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前略、関東平野#69 しゃばぞう

単独

9月の8日に、また単独ライブがある。誰にも頼まれていないがまたやる。

しかしネタがまだまだ全然出来ていない。出来てないと言うより何も思いつかない。そもそもネタの作り方なんて教わった事がない。だから僕は悪くない。政治だ。政治が悪いんだ。

毎度この時期になると、ネタを作りたくない病。(ネタイネタイ病とも言う)が発症する。

この病の原因は一体何なのか、近所の無免許医に相談してみた。すると近所の無免許医から、紹介状を書いてやるから、ウチよりもっと小さくて汚らしい病院に行った方がいいと、紹介状とモルヒネを渡された。

僕はその紹介状に書いてある住所に行ってみた。するとそこには、汚ならしい小さな病院があった。蜘蛛の巣を手で払いながら、恐る恐るその病院に入ってみると。。。

悪臭のする、鉄格子の窓があるだけの病室に、両手両足を縛りつけられた状態で何かをブツブツ言っている患者がいた。

その患者はガイコツの様に痩せていて、ボロボロになったジャージを着ている。それと刺激を与えない様にしているのか、黒いサングラスをかけさせられている。

その男は一体、ブツブツ何を言っているのか、僕は聞き取ろうとした。しかし、かろうじて聞き取れたのは「・・・あるある」と言う謎の言葉だった。

何だか怖くなって来た僕は、さっき入って来たばかりの蜘蛛の巣まみれの入り口に、小走りで引き返した。

すると突然目の前に、もう汚れ過ぎて何色でも無くなっている白衣を着ている、年老いた医者が現れ僕に話しかけて来た。

医「この病院に来たって事は芸人さんかな?」

僕「はい・・・」

医「どうせ単独ライブのネタが出来ないとか予約         が全然入らないとか、そんな所じゃないのかね?」

僕「はい、そう言う病気で苦しんでいます」

医「ふっ、君そんなもの病気の内に入らないよ」

僕「でも先生、僕はネタを書こうとするとイビキをかいてしまうんです。寝ただけに・・」

医「うん?ちょっと検査が必要かも・・・」

僕「先生、僕は予約が入らなくて不安になってくると熱が出るんです。だから予約より座薬の方が入ります・・」

医「危ないねえ・・もしかたら君もあの患者の様になってしまうかも知れないな・・・」

そう言うと、医者は、遠い目をして、さっき見たあの患者の事を僕に話し始めた。どうやらあの患者は、自分の息子らしい。

息子は以前、東京でお笑い芸人をやっていたがスベり過ぎて廃人になってしまったそうだ。医者は息子にお笑い芸人をやらせた事を酷く後悔していた。でも医者を継げるだけの頭は息子には無かったそうだ。

僕はなんだか、あの患者の話しを聞いている内に居た堪れない気持ちになって来たので、そろそろ帰ろうとした。すると医者は目に涙を溜めて僕にこう言って来た。

「君もそこそこの年数、芸人やってるんだろ?何処かの舞台で、息子と一緒になった事はなかったかね?教えて欲しいんだ、私の息子は本当に一度も、お客さんに笑って貰った事がなかったのかね・・・」

そう言うと、医者はその場に泣き崩れてしまった。

僕は戸惑いながら、「息子さんは何て言う芸名で活動していたんですか?」と聞いてみた。

医「・・ギ・ン・ザ・ポ・ッ・プ・・・・」

僕は「ああ!知ってます。三回だけですけど、ウケているのを見た事があります」と嘘をついた。

本当は知らなかった。そんな名前、聞いた事も無かった。

僕は帰り際、医者に気づかれない様に、持っていた致死量のモルヒネを、あの患者にそっと打ってやったんだ。。。


9/8 「しゃば単 晩夏」
会場 新宿ゴールデン街劇場
開場 18:30 開演 19:00
料金 前売2000円 当日2500円
予約フォーム↓↓↓↓
tiget.net/events/60203










右や左の旦那様、どうかこの惨めで哀れな三人にお恵みを・・・