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前略、関東平野#39 しゃばぞう

型枠解体屋 社長編

約三十年前、型枠解体屋で働いていた事がある。

型枠解体屋と言われても知っている人は少ないと思う。解体屋はなんとなくわかるが、型枠ってなんだ?って思うだろう。

片玉はしょっちゅう出してるけど、型枠ってなんだ?

片乳はしょっちゅう吸われてるけど、型枠ってなんだ?

型枠?片山?敵討ち?カナダ?からの?手紙?

説明するのがめんどくさくなってきたので省略。各々想像して下さい。きっと誰の心の中にも型枠解体屋はあるはずだから。瞳を閉じれば型枠解体屋が瞼の奥にあるはずだから。

使う道具はでっかいバール。自販機荒らしが良く使うあのでっかいバール。金庫荒らしも使うあのでっかいバール。

でも型枠解体屋はでっかいバールで荒らさない。人生荒らしている人達ばかりだから。嵐じゃなくて荒らしだから。

とにかく誰もやりたがらない、キツイ仕事だった。だから職場に日本人が少なかった。

イラン人とタイ人が何十人もいて、一緒に働いていた。イラン人は隙あらばサボっていた。勿論、僕も隙あらば派だった。シーア派でもスンニ派でも無く、スキアラバ派だった。

但し、たまに現場に社長が高級車で現れると、イラン人達の動きが変わる。勿論、僕の動きも変わる。

高級車から降りてきた社長は、作業着なんか着ていない。ヘルメットと軍手だけを着けて、作業員達を怒鳴り散らす。

それによって、イラン人達は社長が何を言っているかは、分からないけど見たこと無い動きで働き出す。僕は何を言っているか分かってしまっているので、覚醒したイラン人よりさらに上の動きで働き出す。

さもなくば殺される。殺されたくない。

怒鳴り散らしながら我々に指示を出す社長の軍手の小指は、いつだって風でピラピラしていた。

風に揺れる社長の軍手の小指を見て

我々日本人は春の訪れや厳しい冬の始まりといった季節の移り変わりを感じたものです。風流です。侘び寂びです。指錆びです。ゆびなしです。

風に揺れる社長の軍手の小指を見て

イラン人達は、遠く離れた故郷に残して来た家族を思い、この風が我が祖国イランから吹いてきたものかも知れないと、風上を見つめ感傷的になり胸を詰まらせる。胸がつまる。ゆびをつめる。

ジャファー、アリ、ホセイン・・・皆んな元気かな。ジャファーは今でもデカ過ぎて邪魔だからと言って、チンチンを腿に縛り付けているのかな。

はたして、イラン人達は何処まで理解していたのでしょうか?この日本の文化、オ・モ・テ・ナ・シ・・・いや・オ・ト・シ・マ・エ・・・を。




右や左の旦那様、どうかこの惨めで哀れな三人にお恵みを・・・