韓国のオーガニック農産物(有機・無農薬)学校給食について~2019年

この書き込みは個人ブログ「韓国雑記帳」に2019年6月21日に書き込んだものです。最近、更新していないため検索サイトでも見つからない場合があり、こちらに転載します。
なお、2020年のデータも入手しましたので、あした明後日ぐらいで比較してみます。日本のオーガニック給食運動の参考にしてください。


1.学校給食の一般的な現況

・韓国の小中高および特別支援学校の総数は11,800校、児童・生徒数は575万人(17年)であり、すべての学校で給食を実施、そのうち97.8%が直営で運営。日本のよなセンターでの調理、学校への配達という方式はほとんどなく、学校内での調理を行っている。
・学校給食の予算は5兆9,088億ウォン、教育庁が3兆1,655億ウォン(53.6%)、自治体が1兆925億ウォン(18.5%)、保護者が1兆4,972億ウォン(25.3%)を負担してる。ただし“教育は無償”という憲法の規定を法的根拠にして、各自治体で学校給食の無償化に取り組んでいる。数年のうちには高校まで学校給食の無償化が定着する模様。
・献立は各学校に配置された栄養士(教師兼任)により標準献立から作成、米に雑穀を混ぜたゴハンが主、おかず、お汁、デザートなどの構成。麺類やパンなどもでるが、ゴハンも必ず一緒にでる。日本のような<ゴハンに味噌汁なし、牛乳で代用>といった奇抜?なメニューはない。
・献立ごとにアレルギー食材の番号が振ってあり、児童・生徒も自分でアレルギー食材を避けることができる。(代わりの食事を準備する場合もある)
・ほとんどの学校で調理室と食堂が併設されていて、担任や栄養士教師が見回りながら児童・生徒は食事をする。

2.オーガニック農産物学校給食の現況

・2017年度基準、学校給食全体の農産物に対してオーガニック農産物(有機農業、無農薬)の割合は55.4%であり、チェジュ島は92.8%、全羅南道は91.5%と高い。ソウル市も2~3年後をめどに全品オーガニック農産物に移行することを決めているなど、今後オーガニック農産物の割合は増えていく傾向にある。
・オーガニック農産物は慣行農産物より20~30%ほど価格が高いので、この差額を各自治体が独自に予算を編成して補助をしている。この補助の法的根拠を作るために条例が制定されているが、地域の保護者や生協などが協力して条例制定のための署名運動などを実施したところも多い。(ソウル市トボン区、キョンギ道シフン市、全羅南道スンチョン市など)
・各農産物ごとに営農組合が組織され、食材供給業者と年間契約(価格と生産量)を結んで、生産するケースが一般的。この制度のため、オーガニック農産物生産農家の経営が安定し、また生産量が拡大した。とくに、稲作については技術的にも無農薬栽培が安定してきており、オーガニック農産物学校給食の原動力となっている。

3.学校給食食材の調達方法

・食材の調達方法は2つある。一つは学校単位の個別購入であり、もう一つは地域単位の共同購入である。
・個別購入は、農林水産食品部(日本の農水省に該当)傘下の農産物流通センターが運営している学校給食食材注文サイト( aT サイバー取引所に登録されている中間供給業者へ発注する)に1週間単位で発注、中間供給業者は前処理をした状態で毎朝、配達を行う。食材はその日のうちに使い切り、主食材を保存する冷蔵庫は、学校の調理室にはない。
・地域単位の共同購入は、市町村単位に<学校給食支援センター>が設置され、ここを通して集団購入を行う。注文した食材が毎朝、配達され、その日のうちに使い切る点は個別注文と同一。この支援センターも地域住民の署名活動により条例が制定、その条例に従って設置された自治体も多い。
・中間供給業者は食材ごとに指定されていて、米、野菜、果物、肉類などに分かれていて、大きな自治体の場合はそれぞれに複数の中間供給業者が業務を行っている。
・ただし、その日のうちに使い切るという方法については、納品する農家や中間供給業者からは不満があるのも事実である。

4.オーガニック農産物の学校給食への供給量

主な15種類の農産物の供給量は137,588トン、このうちエコ農産物の供給量は79,339トン(57.7%)で、金額は2,414億ウォンとなっている。
注=15種類は次の通り。米、もち米、玉ねぎ、ジャガイモ、ニンニク、豆もやし、長ネギ、ニンジン、ズッキーニ、白菜、大根、リンゴ、キュウリ、イチゴ、唐辛子。
このうち、玉ねぎ、ジャガイモ、ンン人、長ネギ、梨は40%以上がエコ農産物。おもなエコ農産物の生産量と学校給食での消費量は次の通りだ。

<エコ農産物生産量と学校給食での消費量>
品目     親環境生産量   学校給食需要量  余り(不足量)
米      114,733トン    74,369トン    40,364トン 
玉ねぎ    14,265トン     10,396トン     3,869トン 
ジャガイモ  9,905トン      8,983トン      922トン 
ニンニク   2,225トン      1,595トン      630トン
ニンジン   4,441トン      2,965トン     1,476トン
イチゴ    3,559トン      1,222トン     2,337トン
長ネギ    4,194トン      2,851トン     1,343トン
大根     10,352トン      8,681トン     1,671トン
ズッキーニ  4,197トン     3,675トン      522トン
きゅうり   3,541トン     2,135トン      1,406トン
プチトマト  1,727トン     1,756トン      -29トン
キャベツ   10,251トン      3,305トン       6,946トン
梨      1,060トン     1,318トン      -258トン

5.オーガニック農産物の流通経路の実態

・韓国では1997年に農民団体や消費者団体の働きかけによって<親環境農業推進法>が制定され、有機農業や無農薬栽培に対する法的な根拠ができた。この法律では、農業の環境保全機能を増大させ、農業による環境汚染を減らし、環境に配慮した農業を実践する農家を育成することで、持続可能で環境に配慮した農業を追及することを目的と制定された。
・この目的を実現するために、国は5年ごとの育成計画を、地方自治体は実践計画を策定し施行することが求められている。
・この法律をもとに、オーガニック農産物の市場拡大と安定経営を実現するために、2000年度ごろから各地で学校給食にオーガニック農産物を利用するように要請する署名運動が展開され、オーガニック農産物学校給食が定着することになる。
・この時期は同時に、有機農産物の供給を主な目的として生活協同組合の活動が各地で活発になる時期であった。ハンサルリム、ICOOPに代表される韓国の生協は、組合員数でみると、日本の生協よりはるかに規模が小さいが、有機農業の供給という点でははるかに先駆的な役割を果たした。
・これらのことは、オーガニック農産物の流通経路の調査によっても明らかになっている。オーガニック農産物は、 生産地から地域農協(37.6%)、生産者団体(10.8%)、専門流通会社(10.0%)などを経た上で、学校給食(39.0%)、大型流通会社(29.4%)、親環境専門店(9.8%)、生協(19.2%)などを通じて消費者に伝わっている。やはり、学校給食がオーガニック農産物の消費にとって大きな位置を占めていることがわかる。ちなみに日本の場合は、有機農産物の流通経路や消費状況のデータすら存在しない。この点でも、オーガニック農産物が韓国社会に定着していることがわかる。

6.まとめ

現在、韓国では全耕作地の5%近くがオーガニック農産物(有機栽培・無農薬栽培)の農地となっている。また、有機認証も圃場の土壌検査も行っていて、日本の認証制度よりも厳しい検査が行われている。(日本は書類提出&現地チェックで、土壌検査は行っていない)
そのうえ、認証に伴う費用はほとんどの場合、自治体からの補助が行われていて、農家の経済的な負担は少なくなっている。
このように韓国では有機農業をはじめとするオーガニック農産物の栽培が年々拡大していて、その背景の一つが学校給食でのオーガニック農産物の使用であろう。
また、自治体はなるべく自分たちの地域でできた農産物を利用することを進めていて、地域経済の活性化にも繋がっている。
このように、学校給食でのオーガニック農産物の利用は、安全・安心な食材を使うというレベルにとどまらず、農家経営の安定と地域経済の活性化と結びついた政策といえる。



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