関門海峡日記 2

「錦鯉さんならよく知ってますよ!」

こんなに早くこのセリフに頼る日が来るとは。

父の仕事は工場の機械のメンテナンスでいわゆる出入り業者だ。会社から目的の工場まで20分くらいのドライブがある。

初めて工場に連れて行ってもらえる日、先輩社員2名がハイエースの運転席と助手席に座り後部座席に私が座る。当然食い気味で前の席のヘッドレストに肘を当てる姿勢で乗車、やる気で評価されるアマチュアスポーツのスタイルを踏襲した。

当然東京での暮らしを聞かれる。自分もハキハキと大きな声で答える。

『よしもとじゃないので、ルミネには出てません!』

『協会員でないので、寄席には出てません!』

『テレビにも出てません!』

では何なら出ているんだという空気が出た中で、そんな質問も飛んで来ずカーラジオの朝のニュースのボリュームが上がった。

『皆さんは好きな芸人はいますか!?』ともうこれしかない質問をした。ねづさんかたかしさんが出てくるのを待てばいいのだ。

『その人はちょっと会ったことないですね、、』とか『面白いですよねー、、』という返答でどんどん山札を切っていく。早くダイヤのエースよ出てきてくれと願って5分後、ついに相手が錦鯉さんをドローしたのだ!

冒頭のセリフを叫んだ。が、これまたエピソードが出てこない。一生ものの持病オモシロイップスが発症。

とにかく2人ともいい人だと伝えたあと大きめのラジオを聴きながら深く座席に腰掛け山口の工場地帯を眺めていた。

水戸

右や左の旦那様、どうかこの惨めで哀れな三人にお恵みを・・・