神は全体とつながった細部に宿る|『マイクロインタラクション』

Dan Saffer『マイクロインタラクション』オライリージャパン(2014)


Don Normanが推薦しているということで気になっていた本。Framerに慣れてきたタイミングで手に取ってみた。

『誰のためのデザイン』が前提知識になっているので読んだことがないとやや難解に感じるのかもしれないが、実例がそれなりに多くあるので全体としては読みやすい。

わかりそうでわからない「マイクロインタラクション」という言葉は、著者のSafferは次のように定義する。

マイクロインタラクション
:ある作業をひとつだけこなす最小単位のインタラクション

Safferはマイクロインタラクションを、トリガー、ルール、フィードバックの3つに分解してそれぞれ1章ずつ割いて丁寧に説明する。そして、マイクロインタラクションのメタルールとして、ループとモードについて説明し、最後に仮想プロジェクト3つに対し実践していくというのが本書の構成だ。本書で得られたことは次の3つくらい。

1. マイクロインタラクションの言葉

Sapir–Whorfの仮説ではないが、言葉は思考の道具だ。図や絵で考えられないわけではない気もするが、言葉を手にすると対象が明確になり思考が楽になる(言葉で思考することで取り零したものはあるのだろうけど)。

本書では、マイクロインタラクションを丁寧に分析し、言葉を与えている。この言葉を手にしたことで、今後自分がプロダクトをつくるときや、ユーザーとしてマイクロインタラクションに出会ったときに頼りになる足場となると確信している。

2. マイクロインタラクションの実例

具体から切り離された抽象的な説明は、理解を与えることはできないのではないかと思う。本書が優れているのは、本書のコンテクストに応じて具体例を写真つきで与えてくれることだ。まさに本書もマイクロインタラクションの好例といえる。マイクロインタラクションの具体例がストックされることで、プロダクトをつくるときにそれに適切なマイクロインタラクションを発想できるようになる。

本書に飽き足らず、マイクロインタラクションをストックし分析するのを習慣としていけば、それだけでデザイナーとして数段上には上がれそうだ。

マイクロインタラクションという、いわば細やかな思いやりのデザインは、国民性として日本人が得意に思えてならない(実際、NYのメトロや、ポカヨケの例で日本人デザイナーは紹介されている)。

3. 細部と全体

科学の世界でもなんでも問題とされ続けているのがこれだ。デザインでも、全体の設計としてのデザインこそが重要とする派と、細部の完成度こそが重要とする派がいるのではないかと思う。本書には、全体を尊重しつつも細部も同じかそれ以上に重要なのだからもっと気を配ろうという意思がある。

どんなに全体の設計が優れたコース料理でも、1つ1つの料理との細かなインタラクションがイケてなければそのコースの総合的な体験は悪いものになるだろう。逆に、1つ1つの料理との細かなインタラクションがイケていても、全体としての各料理の設計がイケてなければやはり総合的な体験は悪いものになるだろう。

たぶん、どちらの方が上だとか、重要だとかいう話は、怠け者で弱い人間が作り出す幻想にすぎない。どちらも等しく重要なのだ。というより、全体と細部を切り分けることが間違っているのだ。本書は、そんなことをデザインを通じて改めて気づかせてくれたように思う。自分にとっては、これがもっとも大きな価値だったかもしれない。

細部は単なる細部にとどまりません。細部こそが製品を作り上げるのです。
Charles Eames

注意すべきは、Eamesは細部専門のデザイナーではないということだ。全体の設計もしているデザイナーだ。本当に良いプロダクトは、全体も細部も同じ人間によってデザインされたものでしかありえないのではないかと思う。

きっとなんの世界でも、入り口は全体側でも細部側でも問題ではない。入った後に逆側に世界を広げていけるかが重要なのではないだろうか。


本書がもっと広まって、世の中が素晴らしいマイクロインタラクションにあふれたならば、もっと楽しくハッピーな世の中になるはずだ。

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敢太

どんな未来がこようと紙の本

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