ジャンプの修行パートが短くなるのはどうしてか

「最近の漫画は修行パートが短いから若者は努力を望んでない(意訳)論」が定期的に起こるので、それに対して自分の見解をさくっと貼って終わりにできる文章が欲しいなと思ったので書きました。
あくまで個人の感想です。

ジャンプ雑語りなので自己紹介しときます。めんどくさいジャンプ読み以外は飛ばしてください。
20年くらい読んでます。途切れてた時期が1〜2年くらいありますが、その時期以外はほぼ全作読んでます。アンケートは応援したい作品を中心に出しています。(先週のアンケはPPP、高校生家族、ドロドロ)最近の好きな打ち切り漫画はタイパラ(というか透明な傑作概念)です。
自己紹介終わり

○物語の中での修行パートの意味

基本的に、修行は強い敵に負けた後や強敵が来ることが分かっていて襲来に備えるためにスタートします。勝てそうにない強敵と戦うにあたり、勝つに至る納得感を与えるのが修行の役割です。
そして大抵の場合、修行ではきっかけが示唆されるのみで修行の成果(=強化の結果、必殺技、打開策)は次の戦いの中で描かれることになります。
つまり、必然的に修行はそこ単体で切り出しても結果のあまり出ないタメの期間になるわけです。次の戦いで高く飛ぶためのしゃがみであり、チャージショットのチャージです。

ものすごい極論を言ってしまうと、修行のほうがバトルより面白い漫画はある意味失敗していると思います。
「チャージショットのタメ中に手元に集まった光で体当りしたほうがダメージ出ます」って言われたらなんじゃそりゃになると思うんですけど、そんな感じです。バトルのほうが盛り上がって欲しいです。
(修行自体が物語を推し進めるような構造だったりバトルより面白く書くのが目的である場合を除きます)(ワールドトリガーはある意味ずっと修行でずっとバトルだけどずっと面白いですし)
修行は基本的に、その次のバトルを面白くするためにあるものです。
物語は一旦停滞しますし、大抵の場合で安全性が確保されていて「どうなっちゃうんだ!?!!?」というドキドキハラハラも少なくなります。生死のかかった漫画に限らず、スポーツものでも練習試合とトーナメントでは緊張感が違うでしょう。
面白い修行をしている漫画はたくさんありますが、そういう漫画はバトルに入るともっと面白いですし、修行とバトルでは面白さの質が違うと思います。

○つまり?
・修行は次で爆発するのに必要なタメパート
・構造上バトルより面白くならない(なったら極論失敗の場合もある)

○最近の漫画で修行が短くなる理由

1.作劇から見た場合
話を総合的に面白くしたいのであれば、タメは内容量を保ったまま短くする方向に向かうのが正解だと思います。
チャージショットはチャージスピードを早くすればたくさんショットを打てて効率的です。ショットが多いほうが理論上は総合ダメージがあがると思います。(もちろん常にこれが正しいわけではないのですが)

事務処理パートとも共通することなのですが、今のジャンプの最前線にいる先生がたはエピソードに対する費用対効果の効率がものすごく良いです。こなすべきことは全部こなして貼るべき伏線を全部貼ったうえでいかに短くまとめられるか。1つの出来事に複数の意味を持たせることで、本来ページ数がかさむことを上手く省略しています。圧縮の方法、ものすごい工夫されているし見ごたえや発見がめちゃくちゃあってすごく好きです。

以下、例示としてジャンプ本誌のヒロアカのネタバレなので単行本派の方は★★★★★★★★まで飛ばしてください。

最近のヒロアカにスターアンドストライプというアメリカNo1ヒーローが出てきました。彼女は超派手な超面白いバトルをして退場しましたが、彼女ひとりのエピソードで解決した作劇上のこうなって欲しいな〜という課題は多岐に渡ります。
1.  海外ヒーローからの介入を防ぎたい(国内ヒーローの活躍を減らしたくない、この減った戦力で勝てるのか!?のバランスを崩したくない)
→スターアンドストライプの死で萎縮、派遣取りやめ
2. 死柄木強すぎて勝てるの!?
→戦ってたときの情報を飛行機から得る
→個性を使って弱体化(弱体化のさせかた自体めちゃくちゃ面白い)
3. 復活早すぎて時間ないよ〜!!!(はわわ感として必要ではあったけど実際そのスピードで襲撃されると早すぎて困る)
→弱体化に伴い時間を稼ぐ

どう考えても天才

★★★★★★★★

そして短縮で生まれたページの余裕を面白い本筋をじっくり書くことにあてています。なので、最近の修行が短いのは「より作品を面白くするため」というのが第一義的な理由であると思います。

というかそもそも、修行に限らず最近のジャンプ漫画はすべてが早いです。
鬼滅の刃での修行は内容量はあるけど描写は短めという近年ジャンプの一般的な形ですが、そもそもあの規模の話をちゃんとやりとげて全体が23巻な時点で異常だと思います。物語自体かなり寄り道なくバッサバッサとショートカットしてテンポよく進んでいきます。かつて語られていたジャンプは人気出ると引き伸ばす、みたいなものの対極ですよね。まじであそこが最終決戦になるなんて屋敷爆発したときは思わなかったじゃんね…っていうか屋敷爆発するなんて思わないじゃんね…

とにかくテンポよく物語を進めるのが目的であって、物語が停滞するパートは修行に限らず概ねコンパクトにまとまっている、という印象です。
減っているのは修行だけではなく、事務処理、環境のセットアップ、会議とかその辺りもなので、もし若者が何かを嫌いと言えるのであれば、努力というより物語が進まないことな気がします。し、次の項と合わせて考えるとそもそも別に嫌いなわけではないと思っています。

2.ジャンプアンケート環境から見た場合
基本的にジャンプはアンケート至上主義でできています。
アンケート結果はかなり正直で、本当に正直で、苦しいくらい正直で、面白いな〜!って回が来ると反映された週に順位が跳ね上がったり、ちょっと最近微妙だな〜が続くと人気のある漫画でもずるずる後ろの方へ下がっていきます。
で、修行はアンケが取れないんですよ。基本的に。
アンケートは単体の作品が面白いか面白くないかではなく、雑誌全体で面白かったものを聞かれるので、他の連載作品に勝たなきゃいけないんです。修行でタメてる間、他の連載作はショットを放ちまくってるので、どうしても爆発してる派手なところにアンケ入れたくなるんです。何週も何週も修行やってたらずるずる後ろに行っちゃうんですよ。容赦なく。
とにかく定期的にショットを放たないといけないんです。しかもショットを放ったとしても他の話がたまたま同じ号で大砲放ってたら負けることもあるわけで。だから修行を長く書きたかったとしても、今の環境だと難しいんですよね。特に連載が機動にのるまでは。(連載序盤でじっくり修行して終わっていった普通に面白い打ち切り漫画たちが浮かびますね。)
アンケートを送る側としても、修行(=努力)を見たくないとかつまらないと思ってるわけじゃなくて、ただもっと派手で面白いことが雑誌の別のページで起きてるというだけの話で…。
私は割と感想を残してるんですけど、修行おもしろ〜!!はよく書いてます。アンケは入れてないですが。

○結論

・最近の漫画の修行が短いのは物語の停滞を避けて全体をテンポの良い面白い話にするため
・ジャンプにおいて修行は面白くてもアンケートが取りにくいのでじっくりやるのは難しい

2021年12月時点で思うのはそんな感じです。

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