ヒマな人

「おに」の語源は「おぬ(隠)」が転じたもの。元来は姿の見えないもの、この世ならざるもの。「まめ」は「魔滅(まめ)」。無病息災を祈る意味で豆がまかれ、それを人間が食して鬼退治……。

自然と人間の知恵を集めた暦(太陰暦)、旧正月と二十四節気の第1番目にあたる立春が過ぎました

「どうしてる?」「いつもヒマにしてるよ」

ボクの口ぐせのような挨拶代わりの言葉、ヒマ。先日もホハルのタツシにそう伝えると、「『モモ』も、そういう時間の中にいる」というようなことを話してくれました。

『モモ』ミヒャエル・エンデ(独)初版1973年。

ぼくが三歳の時にモモは生まれていました。ある村のはずれに住み着いた女の子モモは、ただ大きな瞳を開いて村の人の話を聞いているだけ。それなのにみんな晴れやかになって帰っていく。心を許せる友だちができたり、子どもたちもモモが大好き……しかし、やがて灰色の男たち、時間泥棒がモモの時間を……。

物心ついた頃から気になっていたミヒャエル・エンデの『モモ』。本屋へ行くとは必ず一度は手に取る『モモ』。でもついぞ読むことなく、ぼくは人生を折り返している。モモはボクに似ているというタツシの言葉もあって、初めてページを繰る日がやってきました。ヒマな時間を使っては、総社市図書館にある子どもフロアで、子どもたちに混じって『モモ』を読んでいます。訪ねては数ページ、また訪ねては数ページと、今までの時間を取り戻すために、あせらずゆっくり読み進めています。

目の前にいる人との時間を大切にしている人や自分自身を大切にしている人に会うと、ボクはモモの話をしたくなります(まだ全然、読んでないけど)。ぶどうの家のナオキくんに話しました。すると彼は『さるとびエッちゃん』の話をしてくれました。

「モモを観た時(映画かミュージカル)、さるとびエッちゃんを思い出した」

『さるとびエッちゃん(おかしなおかしなおかしなあの子)』石ノ森章太郎 1964年「週刊マーガレット」連載。

エッちゃんは転校生。強い訛りをからかわれても、どんなことが起こっても「エヘ」っといつも笑ってる、授業中は「コクリコクリ」と居眠り。それでもみんなを惹きつける何かがあって(テストは百点満点)……。自称猿飛佐助(忍者)の33代目のえっちゃんは、誰よりも早く走り(電線の上を歩いたり)、力も強く、動物と話したりできるんです。おっと、ちょっと待って。こうやって書くと忍者漫画のように聞こえるかもしれないけど、『さるとびエッちゃん』は、れっきとした少女漫画です。『ベルサイユのばら』や『エースをねらえ!』よりも少女漫画の先輩!


発災から半年が過ぎ、今まで以上に目に見えないものを大切にしなきゃいけない真備町の生活。ナオキくんはモモとエッちゃんの共通点を、ボクが持っていると言っていました。

何もしない。ただ話を聞いているだけ。でも、そこにいるだけでまわりの人たちは穏やかになっていく。

今、町には一人ひとりの中に隠れていたもの、鬼、おぬ(隠)が噴き出しています。気力体力を奪われた人たちの中に隠れていたものが、心身の回復と共に少しずつ明らかになってきています。

昨年、一変してしまった環境にも慣れ、春も近づき活動が活発になってきています。また、「もっとイベントを!」「住人を仮設住宅から外へ出さなきゃ!」と、目に見える支援のチカラも大きくなっています。

元気だった人は、より元気に
真面目だった人は、より真面目に
不真面目だった人は、より不真面目に
消極的だった人は、より消極的に
積極的だった人は、より積極的に
責任のあった人は、より責任を意識する
役割があった人は、より役割を意識する

でも実はまだ、完全には回復しているとは言えないんです。環境も気持ちも、依然として非日常のままだからです。

元に戻ったと思ったのに、実はそうじゃなかった。

理想と現実のギャップ。
理想とは災害前の自分、現実とは非日常の中の自分。理想と現実の間に、手応えのないズレが出てきています。

はりきって散歩し過ぎちゃいます。風邪もこじらせちゃいます。買い物もたくさんしちゃいます。まわりにいる人たちは、それを意識しなきゃいけない時期に入っています。目に見えなかったもの、隠れていたものが現れ始めている今、無理は禁物だからです。それに、ヒマなくらいがちょうどいい。

日々の暮らしは目には見えないけど、まめに一緒に過ごせば目に見えてくることもあります。それが、みんなが求めてやまない穏やかな時間を大切にするということ。

ぼくがヒマであることの必要性がどこまであるのかはわかりません。それでもヒマにしていることで広がる世界があるということを知っている人は、世界のあちこちにいます。モモやエッちゃんのように大切なものを見失わないよう、そしてこの世ならざるものにならぬよう、目に見えないものから、まめに学び続けられますように。

まず手はじめに……
『モモ』と『さるとびエッちゃん』を読破!! 

* ホハル……〈放課後等デイサービス〉
* たつし……ホハルスタッフにしてアーティスト
* ぶどうの家……〈小規模多機能ホーム ぶどうの家真備〉
* なおきくん……ぶどうの家の総合施設長にしてドラマー、バイカー
* ホハル、ぶどうの家は、2018年西日本豪雨災害で被災
* ホハルは、2018年8月に再開
* ぶどうの家は、2019年3月に再開予定

新聞紙と色紙でつくったぼボクの中のおぬ(隠)。オニだってユーモアがなくっちゃ。

お詫び
本文中、モモやエッちゃんをヒマだなんて、ただのヒマなボクと一緒してごめんなさい♪訂正はしないけど!

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