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人と人がつながるお茶の時間

無邪気な子どもたちから「かっくん(筆者)と結婚したい!大好き!」とプロポーズをたくさん受けた2018年のクリスマス(数日後訪ねたら、小学生のお兄ちゃんの方が大人気……そりゃそうだ。やっぱり子どもって無邪気!)。

子どもとはいえ、一体どうして50歳に手が届きそうなぼくにそんな出来事が起こったのでしょう。みなさんは、この〈クリスマスの怪奇現象〉を、どう考える?「おまじないを唱えた」「妖しい煙を焚いた」「なにかしらの甘い罠を仕掛けた」……ぜんぶ正解!? ウソ!!

【12月2日(日)】
岡山県真備(まび)町に建てられた〈建設型仮設住宅〉のひとつ、〈真備総合仮設団地(通称:まびそー)〉の集会所で、ぼくは毎日お茶を飲んでいます。朝の8時頃には出勤して、ごはんを食べたり、ちょっとした片付けをしながら、まびそーのみなさんがやってくるのを待っています(現在は、戸別訪問含めて週1〜2回くらい)。

紅葉も落ち着いた山の上にある真備総合公園内の〈まびそー〉は、空気がおいしくて朝の散歩にもってこい。この日、陽あたりのいい集会所がようやく開所しました。

→集会所の鍵が開くまでの数ヶ月、このベンチが「どうやったら、集会所に突入できるか」の作戦会議の場でした。 つまり憩いの場♪

〈建設型仮設住宅〉

・柳井原仮設団地 51戸
・二万仮設団地 25戸
・真備総仮設団地 80戸
・岡田仮設団地 25戸
・みその仮設団地 32戸
・市場仮設団地 53戸
※入居者数に変動あり(倉敷市HPより抜粋)。

【集会所】
12月2日、まびそーのコミュニティーが〈うったてられる〉瞬間に、たまたま立ち合えました。うったてとは、岡山弁で「はじめる」「立ち上げる」という意味。

遡ること9月。まびそーは建てられ、集会所も完成していました。2ヶ月かけてほぼ全世帯が入居。阪神淡路大震災、東日本大地震、熊本地震などの仮設住宅にも、集会所は建てられました。災害が起きた時の集会所の役割。たったひと月だけど、ここに暮らす人たちと毎日過ごして、いろいろな話を聞かせてもらって感じたことがいくつかあります。

世代間の違いはあれど、まず大前提として、まびそーに暮らす人たちには〈1mmの余裕もないこと〉を知った上で、ここから先を読み進んでください。まびそー(建設型仮設住宅)だけでなく〈みなし仮設住宅(自治体が借り上げたアパートなど)〉に暮らす人も同じく心身共に余裕はありません。また、真備に関わるボランティア(外部支援者と呼ばれる人たち)も然り。自身も気づかないうちにヤラレちゃっています(平常心を保てなくなって、心身の均衡を崩し気味。そういうぼくも、日々危ない目にあうので、時折、ちょっと離れた頼れる場所で過ごすことにしています)。

【張り合いがあれば】
集会所には、生活や暮らし(日常)、穏やかな空間といった、ごく当たり前の時間を必要とする人たちが集まっています。そうは言っても〈仮設は仮設〉、非日常には変わりません。その非日常から抜け出したいという思いもたくさん聞かせてくれます。

普段は寡黙なお父さんと縁側に座りながら話をしていると、おもむろに「張り合いがね……ここに張り合いがあれば、毎日がね……」という思いを伝えてくれました。集会所でお茶を飲んでいた10人ほどのみなさんにも投げかけてみます。「張り合いってなんでしょうね?」すると「そうは言っても、仮設にいたら目的がないからね……」「今は社会とも繋がっていないから……」と言葉が続きました。

実はまびそーでは、毎日〈ラジオ体操〉をするようになりました。音楽のない部屋にせめてラジオを……チューニングを合わせるとあのお馴染みのオープニング音楽が流れ出し、誰からともなく立ち上がって気がつけばみんなでラジオ体操。体操の後は、いつものお茶飲み。それが毎日の日課になりました。

ちょっと待ってみんな。「張り合い」「目的」「社会とのつながり」、あるじゃないですか!?毎日、誰かとお茶を飲んでラジオ体操をする場所があるじゃないですか。はじめの一歩を踏み出した人たちは、とにかくがむしゃらです。得てして、自ら生み出しカタチにしていたとしても、気がつかないものなんですね。

→張り合いって...お茶を飲みながら始まる座談会も、社会とつながっているあかし

ぼくはこのまびそーでは、お茶を飲んでいるだけです。誰に頼まれたわけでもなく、毎日通ってみなさんとお茶を飲んでいます。……数週間、毎日お茶を飲んでいるだけの存在ってなんだ?

【知り合う時間】
一見すると暇そうにしているぼくを見つけてくれる人も増えてきました。仏壇の修繕に来た仏壇屋さん。みなさんと一緒に体操をしてくれました。帰り際に「入居したばかりの一人暮らしで、部屋にこもりがち」という高齢の女性の様子を伝えてくれました(いまではすっかり常連さん♪)。介護予防をしている理学療法士(PT)さん。ふらっとやってきてお茶を飲んで、やっぱりラジオ体操をしてくれました。そして、自宅でもできるやさしい筋肉体操を教えてくれました。

このお二人、みなさんとは初対面だったにもかかわらず、お茶に呼ばれたことをきっかけに、今ではすっかり顔なじみ。定期的にお茶を飲みにきてくれます。いずれも自分たちの仕事(仏壇販売や体操)はついで。みなさんと同じ時間を過ごしながら、時折それぞれの専門の相談を受けたりもします。それもお茶に呼ばれたついでに、です。

→天気がいい日のラジオ体操。仏壇屋さんも一緒に♪(第2体操までやると結構ハード!)

→やさしい筋肉体操は、アタマとカラダの体操!とにかくたのしく♪

→弁護士、大工、医師、看護師が訪ねてきた集まりでも、3時になれば♪

【知ってもらう】
クリスマスの子どもたち。はじめの数時間は、ぼくを遠まきに観察しています。観察中、ぼくの動き、表情、言葉、表現、人との関わり方、そのすべてを見ていないふりをしてがっつり見ているんです。ぼくはさしづめ、オーディションを受けているパフォーマー。

まびそー集会場。ぼくは毎日、ただそこにいるだけの人間です。何もしません。お茶を飲んでいます。時折、「あーしてほしい、こーしてほしい」と頼まれごともやってきます。ぼくに出来ることであれば、頼まれたことをすることもあります。でも基本的にはやるときはやるし、やんないときはなんにもやりません。

ぼくを遠まきに見ていたクリスマスの子どもたちと、お茶に呼んでくれるまびそーのみなさん。ここでまたひとつ……そこでのぼくや仏壇屋さん、PTさんの共通点はというと......

それは「見ること」「見てもらうこと」という関係性ができていること。「知ること」「知ってもらうこと」と言い換えられると思います。知らないことへの不安や恐れは、みなさんも体験したことがあると思います。それを取り除く〈一緒に遊ぶこと〉や〈お茶を飲むこと〉。

また、まびそーには、メディア関係者やイベント、炊き出しの外部支援者がノートやカメラやそれぞれの支援を持ってやってきます。彼らにも、まびそーの今を伝えることにしています。ノートやカメラや支援を、一旦バッグにしまってもらいます。聞きたいことやりたいことは、まびそーのみなさんも同じ。初めてやってきた人のことは知りたいんです。相手を知る前に、自分を知ってもらうことの大切さを認識してもらいたいと思っています。

→メディア関係者、まびそーでは体操のお兄さんお姉さんもできなきゃダメです!ただでは帰さない♪

【穏やかな空間】
お茶に呼び、お茶に呼ばれるれるということの意味は、生活、暮らし、日常を「分かち合えるかどうか」という信頼そのものです。そうやって〈まびそー集会所〉に生まれたのが、〈穏やかな時間〉。穏やかな時間を大切にできる人が、今のまびそー、ひいては被災した場所には必要です。

役場などの支援側(本当は受援側でもある)にも、まびそーの今をお伝えします。まびそーのみなさんは、彼らに聞きたいことも、やってほしいこともたくさんあります。でも、解決を望んでいるわけではありません。ただ、今の生活や思いを聞いてほしい、どうなっているのかを知りたい、教えてほしい。分からなければ「分からない」と言ってほしい。それが届かずに、職員に食ってかかる人も出てきてしまいます。言いたくないのに言ってしまったその後の罪悪感による疲労も、本来は必要のないことなのに。でもその怒りは、不信感からくる怒りではないんです。それは二次的なもの。怒りの本当の理由は、不安から生まれる恐れです。みなさんは穏やかな生活を望んでいるだけです。

→お茶を飲みながら集めた思い〈まびそーの声〉

【集会所は生活の場】
まびそーに求められているのは、自分の仕事ができなくても、それでもみなさんとお茶を飲める人。穏やかな空間には、穏やかな空間を大切にしている人だけが集まっているからです。支援を受け続け、ありがとうと言い続けてきた人たち。イベントに疲れた人たち。

中にはまびそーの生活(イベント会場ではないということ)に理解を示してもらえず、機嫌を損ねる人も。「被災者にとって良いことをしようとしているのに!」と、お茶を飲まずに帰ってしまいます。支援とはこうだ!という人に出会うこともあります。よくよく話を聞くと、主体を見失っていることが多いんです。自身の都合(やりたい支援ができないという理由)で、穏やかな人たちを巻き込むだけ巻き込む、お茶を飲まない(飲めない)勝手な人たちだと思ってしまいます。

【私たちはまだヒヨコ】

・生活の再建に向けた〈自立心〉

・生活の中で直面する〈自己決定するチカラ〉

・一度離れてしまった社会に戻る〈体力づくり〉

発災から6ヶ月。もう半年、まだ半年。
「私たちはまだヒヨコ」。まびそー集会所の開所を、2ヶ月以上待ち望んでいた方の言葉です。ヒヨコなりの進み方やスピードがあるんだと話してくれました。成長は必要。でも、笑顔で話していたって、ふとした瞬間に1ミリも余裕がないことを突きつけられる、と。

【お茶、飲みませんか?】
お茶を飲むことの大切さ。少しはお伝えすることができたでしょうか。家の再建、飲食店の再開、赤ちゃんの誕生、明るい話題も増えています。これも真備町や総社市の〈今〉。本当のところは、ぼくはまだ何も理解していないかもしれません。この先もお茶を飲んで、ラジオ体操をして、なにげない毎日を過ごすことしかできないかもしれません。それでもそうやって生活は続いていきます。だからまずはお茶から……是非、訪ねてください♪

→生活が落ち着いてはじめて、日常がやってくる。その第一歩が、この集会所の役割。そういう笑顔です。


【発動!DEBURN PROJECT / でばーんプロジェクト】
今のぼくは、みなさんの出来ることと出来ないことの真ん中に立って、「声が掛かる」まで出番を待っています。みなさんと一緒に社会と繋がる〈体力づくり〉をしています。「ちゃんとやって!」と言われても、ぼくは答えを持っていないと伝えて、一緒に考えるようにしています(本当は持っているけど企業秘密だから教えない、とかなんとか言って♪)。

〈DEBURN PROJECT〉これがいまのぼくの無所属のチーム名。〈出番計画〉、「誰もが出番を待って(持って)いる」というコンセプト。

〈出番待ち〉をしている友人知人のための〈楽屋づくり〉と、ここで出会う一人ひとりの〈自立心や自己決定するチカラ、社会と繋がる体力づくり〉の場を作っているところです。

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