連載小説「孤児たち」第三回

僕には兄がいた。

いた。

今はいない。兄は死んだからだ。あるいは、霊魂の不滅を信じるのならば、兄はまだいるのかもしれない。どこかに。心の中に?やめてくれ。兄もきっとそう言うだろう。

兄、と言っても、僕と兄の年齢差は13分だけだった。兄が産声を上げた13分後に僕が産声を上げた。僕たちは双子、一卵性双生児だ。

だった。

同じ顔、同じ体型、そして、同じ時間。僕と兄はほとんど同じだけの時間を生きてきた。兄の人生とは、僕よりも13分長いものだった。違った見方をすると、僕の13分前方を兄が歩いているようだった。

そして、兄はいなくなった。

ぼくは兄の失われた時間を生きている。

兄の葬儀でのことだ。

全てはあまりにも唐突な出来事であり、残された者たち、ぼくや、ぼくの両親、その他兄に関わりのある全ての人たちは、その事実があまり上手く飲み込めていなかったのではないかと思う。涙は流れたが、まるでそれは予行演習のようだった。

兄が死んだ時に備えての予行演習。ちゃんと泣けるように。

もちろん、それは一度きりの本番で、兄は紛れもなく死んでいた。異論を挟む余地もない。

そこで、ぼくは彼女に出会った。

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