兼藤伊太郎

小説を書く。

兼藤伊太郎

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マガジン

  • ジョー・ナポリタンの栄光無き人生

  • いつでもないいつか、どこでもないどこかで

    連載小説

  • For Beautiful Human Life-2

  • For Beautiful Human Life

    つたない創作ですが、よろしければどうぞ。

最近の記事

まさか!

 このタイトルが「まさか」であるからには、「まさか!」という話になるのだろう。  そんなに驚くべき話なのか。  そんな時に限って登場とは、俺はツイてない。できることならば平穏無事なお話、欲を言えばハッピーエンドのお話に登場したかった。  しかし、どうやらそういう星の下に生まれたようなのだから仕方ない。思い返してみれば、幼少の頃からそうだった。貧乏くじはことごとくこちらにやってくる。もう慣れっこだ。だからそんなに哀れんだ目で見ないでくれ。え?見てない?  さて、というこ

    • 同人誌「無駄」計画

      「無駄とは無駄であり無意味ではない」 とはいえ、それを無意味としてとらえる人もいるだろう。 価値観は人それぞれと言ってしまうと元も子もない。 たとえば、将棋の棋士たちは無駄であろうか、無意味であろうか。 彼らの優れた頭脳は将棋というボードゲームのためにのみ使われ、それが公共の利益になることはない。 あるいは人はそこから何かの教訓や感動を引き出そうとするかもしれないが、もしもその頭脳を別の使い方をすれば、と考える人がいてもおかしくないのではないだろうか。 その頭脳を用

      • ここんとこ書いたものは全部クソだ。全部消しちまおうかと思ったけれど、逆に戒めのために残すことにする。こんなクソをお前は書いてたんだ。しゃっきりしろ。上等とはいかないまでも、目を覆いたくなるものを惰性で書くな。そんな真似するくらいなら死んだほうがマシだ。

        • 連載小説「孤児たち」第三回

          僕には兄がいた。 いた。 今はいない。兄は死んだからだ。あるいは、霊魂の不滅を信じるのならば、兄はまだいるのかもしれない。どこかに。心の中に?やめてくれ。兄もきっとそう言うだろう。 兄、と言っても、僕と兄の年齢差は13分だけだった。兄が産声を上げた13分後に僕が産声を上げた。僕たちは双子、一卵性双生児だ。 だった。 同じ顔、同じ体型、そして、同じ時間。僕と兄はほとんど同じだけの時間を生きてきた。兄の人生とは、僕よりも13分長いものだった。違った見方をすると、僕の13

        • 同人誌「無駄」計画

        • ここんとこ書いたものは全部クソだ。全部消しちまおうかと思ったけれど、逆に戒めのために残すことにする。こんなクソをお前は書いてたんだ。しゃっきりしろ。上等とはいかないまでも、目を覆いたくなるものを惰性で書くな。そんな真似するくらいなら死んだほうがマシだ。

        • 連載小説「孤児たち」第三回

        マガジン

        • ジョー・ナポリタンの栄光無き人生
          2本
        • いつでもないいつか、どこでもないどこかで
          1本
        • For Beautiful Human Life-2
          4本
        • For Beautiful Human Life
          62本

        記事

          「孤児たち」第二回

          かつて、ぼくらは永遠を知っていた。確かに、それに触れたこともなければ、この目に見たこともないし、その声を聞いたこともない。ましてそれを所有したことなどありえない。しかしながら、それは常にぼくらとともにあった。それはぼくらの斜め後方、およそ2メートルほど離れたところにあり、ぼくらは常にその気配を感じ取っていた。それは常にそこにあった。 だがしかし、今はそれは消え失せた。 消え失せるようなものが永遠であり得るだろうか?簡単なことだ。それはそこに今でもあるのかもしれない。ぼくらが

          「孤児たち」第二回

          連載小説「孤児たち」第一回

          彼女が死んでしまったのではないかと思った。 ドリンク二人分(ぼくのコーラと彼女のオレンジジュース)を手に戻ると、彼女はデッキチェアの上に身を横たえ、パラソルの作る影の中、死んだ小動物のように丸くなっている。水着に包まれた腹は呼吸に軽く上下しているように思えるが、さだかではない。 グラスを傍らのテーブルに置き、彼女の口元に耳を近づける。微かな息の音が聞こえた。彼女は生きている。眠っているだけだ。その表情からはいかなる種類の苦悩も読み取れず、まるでこの世の不幸すべてを免除され

          連載小説「孤児たち」第一回

          連載小説 ジョー・ナポリタンの栄光無き人生 第二回

          ジョーの出番は誰かが塁に出た時にやって来た。監督が審判に代走を告げる。ジョーはダグアウトから跳ねるように出てくる。リズミカルに左右のつま先で地面を叩き、スパイクに付いた土を落とす。そして、ぐっと前傾すると、交代を告げられた選手のいる塁まで一目散に走るのだ。まるで風のように。 ジョーは交代する選手と目すら合わせない。これはあとで語ることになるかもしれないが、ジョーはチームにおいて一匹狼、あるいはのけ者だった。誰もジョーと仲良く会話しないし、ましてディナーを共にしようなどとはしな

          連載小説 ジョー・ナポリタンの栄光無き人生 第二回

          連載小説 ジョー・ナポリタンの栄光無き人生 第一回

          ジョー・ナポリタンは最高の選手の一人であった。ルースやディマジオ、ゲーリックにカッブ、そうした選手たちと比較してもなんら遜色のない選手だった。 OK、これらの辞書にも載っていそうな名選手に引きかえ、ナポリタンって誰だ?という反応は当然のものだろう。ジョーのことを知らなかったとしても恥じることなどないし、むしろそれが当然である。誰にも知られていないということは、評価されていないということである。しかしながら、評価が正当でないことは往々にありうることなのは説明するまでもあるまい

          連載小説 ジョー・ナポリタンの栄光無き人生 第一回

          短編小説「天使に火を近づけないでください」

          天使は非常に燃えやすかった。火気厳禁である。コンロの近くや石油ストーブのそばなど言語道断、あっという間に火が燃え移り、跡形も無く、灰や炭さえも残さずに燃え尽きてしまう。しかも、その時の熱量が凄まじい。実験によると、平均的な体形の天使で、高さ5メートルの火柱になり、条件が整えばその際の温度は千℃を超える。天使を原因とする火災は珍しくなく、冬場などは暖房のそばに置く天使除けの装置が季節商品として量販店に並んでいたほどだ。 人々はその天使の可燃性に目をつけた。なにせ天使は至るところ

          短編小説「天使に火を近づけないでください」

          ピンチョンについての何か文章を書こうと思う。とはいえ、専門家でもなんでもないので、丁寧に読み、何かしらの感想か何かを書こうと思う。まず最初に取り上げたいのは『ヴァインランド』、おそらくピンチョン入門としてはうってつけ、というか僕がこれでピンチョンの魅力と読み方を学んだ。

          ピンチョンについての何か文章を書こうと思う。とはいえ、専門家でもなんでもないので、丁寧に読み、何かしらの感想か何かを書こうと思う。まず最初に取り上げたいのは『ヴァインランド』、おそらくピンチョン入門としてはうってつけ、というか僕がこれでピンチョンの魅力と読み方を学んだ。

          短編小説「金魚」

          「あなたと一緒にすくった金魚が、いつの間にかこんなに大きくなりました」と書いた手紙を破り捨てながら、自分の未練がましさにうんざりした。一緒に送ろうと撮った金魚の写真は壁に貼った。金魚に罪はない。 そもそもそんな手紙を送ったところでどうなるって言うんだ?金魚の写真を見て憲吾君がわたしのところに戻ってきてくれるとでもいうのか。「へぇ」と声を漏らし、手紙も写真もその辺に放り投げるだけだろう。封筒の封さえ切らないかもしれない。あいつはそういう奴だ。きっともう、わたしの事も忘れてしまっ

          短編小説「金魚」

          ショートショート「波」

          彼は波であった。波である。粒子ではなく、純然たる波。波が彼であるのではなく、彼が波なのだ。 波であるからには、彼は触媒を必要とした。それが何なのかはまだ判明していない。わかるのは、彼が波であり、波であるならば触媒が必要であるということだけだ。 彼はその謎の触媒の中を進む。彼特有の周波数でもって。彼が通過する中には、その周波数に共振するものもあった。 その娘もその一つであった。 彼が通り過ぎる時、娘の心はその周波数に振るわされた。娘は彼に恋をした。 しかし、彼は波であ

          ショートショート「波」

          「いつでもないいつか、どこでもないどこかで」 Vol.1

          夏のはじまりのこと 彼女が死んでしまったのではないかと、ぼくは思った。 ドリンク二人分を手に戻ると、彼女はデッキチェアの上に身を横たえ、パラソルの作る影の中、死んだ小動物のように丸くなっていた。水着に包まれた腹は呼吸に軽く上下しているように思えたが、さだかではなかった。ぼくはドリンクのなみなみと注がれたグラスを傍らのテーブルに置くと、彼女の口元に耳を近づけた。微かな息の音が聞こえた。彼女は生きていた。眠っているだけだ。その表情からは、いかなる種類の苦悩も読み取れず、まるでこ

          「いつでもないいつか、どこでもないどこかで」 Vol.1

          ショートショート「運命」

          彼はなぜその人物との面会に臨まなければならないかわからなかった。しかし、面会の日取りは知らないうちに決まっていたし、彼もそれはそういうものだと不思議と納得していた。そして向かった、面会相手の待つ監獄へ。 「お知り合いで?」看守は尋ねた。 「いや、まさか」彼は答えた。「あんな悲惨な事件を起こす極悪人と知り合いなわけないでしょう」 看守はいぶかしげに彼を見た。「では、なぜ面会に?」 彼は肩をすくめた。「私の方が聞きたいくらいだ」 看守によるボディチェックが済むと、彼は面

          ショートショート「運命」

          ショートショート「予告状」

          予告状が届きました。『あなたの一番大切なものをいただきます』とあります。盗みの予告です。なんと大胆な、しかし、なんと愚かな。こんな風に予告をしてしまえば、こちらとすればいくらでも対策を立てられるわけですから、その分盗みづらくなるではありませんか。なにか裏があるのでしょうか?そう考えないと、釈然としない感じもします。 とにかく、盗むと予告されたからには、たとえなにか裏にあろうとも、守りを固めるしかありません。 金庫を用意し、大切であろうと思われるものを片っ端からそれに入れて鍵を

          ショートショート「予告状」

          ショートショート「まさか!」

          このタイトルが「まさか」であるからには、「まさか!」という話になるのだろう。そんなに驚くべき話なのか。そんな時に限って登場とは、俺はツイてない。できることならば平穏無事なお話、欲を言えばハッピーエンドのお話に登場したかった。しかし、どうやらそういう星の下に生まれたようなのだから仕方ない。思い返してみれば、幼少の頃からそうだった。貧乏くじは悉くこちらにやってくる。もう慣れっこだ。だからそんなに哀れんだ目で見ないでくれ。え?見てない? さて、ということで、目下の関心事はどんな「

          ショートショート「まさか!」