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誤解のままでいい

昔、母が言っていた。

「親しくしていた人に誤解を受けて、その人が離れてゆく。自分についての色んなあらぬ噂を鵜呑みにしてして、悪口を自分の知らないところで話している。そうなったら仕方ない。それで離れて行くなら何も言わない。相手を追いかけない。そしてその悪口を教えてくれた人とも距離を置く」

子どもだったわたしは、

「誤解を受けたままでもいいの?本当の事を言わないままでもいいの?もう友達でいられなくなるかもしれないのに?」

と大変驚きながら聞き返した。

「その事を問い質したい気持ちがどうしてもあって、その相手に聞く気や話す気がある時は思い切って訊いてみるかもしれない。でもそうでない時は……心が離れている時は、言っても仕方ないから何も言わない。誤解のままでいい」

ダンス講師をしていた母には、いつも取り巻きがいた。熱心な生徒から熱烈にもてなされる事も。それでも出来る範囲でのお付き合いしかできない。先生と生徒以上の大切な友達ではあるけれど、自分にだって家族がいて、自分の時間だって必要だから。

「だから離れて行くというのなら、それは寂しい事だけれど、しょうがないのよ。こちらも黙して心揺らさず」

そんな事を聞いて、大人ってすごいな、とただただ思った。

でもその当時の母の年齢に近づいて思う。

母もきっと心揺れまくっていたに違いない。
誤解のままでいい、こちらからそれを解きほぐそうとしない、と言う時も葛藤がなかった訳ではないだろう。

でもそれは心にしまって。
余計なことを言わない。
(わたしには言ったけれど、それはわたしが「最近あの人遊びに来ないね、忙しくなっちゃったの?」と聞いたから)

時が経つのを待つ。


そうすると熟成するんだそうな。
ウイスキーのように。

ウイスキーすごい。




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