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巫蠱(ふこ)第二十二巻【小説】

巫蠱ふこの動向を探るべく、ついに赤泉院せきせんいんの地に足を踏み入れたシズカとクシロ。人質となったシズカに代わり、クシロは筆頭巫女ひっとうふじょ赤泉院蓍せきせんいんめどぎと対面する。果たして彼等は無事に会談を終えることができるのだろうか……。


之墓のはかかんざし後巫雨陣ごふうじん離為火りいか

 めどぎたちは食事しょくじえた。

 五人分ごにんぶん食器しょっきは、それをってきたかんざし片付かたづける。
(おきゃくたけど、むろつみに悪影響あくえいきょうはなさそうだね)

 彼女かのじょ赤泉院せきせんいん屋敷やしきからろうとした。
 しかし玄関げんかんつづ廊下ろうかで、とまる。

 こうから後巫雨陣ごふうじん離為火りいかあるいてきたのにおどろいたのである。

之墓のはかかんざし後巫雨陣ごふうじん離為火りいか

 離為火りいかおおくの時間じかん後巫雨陣ごふうじん噴水ふんすいのなかでごしていた。
 その彼女かのじょ自分じぶん土地とちのそとにあらわれることは、これまでほとんどなかった。

 戸惑とまどいの表情ひょうじょうかんざし離為火りいかわらいかける。
「そとからてるね、ふたり」

「そうだけど、なんで離為火りいかが」
「ちょっとえつわれて」

之墓のはかかんざし後巫雨陣ごふうじん離為火りいか

跡形あとかたもなくしたいものはだれにでもあるよね」

 離為火りいか言葉ことばかんざし悪寒おかんおぼえた。

(まさかあのふたりを)
 かんざし自分じぶんかみでこする。
彼等かれら大丈夫だいじょうぶおもわれるし、したら、げーちゃん本気ほんきでいなくなるだよ」

「じゃあせないね。筆頭ひっとう身身乎みみこ指示しじがないかぎり」

草笠くがさクシロと赤泉院せきせんいんめどぎ

 ……クシロは巫蠱ふこおとずれることになった経緯けいいめどぎはなした。

「なるほどくもなきあめすべら同日どうじつたのか。しかも戦争せんそう予兆よちょうとされるくもなきあめのあとも開戦かいせんにはいたらなかった」

偶然ぐうぜんでしょうか」

すべらがそこに居合いあわせたのは偶然ぐうぜんで、あいつが御天みあめをとめたのは必然ひつぜんおもう」

草笠くがさクシロと赤泉院せきせんいんめどぎ

確認かくにんしとくけど、戦争せんそうくもなきあめ御天みあめ同義どうぎみたいなもんだろ、そとでは」

宍中ししなか御天みあめさ」
「さんはらない」

「……宍中ししなか御天みあめ筆頭ひっとう蠱女こじょ楼塔ろうとうすべらよりも人々ひとびとに『おもわれて』いますよ」

「だが今回こんかいすべら御天みあめをくつがえした」
歴代れきだい御天みあめふくめ、前例ぜんれいがありません」

草笠くがさクシロと赤泉院せきせんいんめどぎ

「クシロは兵隊へいたいなんだよな。ぐん人間にんげんとしてきたいことは」

「まず、国際情勢こくさいじょうせいあやぶまれるなか筆頭ひっとう蠱女こじょ国境こっきょうおくった理由りゆう
楼塔ろうとうすべらは、無敵むてきでしょう。他国たこく協力きょうりょくするならくに看過かんかできません」

「あいつには『世界一せかいいちえらくないやつ』の捜索そうさくたのんであるんだよ」

赤泉院せきせんいん

巫女ふじょ蠱女こじょちがって血統けっとうによってはまらない。

赤泉院せきせんいん巫女ふじょ試験しけんえらばれる。
「その、つぎ試験問題しけんもんだい作成さくせいしたくて一般いっぱん意見いけんきたいんだ。

「なるだけ権威けんいかさないやつがいい。自分じぶんおもいをべてくれるだろう。

「まださきはなしとはいえおもったが吉日きちじつだからな」

茶々利ささりシズカ⑤

 めどぎとクシロの会話かいわは、部屋へやのすみでじっとしているシズカのみみにもとどいていた。

おれ国境こっきょう質問しつもんしたときたしかにすべら越境えっきょう目的もくてきを「ひとさがし」とった)

 やや遠目とおめ観察かんさつではあるが、めどぎうそをついた様子ようす確認かくにんできない。
(しかし草笠くがさ筆頭ひっとう巫女ふじょにひるまず、立派りっぱなものだ)

草笠くがさクシロと赤泉院せきせんいんめどぎ

 シズカの視線しせんかんじつつクシロはつづけてめどぎう。
 なぜ楼塔ろうとうすべら御天みあめを、ひいては戦争せんそうをとめたのか。

「……みんなのおもいをけたんじゃないか。
「とはいえすべら聖人せいじんじゃない。現場げんば居合いあわせたから阻止そししただけ」

戦略的せんりゃくてき意図いとはあったのでしょうか」
「ないだろ、すべらだし」

草笠くがさクシロと赤泉院せきせんいんめどぎ

「ありがとうございます。たくさんのいのちをすくってくれて」
本人ほんにんつたえとく。すべらのおかげという確証かくしょうはないけど」
「みんなが彼女かのじょまもられたようにもおもわれるのです」

文句もんくはないのか。過去かこけんも、とめようとおもえばとめられたはずだって」
だれ恩人おんじんめられます」

草笠くがさクシロと赤泉院せきせんいんめどぎ

筆頭ひっとう蠱女こじょ御天みあめをおおった事実じじつは、なにを暗示あんじするのでしょう」
人々ひとびとおもいがあいつにあつまって、御天みあめという自然しぜん崇拝すうはい偶像ぐうぞう克服こくふくはじめたとわたしはおもう」

今後こんご巫蠱ふこ動向どうこう影響えいきょうしますか」
当然とうぜん。わたしたちはもっと、わたしたち以外いがいしんじるべきだとかった」

赤泉院せきせんいんめどぎ

今後こんご方針ほうしんについてはせさせてもらう。
未定みていのこともあるし、外部がいぶ人間にんげん情報じょうほうをぺらぺらはなすほどわたしもお気楽きらくじゃない。ただ」

 めどぎ自分じぶん座布団ざぶとんうごかし、からだをシズカのほうにもけた。

「そとに喧嘩けんかはない。

「おまえらが一番いちばんほしかった台詞せりふは、これだろ」

茶々利ささりシズカと赤泉院せきせんいんめどぎ

すべらおもわれるものにすぎない。
「あいつがかかわっていようがいまいが、戦端せんたんがひらかれなかった決定的けっていてき要因よういんは、巫蠱ふこでなく実際じっさい平和へいわおもつづけた人々ひとびとにある」

 さきほどよりめどぎ声量せいりょうおおきい。

 距離きょりをあけてしている自分じぶんけた言葉ことば気付きづいたシズカは、かるくうなずいた。

▼そとの人間にんげん

 めどぎはクシロになおる。
きたいことは全部ぜんぶけたか」

「はい。筆頭ひっとう蠱女こじょ宍中ししなか御天みあめ一件いっけん付随ふずいしてくに安全あんぜんがおびやかされることはないと善知鳥うとうさんには報告ほうこくします。
今後こんご開戦かいせんをさけるよう我々われわれのほうで努力どりょくするのは当然とうぜんですが。このたびは本当ほんとうに」

「……て」

赤泉院せきせんいんめどぎ

「ひとつわすれている。
今回こんかい御天みあめ不発ふはつだった理由りゆうについてクシロとわたしは『すべら御天みあめ上回うわまわった』という前提ぜんていはなしすすめてきた。

「しかしある視点してんちてもいた。『御天みあめすべら下回したまわった』可能性かのうせいだ。

「そこでクシロ、わたしにえ。『御天みあめは、よわくなったのか』と」

桃西社ももにしゃ睡眠すいみん

(なぜんだ発言はつげんを)

 部屋へやのすみで待機たいきしながら睡眠すいみんおもった。
 となりにいるシズカにさとられないよう、表情ひょうじょうたもつ。

(いま巫蠱ふこ終焉しゅうえん可能性かのうせい勘付かんづかれたら客人きゃくじん以外いがいにない。
隣室りんしつには離為火りいかている。鯨歯げいはうしなう。

(それともめどぎ、『あえて』とおもっていいのかな)

草笠くがさクシロ⑦

御天みあめ影響力えいきょうりょくちたとはおもわれない。
(でもむかしから忌避きひされてきたそのぼくくちにできていることをかんがえると)

 クシロは少々しょうしょう逡巡しゅんじゅんしたのちめどぎ要望ようぼうどおりの質問しつもんをした。

 たして「からない」というこたえがかえってきた。
 くしくもそれは、きのうの十我とがおな台詞せりふだった。

草笠くがさクシロと赤泉院せきせんいんめどぎ

「とはいえ」
 めどぎ自身じしんのほおをかきながら口角こうかくをあげる。

憶測おくそくべれば、わたしは御天みあめつよくなったとおもっている。
今回こんかいあいつが失敗しっぱいできたのは、自分じぶんちから制御せいぎょできるようになったからじゃないかと」

成長せいちょうしたということでしょうか」
身内みうちびいきとわらってほしい」

草笠くがさクシロと赤泉院せきせんいんめどぎ

 みをたたえ、めどぎ両手りょうてをひざにいた。
「あらためて本当ほんとうにもう質問しつもんはないか」

 クシロはれた。自分じぶんにはまだ見落みおとしがあるかもしれないと。

 だが。

「ありますが、やめます」
「へえ」

十我とが虫占むしうらない。結果けっかは『そん』でした。
「だからここは、それをしんじようとおもうのです」

赤泉院せきせんいん

「いまそんえらぶのはどうして」
直感ちょっかんです」

 クシロのその言葉ことばけためどぎは、これではなしわりでいいかとシズカにも確認かくにんする。

 われたかれ最低限さいていげん返答へんとうで、それを肯定こうていした。

 めどぎがる。
「お仕事しごとおつかれ。あ、そうだ」

 そとのいずみる。

「ちょっと瞑想めいそうしていかない?」

赤泉院せきせんいん

 ……クシロはいずみにもぐっていく。

(わたし、水底みなそこしずんで物思ものおもいにふけるのが趣味しゅみで)
 めどぎ声音こわねがあたまにひびく。

(おまえらも瞑想めいそうしないか。意図いと? ただの布教ふきょうだけど)

 シズカは「さむそうだから」とことわったが、クシロは水中すいちゅうで「おもったほどつめたくはない」とかんじていた。

赤泉院せきせんいん

 潜水用せんすいようふくしてもらった。

 なかは、ほぼ透明とうめい
 そとからるとみずたまり。もぐればちた井戸いどのよう。

 かべ部分ぶぶんかたつち
 あさくはないが、ふかすぎるほどでもない。

 クシロは水底みなそこでた。
 なにかが、たまっている。

いしでもつちでもすなでもない)

 水中すいちゅうをこらす。

ほねだ)

桃西社ももにしゃ睡眠すいみん鯨歯げいは

 かくして客人きゃくじんたち、シズカとクシロは赤泉院せきせんいん屋敷やしきからていく。
 彼等かれらぎわも、感謝かんしゃ言葉ことばわすれなかった。

 見送みおくったあとの玄関げんかんで、鯨歯げいは睡眠すいみんうでをつついた。
ねむねえ今回こんかいわたしら無言むごん置物おきものやったね」

「それでよかったんだよ」
 あねいもうとゆびをつつきかえした。

巫女ふじょたち⑨

 めどぎ部屋へやもどった。

 さきほどまで隣室りんしつにいた身身乎みみこ離為火りいかかおす。

めどぎ姉様ねえさまおつかれさまです。巫蠱ふこ瀬戸際せとぎわにあることはかくとおせたとおもいます」

十我とが予行演習よこうえんしゅうたすけられた」

筆頭ひっとう結局けっきょくさないの?」
「いや、あれは始末しまつする。たのむよ離為火りいか
「そうこなくちゃ」

赤泉院せきせんいんめどぎ後巫雨陣ごふうじん離為火りいか

 ふところをさぐり、めどぎかみす。

 宙宇ちゅうういて客人きゃくじんたくしていた紹介状しょうかいじょうだ。
 十我とがわたされたのち睡眠すいみんかいしてめどぎ手元てもとうつったものである。

「だとおもった」
 離為火りいか縁側えんがわえて小石こいしむ。

 人差ひとさゆび薬指くすりゆびかみをはさみ、はじく。
 するとけるように、それはえた。

(つづく)

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▽小説「巫蠱」まとめ(随時更新)

 読んでくださり、ありがとうございます!
 2コマまんがも描いていますが、やっぱりこの小説を読んでもらえるのが一番嬉しく思います。

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