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「brother」にたどり着くまでの戦いの記録〜aoni「BOYS IN BLUE Vol.2」〜

aoniと過ごした約1ヶ月間

 2019年1月1日、昨年末のaoniの企画からほぼ1ヶ月が経過しようとしている。
 ライブを見て衝撃を受け、すぐにライブレポートを書き上げた。いわゆる「通り一遍」の文は書けていたと思うが、満足いくものではなかった。このまま公開してもなんの問題もないし、誰を傷つけることはない。しかしそこには文章としての核になるものが決定的に欠けていた。そのライブレポートは僕が傷つくことがないよう、向き合わなくても済むよう巧妙に計算されて書かれていたのだ。

 aoniのライブを体験して、僕は微かな胸の疼きを感じた。aoniがその日演奏した曲たちは僕が過去に通ったある時期から今まで、押し殺したり忘れたことにしていた気持ちを僕自身にありありと意識させ、そのまま文章にするのは危険だと思った。そのフィルター(感情)を通した文章はおそらく僕の間違った判断や、偏見や、お門違いの嫉妬が多分に含まれることになるであろう。しかし、そのことを書かなければaoniのライブレポートとしては、僕自身が満足いくものを書き上げることは決して出来ないのだということも、同時に分かってはいた。
 今まで文を書く際、そういうグレーなことはできるだけ避けて書いてきた。だからお茶を濁すような文章しか書けないのだということも、なんとなくではあるが既に知っていた。

 音楽も文章を読むことも好きだからこそ、書きたいと思った対象には真摯にありたい、とaoniの音楽を聴いて思ったのだ。
 僕がaoniのことについて書こうと思った時、その魅力を伝えるため言葉に変換しようと試みる時、そこに現れてくるものは常にaoniの音楽によって刺激され、引き出された僕という人間のバックグラウンドから縒り合わされた言葉でしかなく、誰しもがaoniを見て感じるであろう普遍的な魅力を伝えることはできない。僕はaoniの音楽を聴いた、一個の受容体でしかなく、あくまで個人的な体験によってしかaoniの楽曲を受容し、判断し、発信することができないからだ。
 僕は決して批評家を気取る訳ではないが更に言えば、そんな当たり前の制約に恐れおののき、自分の思いを吐露することが今までできなかったからこそ、僕は常に衒学的であろうとしてきたし、スノッブな知ったかぶりであり続けてきた。

 僕は改めてその事実をaoniの音楽によって鋭く眼前に突きつけられた。
 僕が考えているaoniの楽曲の魅力は、人が時に覆い隠し胸の奥にしまいこんでいる大切な記憶や苦い思い出をよびさまし、時に激しくノックをするように揺さぶる力を持っていることであると思う。
 彼らの音楽はニヒルで都会的なヴェールをまとったサウンドを鳴らしているかに見えるが、その歌詞、演奏は非常にまっすぐで率直なものだ。だから僕も率直な文章を書こうと決心し、一度書き上げたライブレポートの公開を一度保留にし、何度も頭の中で言葉を探した。
 毎日通勤の際や帰宅後の夜の時間には繰り返しaoniの音源を聴いた。1st e.p.から順番に聴き、今度は3rd e.p.から遡って、更にはライブのセットリストと同じプレイリストを作り聴き直した。ライナーノーツ、歌詞カード、ZINE、言葉で表現されたものも繰り返し読んだ。気づけばそれくらい熱中してaoni漬けの日々を送っていた。
 ライブレポートであるので数日後には公開しておきたかったし、大幅に書き直そうと決めてからも本当はできるだけ早く、遅くとも2018年のうちには書き上げたかったのだけれど、沈思黙考するうちに2019年に入ってしまった。しかし時間をとってよかったとも思う。僕なりに、真摯にaoniに向き合うことができるはずだ。いわゆるライブレポートからは大幅に脱線したものになってしまうかもしれない。しかし、aoniの魅力を自分にしかない言葉で丁寧に語ることができるはずだ。

 前置きが長くなってしまったが、一人でも多くの人がaoniを聴いてみようと思ってくれるように、この場で伝えたいと思う。

ーー鋭く、痛いーーaoniの楽曲の魅力

 aoniはBa 齋藤浩輔 Gt.Vo 山下直人 Dr 小林逸世 sptGt 松川育人の4名で構成されるロックバンドだ。
 メンバー全員20代前半と若い。バンド名は「青二才」「青」と言った言葉を連想させる。曲も瑞々しく、苦みばしった「青春」を連想させるものが多いように思う。
 見た目は全員穏やかで、都会の大学生と言ったお洒落な印象だ。僕は田舎者で捻くれ者なせいか、はたまたロックという幻想に憧れを抱きすぎているせいか、彼らが非常に羨ましくも見えた。メンバー同士は仲も良さそうだ。パンクバンドをやっていた僕は、彼らのルックスにルサンチマンを刺激されて、妬ましくさえあった。 

 しかし、ライブが始まると彼らの表情は一変、真剣な表情に変わる。フロントマンである山下直人の荒々しいファズの効いたギターや、柔和な見た目からはとても想像できないエッジの効いたリードボーカル。それと対照的に松川育人の緻密なギターアレンジと絶妙なコーラスワーク、そこに斎藤浩輔小林逸世の軸のしっかりとしたベース&リズムが加わる。特に齋藤が書く日本語詞はレイモンド・チャンドラージャック・ケルアックのようなアメリカ文学の香りが感じられ、山下の声質も相まって乾いた感じがある。象徴的な詞が多いが、その中にも、青春の残滓のような、湿潤な響きもあって、不思議な哀愁を醸し出している。

 aoniの音楽を一口で言い切ってしまうのであればシンプルなギターロック。僕が感じたバックグラウンドは、BUMP OF CHICKENASIAN KUNG-FU GENERATIONのようないわゆるロキノン系と呼ばれるロックミュージックを経由しながら、残響レコードをはじめとするエモ/オルタナのバンドを掘り下げていった感じの音作りとなっている。ACIDMANストレイテナー等、ロキノン系の音楽を経由した音楽好きならばきっと、「こんな音楽を、待っていた!」と思うほどに王道のロックをかき鳴らしてくれている。
 ただし、そんな何かに当てはめるような言葉では表現しきれない魅力がaoniにはある。そもそもこんな、何か近似したものに仮託して語るようなことでは、aoniの魅力は十分に伝えることができない。ひねった感じはないのだが、あくまでも王道、といった趣で、誰もが欲していたロックバンドの進化系として、幹線道路を疾走しているように僕は思う。音楽的要素は異なるが、日本のOasis、といったら言い過ぎだがそんなイメージが僕の中はあったりもする。

 もしくは、敢えて抽象的な寓話でaoniを語るとすればaoniの音楽は、大人になった僕たちが青春の記憶を思い起こした際に感じる、現在の自分の感受性の摩耗を認識した際の苛立ちや哀しみそのものだ。
 わかりづらい表現で申し訳ないが、もう一つ別の例をあげるとすれば、眼前の景色(例えば鮮やかな秋の夕焼けや、夏の終わり、夕立の予感を示す強烈なアスファルトの匂い)が過去の自分の記憶とオーバーラップした際に感じる心象だ。
 aoniの音楽は、僕、あるいは僕らの忘れてしまったの頃の気持ちや、そこからの今の自分の心の変化を明確に意識させるような、強烈な印象を僕/僕らの心に刻みつける。
 そして、その音楽は時に鋭く、痛い。ただ、その痛みは己の鈍磨した認識や感受性を、あの頃の気持ちへと引き戻す強い力を持っている。
 それはきっと現在の彼ら自身が、少年から青年への移行の過渡期にあり、様々な苦しい体験をしながらも、素直な心を持って、物事に対峙してきたからだろうと思う。

BOYS IN BLUE Vol.2

 2018年12月9日(日)、新宿NINE SPICESでaoniの自主企画「BOYS IN BLUE Vol.2」が行われた。
 出演はaoniのほかFancy Girl CinemaMr.Seasideの3組、どのバンドも実力と勢いのあるバンドだ。
 トップバッターはMr.Seaside。11月4日付でベースのアミが脱退、サポートを招いてのライブであったが、メンバーの脱退の穴を感じさせぬ確かな熱量を持ったライブパフォーマンスをし、Fancy Girl Cinemaも洒脱な演奏でじわじわと観客のテンションを巻き込み、貫禄のステージングを見せた。
 今回のライブは全バンドロングセット、それぞれのバンドの魅力をしっかりと味わうことのできる企画であった。

いよいよトリのaoniが登場

 フロアを見渡すと5台のカメラがaoniの姿を今か今かと待ちわびている。それだけaoniは様々な人から注目されているようだ。
 Fatboy Slimの「Funk Soul Brother」のSE(出囃子)でメンバーがステージに顔を表す。マイクを手にVo,Gtの山下直人がにこやかな表情で観客へ来場のお礼を述べる。20代前半の彼らは優しげな顔立ちで柔和な印象を受けるが、楽器を手にした瞬間、一転して眼差しは鋭く真剣なものに変わった。
 山下のFenderのギター・アンプから微かなハウリング、その音が途切れた刹那、スネアドラムでカウントが入り演奏が始まった。
 1曲目は3rd e.p.『Lost War Chronicles』から「FIELD」。BPMは音源よりも少し速め、メンバーの興奮がスピーカーを通してフロアにありありと伝わってくる。
都会的で乾いた、エッジーなギターリフ、超現実的な詞が印象的だ。PixiesDinosaur Jr.Sonic Youthといった王道USオルタナ(オルタナティブという言葉に対して王道という言葉を当てるのはいささかおかしいかもしれないが)の雰囲気を醸し出しながらもキャッチーなメロディワークとサビの爆発力でaoniにしかない世界観を作り上げている。
 「これがaoniの音楽だ!」と高らかに宣言するかのようなインパクトの1曲目。
走り抜けるように演奏し終えると、間髪入れずに「goodbye」、「scarecrows」と続けて演奏していく。

3年の歳月

 MCを挟んで4曲目、山下が「はじまりの曲」と表現する曲、1st e.p.「morning glory」から「BLUE」を演奏。
 活動3年目になるaoniにとってスタートの曲であり、3年目、3枚目のe.p.のリリースを行なった今、改めてその曲を演奏することは、それぞれの感慨や想いが込められていたに違いない。メンバー達はこのミドルテンポの曲を一音一音慈しむようにリリースするかのように見える。
 続けては2nd e.p.「metropolis」より「tegami」、「DIVER」。3rd e.p.のタイトルでもあるaoniの「戦記」を追うような構成となっており、メンバー、そして長らくaoniを応援してきたファンにとっても感慨深いセットリストとなっていた。

それぞれの苦悩

 7曲目は3rd e.p.から「brother」。「brother」は、それまでの曲に比べて、曲も詞も、そのすべてが「まっすぐ」だ。ミドルテンポの曲にストレートな詞が一言ひとことはっきりと歌ですくい上げられる。

 aoniの楽曲の作詞作曲の多くを手がけるBaの齋藤は「brother」の制作の経緯について、2018年11月11日、3rd e.p.のリリースに寄せて発行されたaoniのZINE「吉祥寺WARPから僕らの戦記を」においてこう記していた。

「最初は山下もいっせいも友達と呼べるか怪しいような関係からバンドに誘った。だからどう付き合えばいいか分からなくなって悩むことは何度もあった。それでも話し合ってみたり冗談を言い合ったりしてなんとなくやってきた結果だいたい何をしても許しあえる関係になった。それぞれに生活があることを理解し、個人的な悩みを相談しあったりして全員が楽しくやっていけるようにみんな揃って考えながらバンドを進めていく姿が兄弟みたいだなと直感的に感じた。」ーーZINE「吉祥寺WARPから僕らの戦記を」aoniライブ会場にて配布ーー

 清濁併せ吞み、苦しい夜を共に越えてきたaoni、そんな彼らの「今」の「brother」と「aoni」に僕は心を揺さぶられたのだろうと思う。それはきっと、僕自身が諦めてしまったこと、果たされなかったものを成し遂げた「オルタナティブ」な形として、aoniが見えたからだ。

 僕もaoniのようになりたかった。

 それはかつて僕がやっていたバンドだけでなく、あらゆる物事に対してだ。野球を辞めた自分、仕事を辞めた自分、友に対して素直になれなかった自分、音楽を諦めた自分、文学を諦められない自分、といった果たされなかった可能性を目の当たりにしたような、眩しさと妬ましさがaoniの「brother」の演奏からは感じられた。

 メンバー同士目配せをする姿、楽器隊同士のレスポンス、コーラス、といった一つ一つの動作をとても大事にゆっくりと演奏する姿は永遠に失われることのない瞬間であるようにすら見えた。メンバーそれぞれにとっても、決して忘れることのない記憶となったはずだ。
 それは僕自身にとっても同様で、この景色を忘れることはないだろう。
大げさに言えば僕はaoniの「brother」によって、世界に対する姿勢のようなものを大きく揺さぶられる体験をした。そしてそれは僕だけでなく、もっと多くの観客が、それぞれの感じ方で、様々なものを受けとったに違いない。
 この3年間、メンバー達は様々な苦悩を抱え、時には人と衝突したり、または塞ぎ込みたくなるようなこともあっただろう。
もちろんそれは、20代前半の若者にとって、誰しもが経験することではあるだろう、そして彼らもまた、その気持ちを消化し、または抱えきれぬ想いを持ったまま戦い、生き抜いてきたのだ。その戦いの末、たどり着いた地平が現在のステージの上であり、この「brother」なのではないだろうか。

 aoniは様々な苦境を幾度も乗り越えて現在の「brother」の地平に立っている。そしてその地平「brother」にたどり着くまでの戦いの記録こそが今ここで演奏されている曲たちなのだ。
 それは、かつて僕が諦めてしまったものであり、憧れ続けてきた場所だ。

 彼らが今後どのように成長していくのかを楽しみに、これからもライブに通いたいと思う。

セットリスト

M1 FIELD
M2 goodbye
M3 scarecrows
-MC-
M4 BLUE
M5 tegami
M6 DIVER
-MC-
M7 brother
M8 surf
M9 glider
アンコール parachute

BOYS IN BLUE Vol.2

12/9(sun) @新宿NINE SPICES

出演

aoni
Fancy Girl Cinema
Mr.Seaside

3rd e.p.「lost war chronicles」

「FIELD」Official MV

2018.11.11 リリース

1. FIELD
2. scarecrows
3. brother
4. glider

1200yen(tax in)
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取り扱い一覧**

ライブ会場
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Google Play Music
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OTOTOY
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他各種サービスにて配信中

aoni

プロフィール

2016年2月に結成、9月にはFreeDL Demo「BLUE」を公開。
2017年2月に1st e.p.「morning glory」を、11月には2nd e.p.「metropolis」をリリース。
2018年11月には待望の3rd e.p.「lost war chronicles」をリリースし、TOWER RECORDS渋谷店の「未流通作品コーナー」にて週間ランキングで2位を記録。
音楽好きから今最も注目を集めているバンド。

メンバー

Ba 齋藤浩輔
Gt.Vo 山下直人
Dr 小林逸世
sptGt 松川育人


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