苦手な質問

 「好きな歌手だれ?」「どんな歌聴くん?」

 僕はこの質問が苦手です。聞かれると、ドキッとして一瞬時が止まったような感覚になります。
ただ、苦手と言ってもこの質問が嫌いというわけではありません。むしろ、相手によっては食い気味に答えて共有したいという気持ちさえあります。
ではなぜ苦手なのか、理由は二つあります。

 ひとつは自分の心の中を見せている気がするからです。大袈裟な言い方ですが、僕にとってはこれに近いものがあるのです。
 音楽を聴くときに、なぜその曲を選んで聴くのか。そこには、そのときの精神状態が大きく影響していると僕は思います。モチベーションを上げたいときや感傷に浸りたいとき、何も考えずに黄昏たいとき、そのときの感情によって聴く曲は変わるからです。なので、好きな音楽について話している人を見ると、色々と考えてしまうのです。
 例えば、自分とあまり親しくない人が、今風に言うと『チル(chill)』と呼ばれるような音楽が好きだと言っていると、僕は「私は夜風に打たれながら色々なことを考えちゃう感受性豊かな人間ですよアピールいらんねん。自分のステータスのために音楽選ぶな。」と思ってしまいます。「ストレートにサンボマスター聴かんかい!」と。
 つまり、僕にとって好きな曲を教えるということは「僕はこういう感情になる人間だよ!!」という宣言であり、悪く言えばアピールなのです。これが心の中を見せているということで、僕にとっては恥ずかしいことだったりします。

 もう一つの理由は、誰かと語り合いたいというよりも、その歌手・その曲を聴いている『自分』が好きなだけだからです。
 僕は歌手に対して好きという感情を抱くとき、ストレートに「この歌手めっちゃ良いやん!好き!」となるのではなく、「この歌詞聴いて心に染みれる自分、めっちゃ良い。だからこの歌手も好き。」となります。自己愛が強い分、優越感というフィルターを通してからでないと、好きという感情を抱けないのです。
 そして、この優越感ありきの好きという感情は、自分と同じ歌手が好きな他者が現れるとすぐに冷めてしまいます。「歌詞を聴いて染みれる自分」を誇らしく思っていたあの優越感が消滅してしまうからです。そして優越感を失った僕は、本当にその歌手が好きかどうか分からなくなるのです。だから、自分の中の好きを守るためにも、誰かとその好きについて語り合いたくないのです。

 そんな僕は最近、コンビニのアイスコーヒーを片手に、夜中川沿いに座って変態紳士クラブを聴くことにめちゃくちゃハマってます。









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