団塊ジュニアの共有体験としてのゲーム 任天堂VSセガならびにその他大勢

ユリイカ2006年6月号の特集「任天堂/Nintendo 遊びの哲学」に掲載された原稿です。
(約9600字)

 任天堂とはいったいどういうメーカーなのか? 会社そのものを研究する言説は非常に多い。任天堂の存在感は、各ハード、各タイトルの売り上げなどからもわかるが、こういったデータでは見えないものも多い。多くの人間にビデオゲームという遊びを教えた存在として、ファミコンは大きなものだが、それは同時に、子供の頃からゲームと接していた世代を作ったことを意味する。
 オタク第一世代と言われる60年代生まれは、テレビアニメとともに歩んだが、オタク第二世代の中核である団塊ジュニアは、パソコンやゲームといったデジタル文化とともに生まれ育った世代なのだ。そこで、時代背景の解説とともに、筆者と同じ1970年生まれの架空の人物を設定し、この年代の人間の視点も交えて見ていくという形で、歴史を振り返りたい。なお、この人物は、筆者の経験も混じっているが、完全に筆者と同じという訳ではないことをお断りしておく。

■1980年代前半-マイコンとゲームが不可分な時代ー
 1970年代後半から、任天堂はソフトを内蔵した「カラーTVゲーム15」など家庭用ゲームハードを投入していた。また1978年の『スペースインベーダー』をきっかけに始まったゲームセンターブームで、アーケードゲームにも参入した。同時に携帯ハードとしては、ゲーム&ウォッチを発売し、世界的な人気を誇った。ゲーム&ウォッチはマルチスクリーンのモデルもあり、その姿は、現在のニンテンドーDSを彷彿とさせる。この時点で、据え置き型ゲームハード、携帯ゲームハードという現在の陣容は大体固まったといえる。
 この時代は、コンピューターが個人でも使えるようになってきており、当時は「パソコン」(パーソナルコンピューター)ではなく「マイコン」(マイコンピューター)と呼ばれていた。マイコンは10万円以上する高価なもので、この頃はまだパソコンが仕事で使える訳ではなく、大人向けの高級な趣味であった。
 こうした高級マイコンとともに、専用モニターを必要とせず、テレビをモニターがわりに使える5~10万円の価格帯のマイコンが登場した。低価格のマイコンはホビーパソコンと呼ばれ、子供向けに、ゲームに特化した機能を持っていた。すでにアタリが導入していたカートリッジシステムを採用し、カートリッジを入れれば、すぐにゲームを遊べるのが特徴であった。記録メディアとしてフロッピーディスクは大変高価で、まだカセットテープが主流だった時代であり、スピーディーな起動が可能なカートリッジはゲームに最適であった。また、ゲームに向いたグラフィックやサウンド機能が売りとなっていた。特にスプライト機能やPSG音源は先端の機能として、重視されていたのだ。このように、マイコンとゲームの関係は大変深いものであった。
 この時代の代表的なホビーパソコンとしてはソードのm5やトミーのぴゅー太などがある。低価格といっても、マイコンであるから、価格は5万9800円とかなり高かった。しかし、これらのパソコンは端的にいえば、MSXと同様なハードウェア構成であり、性能としてはどんぐりの背比べであった。
 同時期に、エポック社のカセットビジョンなど、カートリッジシステムの家庭用ゲームマシンも登場する。セガはSC-3000(2万9800円)というホビーパソコンを出し、SC-3000からキーボードを省いたSG-1000というゲームハードも出していた。
 この頃のゲームの最先端は、アップル2で動く海外ゲームとアーケードゲームだったが、海外ゲームをプレイできた層は少なく、大半のユーザーはゲームセンターで遊べるアーケードゲームが先端であった。そのため、ホビーパソコンには、人気アーケードゲームが移植され、その種類で人気が決まっていたが、ハードウェアの制限から、キャラクターに使える色は一色だったりして、アーケードゲームに比べると見劣りする部分が多かった。
 そんなところに、任天堂は1983年に「ファミリーコンピューター」を投入した。画期的だったのは、1万4800円という低価格だ。低価格なのに、ハードのスペックが他のハードより優れていたため、アーケードゲームを高いレベルで移植できた。
 任天堂も自社の人気アーケードゲームを移植していたが、何よりアーケードゲームとして大ヒットしたナムコの『ゼビウス』のファミコン版が1993年に発売されたのも大きい。この頃のナムコはアーケードゲームのトップメーカーであり、そんなメーカーからゲームが次々と発売されるハードは大変魅力的だったのだ。

○10代前半の視点
 中学に入ってから、毎週秋葉原のビットインに通ってる。マイコンをいじって、雑誌に載っているゲームのプログラムリストを入力して、そのゲームで遊んでいたんだけど、やっぱり家でゲームを遊びたいなあ……。でも、マイコンで遊べるゲームはなんか絵が汚いし、音も悪い。ゲームで遊ぶのなら、近所の50円で遊べるゲームセンターで遊んだほうがいいや。学校ではマイコンクラブに入ったけど、先輩たちは「お前らゲームしか遊ばない。もっとプラグラミングを学べ」なんていうけど、プログラミングなんて面倒くさい! 僕はゲームで遊びたいだけなんだ!
 そうしたら、友達のヒロシが「ファミリーコンピュータ」というマイコンを買ったらしい。いや、キーボードはなくて、かわりに「パッド」がついているそうだ。1万4800円と安いから、今度のクリスマスはこれをねだろう。

続きをみるには

残り 7,117字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?