行ったのだろうか。
でも、信じたい。千尋は思い出したんだって。

大切な人の近くにいること。それがどんなに非常であっても。
たった一度だけ名前を呼ばれたことを覚えていること。
三井くんは変態かもしれない、ストーカーかもしれない、狂っているかもしれない。だけどそんな名前なんかで括られるものじゃない。みんなが簡単に想像するありきたりな言葉なんかで三井くんは表せらせない。そういうことなんじゃないか、と思う。
込み上げるように泣いてしまった。何にもできなくて自分を傷つける三井くんに、ついに名前を呼ばれて振り返る三井くんに。

写真は私もアンダー・ユア・ベッド。ならぬテーブルの下。小さい頃はテーブルの下とか布団の隙間とかそんな場所が好きだった。高良くんはカッコいいからいいけど私はホラーだ。

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