ショートショート「お伽話」

あるところに美しい女がいた。実に美しい女だ。女はある男を深く愛していた。それを見て魔神は嫉妬した。魔神は女に愛されたいと思った。そこで、魔神は魔法で男を豚に変えた。
「お前の愛した男は豚になった。さあ、俺を愛すのだ」魔神は言った。
「私が愛するのは彼だけです。彼が豚の姿であろうと、彼が彼である限り私は彼を愛します」女は言った。
そこで、魔神は豚を犬に変えた。この姿なら女も男を愛すまいと思ったのだ。
「お前の愛した男は犬になった。さあ、俺を愛すのだ」魔神は言った。
「私が愛するのは彼だけです。彼が犬の姿であろうと、彼が彼である限り私は彼を愛します」女は言った。
そこで、魔神は犬を鼠に変えた。この姿なら女も男を愛すまいと思ったのだ。
「お前の愛した男は鼠になった。さあ、俺を愛すのだ」魔神は言った。
「私が愛するのは彼だけです。彼が鼠の姿であろうと、彼が彼である限り私は彼を愛します」女は言った。
そこで、魔神は鼠を蝿に変えた。この姿ならさすがに女も男を愛すまいと思ったのだ。
「お前の愛した男は蝿になった。さあ、俺を愛すのだ」魔神は言った。
「私が愛するのは彼だけです。彼が蝿の姿であろうと、彼が彼である限り私は彼を愛します」女は言った。
そこで、魔神は蝿を消してしまった。愛する対象を失ってしまえば、愛することはできまいと思ったのだ。
「お前の愛した男は存在しなくなった。さあ、俺を愛するのだ」魔神は言った。
「彼は存在しなくなってなどいません。私の胸の中にちゃんと存在しています」女は言った。
それを聞いた魔神は負けを認め、全てを元通りに戻した。その後、女と男は末長く幸せに暮らしたとさ。
これはお伽噺なので、ありえないようなことでも起こるのだ。

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兼藤伊太郎

For Beautiful Human Life

つたない創作ですが、よろしければどうぞ。
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