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(78)突然の終わり

前夜のふたりとの遭遇に傷ついたまま、朝を迎えた。


朝なら、少しは落ち着いた気持ちでメールを送れる。

「昨日の遭遇は、さすがに、ふたりが付き合ってると認識しました…」


須藤さんから、すぐに返信がきた。


「昨日、ツアーから帰って機材を降ろして、あれからマリちゃんはほかのライブに向かいました」


昨夜のあれは、とくにやましいことではない、と伝えたいのだろう。


それを受けてわたしは少し安心して、

「そうなんですね。マリが笑ってなかったから、まずいところに会っちゃったのかな、と思っちゃった。」

「須藤さんに会いたいから、今日のイベントに顔出してもいいですか?」


須藤さんからの返信は、

「なんとなく、今日は遠慮してください。すみません。」

というものだった。


わたしはしずかにやわらかに、

拒否されたのだ。


それが、答えだった。
 

目の前がまっしろになった。

息が、できない。

今まで、須藤さんにこんなふうに断られたことは、一度もない。

これは、彼がマリを選んだということなのだろうか。


わたしはぜったいに自爆したくないとおもっていた。

だから、やりとりを翌朝まで待って、冷静なことばでメールを送った。

もしかしたらそこまではまだ、大丈夫だったのかもしれない。


けれど、

その彼への返信に、
 

「そうですか、ごめんなさい。

今までいろいろ無茶を言ってすみませんでした。

イベント、がんばってください。

わたしからはもう、連絡しませんね。

ありがとうございました。」

と、じぶんから、終わらせるメールを送ってしまった。


そうしてわたしは、つながっていたSNSをすべて切った。


須藤さんからはもうそれ以上、返信はなかった。

 
そう。
 
7年近く続いたこの切ないやさしい恋は、

この数回のやりとりで、

終わってしまったのだ。


こんなことがあるのだろうか…

終わった実感が、湧かない。
 

けれど、

じぶんでじぶんの恋のみちを絶ってしまったのは、自覚している。

わたしからはもう連絡しません

と伝えた上で、

彼と繋がっているSNSをすべて、ブロックしてしまったのだ。


心が闇に揺れがちな真夜中ではなく、比較的、光のある午前に。


それは、

"自爆"みたいなその場限りの勢いではなく、

"宇宙的な強制終了"のように感じた。

その流れには、なぜかどうしても、抗えなかった。
 
 
以前になんどか終わらせようとしたときには、

須藤さんがやんわりと引き留めたり、

送ったはずのメールがなぜか送れていなかったり、

なんとなく続く感じの流れに流されてきた。


けれど今回は、

宇宙にナタでばっさりと断ち切られたような、

そんな感覚。
 
 
昨夜から今日にかけてのこの急展開に、

ぜんぜん心がついて行けていない。


本当にこれで、終わってしまったのだろうか。

わたしたちのこの7年近くの大切な関係は、こんなにも脆いものだったのか?

須藤さんはこんな終わりで、いいのだろうか。

そんな思いで、くらくらする。


そんな、2023年のクリスマス・イブの朝だった。

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