(81)それでも新しいひとは現れる
須藤さんとの別れからひと月半以上経っても、
まだ毎日彼のことを想う。
7年ちかくもずっと好きだった人だ。それはもう仕方がない。
けれどもそんな中でも、登場人物は現れる。
ある夜、下北沢から駆け込んだ最終電車のその車両に、咲也がいたのだ。
咲也は9歳年下で、15年くらい前からの知り合いだが、1年くらい前に一度、流れでキスをしてしまったことがある。
その彼と、ばったり会ってしまったのだ。
せっかくなのでその流れで1杯だけ飲みに行き、
そのバーのカウンターで、
「ボクはかの子さんが好きです。またふたりで会えますか」
と告白された。
わたしは咲也のことはもともと好ましくおもっていたし、1年まえのキスの感触も、おぼえていた。
たぶん次に会うときは、わたしたちは関係をもってしまうだろう。
そんな熱いはじまりの情熱を、彼からじんじん感じる。
これはたぶん、"わたしが知っている男たちの特性"的には、はじまりのときだけの情熱だ、ということはもう、知っている。
けれど、それを知った上で、乗っかってみたい気持ちもある。
なにしろ、わたしは須藤さんとの失恋で傷心ちゅうで、心はすきまだらけなのだ。
咲也は別れ際、わたしをまっすぐにみつめてもういちど、
「かの子さんが好きです。」
と言った。
わたしは、その口づけをうけた。
須藤さんを忘れることはできないけれど、
この流れにいちど、委ねてみるのもありかもしれない。
そんなふうにおもった。
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