見出し画像

能登半島地震の現場、珠洲を訪れて

4月11日から14日までの4日間、能登半島地震で甚大な被害を受けた石川県珠洲市に入りました。きっかけは研究フィールドで知り合った東京の青年・浅見風くんが、現地の方とつながりがあり、地震後たびたび支援に赴いていたことです。今回は彼が仲間たちと支援物資や募金を集めて届けるということで、同行し、被害や復旧の状況を見聞きしました。

珠洲市ではおよそ8割に当たる5659軒の住宅が全半壊しています(NHK 3/1)。3か月以上経っても、その瓦礫は殆ど手つかずの状態です。立派な能登瓦の日本家屋が無残に潰れ、瓦礫が道路にまであふれる光景を町中で見かけました。

なぜ復旧が進まないのか。なぜボランティアが少ないのか。既に様々な報道がされていますが、実際に足を運び、現地の方のお話を聞かないと分からないことが沢山ありました。私は災害問題について全くの素人ですが、知ってもらうことが何かにつながればとの思いで、現状と考えたことについて記事に残します。

(※4/19 ボランティアキャンプすずの利用について加筆修正しました)


長期化する断水

珠洲市内は未だ8割の世帯が断水しています。当初「3月末までに復旧できる」としていた石川県の見通しは大きく外れ、最も遅い地区で5月末までずれ込む事態になっています。中心部や主要道路沿いで復旧は進んでいますが、そこから各家庭につながる給水管が壊れていて、結局水が出ない場合もあります。

蛇口から水が出ても、流す先がありません。殆どの下水道が壊れてしまっているのです。車で市内を走っていると、道路にマンホールが浮き出る、逆に陥没している光景をよく目にしました。液状化の影響が大きいようです。下水道普及率約50%と農漁村部にしては整備が進んでいたことが、皮肉にも断水を長期化させてしまっています。工事業者も市外からの派遣に頼るしかないため、常に人手不足です(NHK 2/18)

浮き出た下水道のマンホール

水が流せないとトイレや風呂に入れないし、食器も洗えません。避難所などのトイレは仮設で、家に戻った方も自衛隊の風呂に入りに行く生活を続けています。支援物資を届けるために訪れた保育園では、給食はレトルト食品を温めて提供していました。園長さんは、紙皿や紙コップ、プラスチックスプーンを毎日たくさん使うと言われていました。当然のことながら飲食店も営業できません。あと半月、遅れている地区では1ヶ月、この状況が続くとみられます。

ただ、市街地のコンビニやスーパー、ホームセンターは短縮営業で再開しており、日用品の調達にはあまり困りません。道路も主なルートは交通規制が解除され、渋滞なく市外から訪れることができます。生活物資の不足はかなり改善されており、ボランティアが入りやすくなっている印象を受けました。あみだ湯という銭湯も営業していて、住民や復旧業者の方々が一日の疲れを癒す場になっています。

心身の拠り所になっているあみだ湯

帰ってこれない避難者

瓦礫が散乱する風景が一向に変わらないのは、被災者の多くが珠洲市外に二次避難したまま帰ってこれないことも大きく影響しています。被害の大きかった珠洲市と輪島市では、人口のおよそ2割が市外に避難しています(読売新聞 4/3)。多くは家賃が無料になる賃貸型応急住宅(みなし仮設)の制度を使って金沢市などのアパートで暮らしたり、県内外の宿泊施設に避難したりしています。制度の枠外で、家族や親類のもとに身を寄せる人もいるでしょう。

帰還を阻む要因は様々です。その中でも、まず断水が解消しないこと、そして仮設住宅がようやく建ち始めたばかりで入れるか分からないことが大きいのではないかと感じました。

自宅が全壊し、避難先の金沢市から3月に帰ってきた男性とお話しましたが、一緒に暮らす母親はまだ金沢にいるそうです。「仮設住宅を申し込んだけど全然音沙汰がない。瓦礫を公費で解体できる制度が使えるようになったけど、片づけも何から手を付けていいか…」と身動きが取れない様子でした。

特に働き盛りの世代にとって時間のロスは致命的です。避難先の市外で仕事を見つけて生活基盤を移し、そのまま帰ってこないケースもあります。地元に残った方々は、こうした流れが強まることを危惧しています。

全壊判定を受けた男性の自宅

ボランティアの受け入れ

小売店の再開などで徐々に入りやすくなってきてはいるものの、今回の地震は東日本大震災や熊本地震と比べてボランティアが集まっていません。ネットや報道で言われているように、発災直後のボランティア自粛要請が尾を引いていることは否めません。ただ現地の状況から、課題はマッチングにあることが見えてきます。珠洲市の社会福祉協議会が運営する災害ボランティアセンター(ボラセン)は、被災した住宅の片づけや仮設住宅への引っ越し手伝いなどの作業内容で、ボランティアを募集しています。しかし断水が続き、瓦礫撤去もままならない中、作業を依頼できる被災者は限られています。

ボラセンの場合、参加者側も飛び込みはNGです。通常はまず石川県のサイトで事前登録をし、活動日程を調整してから、金沢などから団体バスで珠洲に行くことになります。約50km離れた穴水町のベースキャンプに前泊する2日間の日程でも、活動できるのは結局5~6時間になってしまいます。

ボランティアのニーズ自体はあります。避難所の炊き出し、農地の復旧作業、支援物資の配送、被災者とのコミュニケーション。数日滞在しただけでも、特別なスキルがなくても求められることはたくさんありそうだと感じました。ただボラセンだけで細かいニーズをくみ取りマッチングを図るには、あまりにマンパワーが不足していて、難しい状況があるのです。

公的機関では限界のあるマッチングを補う役割を果たしているのが、珠洲市内のベースキャンプ「ボランティアキャンプすず」です。この施設は市のキャンプ場を活用したテント村で、市内に滞在しながら活動したいボランティアの宿泊場所になっています。炊き出しのボランティア団体などに所属しておらず、活動場所が決まっていない個人であっても、予約時にお願いをすれば市のボラセンと調整して作業のマッチングをしてくれたり、ボラキャンに直接要請のあった作業を紹介してくれたりします。宿泊期間は無制限で、1泊だけの人も、長期間滞在したい人にもお勧めです。このボラキャンから作業を紹介してもらいたい場合は、社協の保険とは別に、「スケット」というボランティア保険に入る必要があるそうです。

テントに宿泊できる「ボランティアキャンプすず」

つながりのハブになる住民の方もいます。私たちに寝床を提供してくださった、古民家レストラン「典座」の坂本市郎さん、信子さん夫婦がそうです。今回の支援活動を率いる浅見くんが以前住み込みのアルバイトをしていた縁で、震災後は珠洲焼職人でもある市郎さんの窯小屋を直しに行くなど、深い関係を築いていました。典座は幸いにも母屋が無事で、井戸があったため水を使うこともできます。浅見くんは信子さんから様々な地域の困り事を聞き、募金や食糧などの支援物資を集め、今回珠洲を再訪して保育園や避難所などに届けて回りました。地域にネットワークを張っている信子さんの紹介で実現したことでした。

坂本信子さんと市郎さん夫婦

気力で持っている弁当作り

信子さんは営業休止を余儀なくされる地域の飲食店主たちと協力し、避難所の被災者に毎日夕食の弁当を作って届ける取り組みを続けています。その数はなんと1日1300食あまり。早朝から5、6人で調理をし、地域のおばちゃんや若者たちアルバイトが詰め込みをします。午後2時頃までに完成させ、避難所への配達も自分たちでやっています。詰め込みのアルバイトさんはシフト制ですが、調理をする信子さんと仲間の店主さんたちは、ほぼ無休で働いています。行政からお金は出ているとはいえ、気力頼みの状態です。

避難所で毎夕無料配布するお弁当

私も2日間ボランティアで詰め込み作業を手伝いました。おばちゃんたちは冗談を言い合いながら、手を休めることなく次々と弁当箱にごはんやおかずを盛り付けていきます。スタッフさんたちも厨房でひたすらフライを揚げ続けています。足が棒になりそうになりながら、ただただ凄いなと思うほかありませんでした。

「私たちは地元の飲食店だから、出て行くわけにはいかない」。元気で笑顔を絶やさない信子さんですが、言葉には重いものがありました。

忘れられることが一番怖い

ボランティア活動やお話を聞く中で感じたのは、現地の方々はギリギリの状態で頑張っているということでした。特に避難所などサポートの現場を回している方、そして直接会ってはいませんが行政や医療福祉の担当者の負担は相当なものだと思います。一番怖いのは、そうした方々の努力によって持ちこたえている被災地が、人々から忘れられていくことです。復興のあり方を議論する段階にはまだほど遠いはずなのに、早くも投資の選択と集中を図るべきだという話が、なぜか当事者でない人々から聞こえてきます。

断水が解消し、仮設住宅の建設が進む5月以降は、ボランティアの需要は増えていくはずです。4月に入って福井や兵庫など他県発のボランティアバスが走り始めており、ボラセンの受け入れ体制も強化されていくと思います。「ボランティアキャンプすず」を有効に活用することで、現地でじっくりとした支援活動もできるようになります。

福井県からやってきたボランティアバス

坂本信子さんは「ボランティアでなくてもいいから、とにかく一度訪れてほしい。地震が起きた町がどうなっているのかを見てほしい」と強く言われていました。「典座」を滞在拠点として提供することもできるそうです。弁当づくりはかなり苦しい状態なので、1人でも多くのボランティアが手伝ってくれると助かるはずです。

忘れないということは、被災地の住民ではない私たち自身のためでもあると思います。この記事を読んだ方が少しでも能登の状況に関心を持ち、足を運んでくれたらうれしいです。

(※以下にボランティアや支援物資の参考になるリンクを記載しておきます。特に物資のニーズは現地の状況に合わせて刻々と変化するので、社協のAmazon欲しいものリストなどを確認してから用意するのがお勧めです)

【リンク】ボランティア・支援情報

・石川県の災害ボランティアサイト

・珠洲市災害ボランティアセンター

・ボラキャンすず

(宿泊申し込み↓)https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScT_yVOqQi2_ZgrGmWMB6GrotVFZBoLrwn_flP5lyr7NsF0oQ/viewform

・珠洲市社会福祉協議会/Amazonほしい物リスト

・古民家レストラン「典座」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?