ショートショート「等身大」

ある日、等身大がやってきた。
「あたし、あんたの等身大」
「はあ」
「仲良くしてね」
等身大は馴れ馴れしかった。私の部屋に上がりこんで、色々物色したりする。
「ねえ、この写真、あんたの彼氏?」
「ちょっと、なに勝手に見てるのよ!」
「別にいいじゃん」と等身大は口をとがらせる。「中々カッコいいじゃん」
「はいはい」
相手にしないと等身大はむくれて不機嫌になる。不機嫌になられると、それはそれで気になるのがまた厄介。
「ねぇ、機嫌なおしてよ」
「別に不機嫌じゃないけど」
等身大は素直じゃない。それも厄介。等身大と一緒にいると一事が万事この調子、やりづらいったらありゃしない。でも、居着いて出ていかない。
「いつになったら出ていってくれるの?」
「うーん、もうちょっといいじゃん」
そんなある日、彼氏と別れた。別に等身大のせいとかではない。それはそうなるべくそうなったんだと思う。それでも、そうなるべくそうなったんだとしても、悲しいことには違いはなくて、すごく泣きたい気分になった。
ところが、等身大が先に大泣きしたものだから、なんだか興ざめして涙が出なかった。うまい具合に一緒に、抱き合って泣きでもすれば良かったんだろうけど、それはできなかった。
「元気出して」
「うん」
嗚咽をもらしながら泣く等身大を励ますはめになった。何が何だかわからない。
等身大はまだ出ていっていない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?