翼猫(Tsubasa-neko)

数年前ASDの告知を受けました。LDもあり昨年ADHDもある事が判明。診断名は『アスペルガー』。でも一見、普通だし生きづらさは伝わらない。出自が解らず、現在自分の出自を捜しつつ書く事で自分のアイデンティティの解らなさを更に模作中。愛猫だけがたった一人のかけがえの無い家族です。

小説『エミリーキャット』第10章・先の見えない不安

彩は二回目の乳癌の全摘手術以降、メランコリー性鬱を患うようになった。
全摘手術以降、暫くは何も出来なくなり、米を研ぐのも酷い苦痛が伴いコーヒーをこぼさずに普通にマグカップを持ち上げることすらままならなくなり、洗顔や洗髪、寝返りすら苦痛が彩の行住座臥の一挙一動を支配し、彼女の公私の営みにどうしようもない不自由を与えた。
やっと小康状態に移行してきたかと思ってもパソコンを打つことすら酷く辛い肉体労

もっとみる

小説『エミリーキャット』第9章・そんなにエレガントじゃないの。

『まず画廊のお仕事、あるいは画商というお仕事に対して皆さんはどのようなイメージをお持ちですか?えっと…お名前は?』
彩は最前列の真ん中に座るショートカットのリクルートスーツ姿の女にふいに試問した。
なんだかくしゃくしゃのパーマなのか天パーなのか、よく解らないまるで寝乱れ髪のような髪をたいして気にする様子もなく、鼻先近くずり落ちてきた眼鏡をかけ直すと、彼女は瞠目して彩を見上げた。
『えっ、わ、私で

もっとみる

小説『エミリーキャット』第8章・春・初めてのコーチング・そして出逢い

彩は乳癌の1度目の手術を終えて、一年と経たずして美大を卒業後ずっと勤めてきた、日本橋の画廊を辞めて新宿の『ギャラリー・エコール・ド・パリ新宿店』へと転職した。
その画廊は名前こそエコール・ド・パリだったが、実際にはダリやピカソの版画も扱っていたので純然たるエコール・ド・パリ(パリ派)の作品だけを扱う画廊という訳ではなかった。
彩は日本橋の画廊時代、直属の上司であった50代の上郷(かみさと)賢一

もっとみる

小説『エミリーキャット』第7章・ナイトメアの誘惑

そして心の中でこう呟いた。『あの人もそう言ってくれた、でもそうじゃなかった…』
彩は目まぐるしい想いに耐えながら思わず瞳を閉じた。
慎哉の思いもよらぬ身の上話を、自分があの森に入ったことから聴くことになったが、そのせいで彩は決して慎哉には知られてはならない重い秘密を自分が苦しみながらこれからも独りで、ひっそりと背負い続けなくてはならないのだと悟った。
自殺を考えるほど悩みの淵を孤絶して歩いてき

もっとみる

小説『エミリーキャット』第6章・焔の痕

慎哉は恐怖で凍りついたようになり、逃げ出したい想いにかられたが、その想いに必死で抗(あらが)いながら黒いダッフルコートを脱ぐと、それで火元である雑誌を懸命に叩いた。
一瞬火はひるんだように緩むが、また怒ったように瞬時に、かえって勢いを増すように感じられ、慎哉は動揺し今更ながら戦(おのの)いた。
恐怖と戦いながら取り返しのつかないことをした恐ろしさに押しひしがれながら、彼は必死でコートで雑誌を叩き

もっとみる