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野原のイチゴ観察日記

 家のそばの草の中に一株のいちごが生えていた。畑などまったくない草の中に生えていた。
 田舎者の私は、野菜の葉を見たら、だいたい名前がわかる。ゴボウの葉や、里芋の葉、ジャガイモの葉など、わからない人が多いのを逆に不思議に思う。
 で、いちごの苗を見つけた。どうやってそこに生えていたのかはわからない。誰かが苗を植えたのかも知れないし、いちごの種から芽が出たのかも知れない。

ゲンノショウコの葉の上にはイチゴの葉



 私は昔、いちごの種を植えたことがある。
 いちごの種は、あのいちごの周りにあるブツブツだ。あれを植えると小さな双葉が生えてくる。

イチゴのブツブツは実はタネ
タネを植えると17日後に双葉が出た
双葉から12日後にやっと双葉の間に本葉が出た



 草の中のいちごは、小さな白い花をつけていた。いちごはバラ科なので、野バラと同じような形の花を咲かす。桃も梅も桜もバラ科なので、花のつくりは同じだ。

もっと開くとバラの花みたいになる


 いちごの観察が毎日の楽しみになった。白い花は、青い実となり、小さいままでピンクに色づいた。そして、赤く色づく。大きくはならず、小さいままで熟れた。

実ができた


ここまで育った


 野にある実は、なんでも食べてみたくなるけど、このいちごだけはとって食べる気にはならず、そのままにしておくと、深紅の実となり、そのまましおれていった。
 別の花からできた実が、これも小さなままで熟れていった。小さな命が完結した。

 現実の世界に、草の中に野菜があることはない。非現実的ないちごの苗と実が、日常の退屈を少し変化させてくれる。さりげない変化が、心をいややしてくれることもある。


 翌年、いちごがまた生えていた。早く白い花を咲かせ、赤い実をつけないかなと楽しみにしていた。ところが、雑草だらけの地面は草刈りをされてしまった。
 いちごは花を咲かす前に刈られてしまった。
 こうなる予感はあったけれど、いちごの苗を掘り起こして植え替える気にはならなかった。自然の中に生きて咲いているからいいのだ。畑のいちごなんていくらでもある。明日をも知れないままで一生懸命生きている小さないちごだからこそ好きになれる。
 草刈りはされたけど、根が残っていたらまた新しい芽が出るかなと、しばらく見ていたけど、芽が出る気配はない。

 そのまま日々が過ぎ、草花を見る心の余裕もなくなっていた。
 久しぶりにいちごが生えていた辺りを見ると、おおっ、なんとなんとなんと、また新しい芽が出ていた。踏まれても刈られてもまた新しい芽を出す。
 がんばっているいちごの姿に、また生きる勇気をもらえた。


今年も芽を出すイチゴの苗
みんながんばって生きている



 いちごの苗を発見した時は大きく見えたけど、翌日さがしてもなかなか見つからない。やっと見つけたら、まだとても小さな苗だった。



 こんな小さな命が一生懸命生きている。



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