多様性のあるシステムは脆い

ISILにシャルリー・エブド、BrexitにTrump政権、#MeToo。21世紀のテーマの1つが「多様性」なのだろう。国家や企業、学校といった様々なレベルで多様性は喧伝されている。その裏には様々な思想があるわけだけど、その1つに「多様で複雑なシステムは安定で持続可能だ」というアイデアがある。

でも実はその認識は甘く、真逆の結論をもたらしてしまうことになる。今回は、本当に安定なシステムと多様性の関係について、生態学の研究でわかってきていることを紹介させて頂きたい。

目次

・すべてのビジネスはシステムだ
・デザインとはシステムをつくること
・複雑なシステムは脆い!?
・安定なシステムにとっての多様性
・終わりに

すべてのビジネスはシステムだ

「システム」という言葉は、国家や社会、ソフトウェアなどに対してよく使われているわりに、定義しようとする難しい。今回は、できる限りシンプルに次のように定義しようと思う。

システム:互いに影響し合う、要素の集合

これで納得してくださる方もいるかもしれないが、抽象的でわかりづらいかもしれない。具体例をあげてみよう。

例えば、Airbnbというビジネス。Airbnbは、「ローカルな文化をリーズナブルに肌で感じたい旅行客」と、「小遣いを稼ぎつつ交流をしたい家主」をつなぐビジネスだ。単純化すれば、Airbnbは「プロダクト(Airbnbアプリやairbnb.com)」、「旅行客」、「家主」という3つの要素からなるシステムと捉えることができる。よく使われるビジネスモデルと呼ばれる図は、システムをシンプルに可視化したものなのだ。


結論から言うと、すべてのビジネスはシステムだ。なぜなら、2つ以上の関係者(要素)なしにビジネスは成り立たないからだ。だから、ビジネスに関わる人にとってシステムを理解することは助けになる。

デザインとはシステムをつくること

以前書いたのだけれど、「デザイン」にも様々な定義がある。言葉は無限の解釈ができるグラデーショナルなものなのだから当たり前だ。デザインをシステムの観点からとらえれば、デザインとは「システムをつくること」だと言える。

例えば、テーブルをデザインする仕事を任されたとする。どうデザインするだろう?

筆者なら、まずそのテーブルが置かれる環境を調べる。それはオフィスに置かれるのか、住宅に置かれるのか。その周りにはどんな家具があるのか。どんな人がどんな風に使うのか。その人たちはどんな関係なのか。

つまり、テーブルという「もの」と、それを使う「人」や、他の「もの」との関わり方をつくることがテーブルをデザインすることだと言える。システムをつくっているのだ。「関わり方」という言葉を使ったが、「関係性」という言葉と「システム」はかなり近い概念のはずだ。

どんなデザインにも、デザインの「成果物」とそれを「使う人」という2つの要素が少なくとも存在する。だから、すべてのデザインはシステムをつくることなのだ。

複雑なシステムは脆い

生物学の1分野に生態学というものがある。生態学は、「生物と生物」あるいは「生物と環境」の関係を理解しようとする学問だ。つまり、本質的には生態系を通してシステムについて研究する学問なのだ。だから、生態学で得られた知恵はビジネスであれなんであれ、あらゆるシステムについて有益なものとなる。

生態学の世界では、1972年に事件が起きた。Robert May氏が、複雑な生態系ほど不安定であるという理論予測(Will a Large Complex System be Stable?)を発表したのだ。直観的に複雑な生態系ほど安定だと考えられてきていたので、驚きは大きかったようだ。

世の中は、多様性という言葉の意味をそれほど考えずに多用している。May氏の研究の結論は、そんな世の中の意図は真逆のものだろう。

May氏の論文が当時の生態学者にもたらした問いは、「じゃあ現実に存続している複雑な生態系を安定させるものは何なのか?」だ。鍵は、「”何の”多様性」かだった。

安定なシステムにとっての多様性

答えは、2012年になって近藤倫生氏によって明らかにされた。近藤氏は、Robert May氏の数理モデルが表現する生物種の多様性に加えて、生物種間の関わり合いの多様性を考慮した数理モデルをつくった。その結果、生物種間の関わり合いに多様性があるときは、生物種が多様なほど生態系が安定になることが明らかになったのだ(Diversity of interaction types and ecological community stability)。

具体的には、生物種間の関わり合いとして敵対関係と相利関係の2つを設定し、その比率を変化させながら生態系の安定性を確かめた。すると、相利関係が全関係のうちの70~80%を占めるとき、生態系は特に安定となった。相利関係とは、イソギンチャクとそこに共生するクマノミの関係、植物とその果実を食べつつ同時に種子を遠くに運ぶ役割を果たす動物の間の関係など、互いの増殖を支え合うような関係のことだ。

おもしろいのは、種間関係が相利関係のみになると生態系の安定性は限りなく低くなっている点だ。社会性生物である人間からすると一見よく見える相利関係であっても、それに偏りすぎれば生態系は脆くなってしまうのだ。

この偉大な研究成果を抽象化すれば、「要素が多様で、要素間の関係も多様なとき、システムは安定になる」となる。ある要素の行き過ぎた増大を抑制するフィードバックループは、要素間の多様な関係の中から自然に発生するのかもしれない。

終わりに

システムは、単に要素が多様なときには脆くなってしまう。要素間の関係の多様性が同時になければならない。

例えば、企業だと、単に多様な性や国籍の人を雇っても、その人たちを企業の文化で染め上げてしまえば、従業員間の関係性は多様ではなくなってしまうい、企業は脆くなる。こうして言葉にすると、直感的にわかることのような気もしてくる。

政治家、経営者、起業家、そしてデザイナーなど、システムをつくる仕事を行うすべての人にとって、この生態学の知恵がヒントになれば嬉しい。

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簡単すぎる人生に、 生きる価値などない。ーソクラテス
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コメント2件

とても読みやすかったです。
個人的に、多様性について思うことがよくあるのですが、新しい視点を得ることができまし。ありがとうございます。
ありがとうございます!本当に嬉しいです。これからも世の中がほんの少しでも良くなりそうな視点を提供できるよう励みますm(_ _)m
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