【試し読み】大前粟生「ビーム」(『私と鰐と妹の部屋』より)

大前粟生「ビーム」

 妹の右目からビームが出て止まらない。流星群の日に、ふたりで「かっこよくなりたい」と流れ星にお願いをしたからだ。救急車を呼んだけれど、「手立てはない」と医者はいう。仕方がないので、私は妹の右目を手で押さえつづけている。いったいどういうわけか、私の手だけが妹のビームを抑えることができる。私たちは離れることができない。病院から帰ってしばらくは歩行や生活の練習をする。
 私とちがって妹には友だちが多い。みんな仕事終わりの夜遅くにきてくれる。私と妹は流星群の翌日に仕事をやめてしまった。ふたり一組になって、私たちはお互いの職場にいったのだ。「姉です」または「妹です」と紹介すると上司は歓迎してくれたが、すぐに気まずそうにしはじめた。なんで姉または妹が職場にきていて、姉が妹の右目をずっと押さえつづけているのか? 
 「ビームが出るんです」私たちは正直にいった。私の上司はぽかんとし、妹の上司は笑ったが、最終的にはどちらも怒ったので、私たちはいつか上司のロッカーをビームで焼きたいと思った。
 妹の友だちはビームのことを知っていて、しきりに「お姉さん、お姉さん」といってくる。「はいはい」と私はいい、手を妹の右目からほんの少し離す。ほんの少しだけだ。すると妹の右目から赤い光が、ゴムのように私の手のひらまで伸びてくる。五センチ――これが限界の距離、私が妹の右目から手を離すことのできるぎりぎりの距離。その五センチのあいだで、赤い光が爆発しているように膨れ、部屋中を光でいっぱいにする。「おおおお」と友人たちはいう。携帯電話を取り出してしきりに写真を撮るが、あまりにまぶしくてなにも写らないほどの光。
 友人たちが帰ったあと、妹はぶるぶる震えている。肩で息をして、えずいている。たった五センチでも、妹には相当のストレスだ。妹はがんばっている。目からビームが出るということが、ちょっとでも冗談みたいになればいいと思って。「いつか、堂々とビームを撃てたらいいね」と妹がいう。いつか、私たちは山を登りたい。暗やみのなか、妹が真上を向き、私が手をぜんぶ離すのだ。赤いビームが空まで伸びて、雲をえぐっていく。「宇宙まで届いてるかなあ」「届いてるよ。何光年先の人にも見えてる」目元の光で妹の顔は見えないけれど、微笑んでいてくれたらうれしい。しばらくそうしたあと、私が手のひらを妹の右目にかぶせても、光は消えない。何十、何百、何億光年先にいる人たちには妹の光が見えていて、私たちといっしょに微笑んでいてくれたらうれしい。

大前粟生『私と鰐と妹の部屋』(書肆侃侃房)より


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