前略、関東平野#30 しゃばぞう
アルバイト。
16歳の時にやった、窯で焼いた石をノコギリで切ってサイコロ状にするバイトは今だに何を作らされていたのか分からない。
炎天下の中、熱々の巨大な窯の前でその石をひたすらノコギリで切っていたが、アレは一体何だったんだ。
作業場には小さなラジオがあった。
当時ヒットしていたTUBEの、あー夏休みがFM群馬から流れてくると、石を切るノコギリのピッチが上がる。
自然と力が入る。雑になる。割れる。怒られる。
しかし何を作っているのか分からないので、何で怒られているのかも分からない。だから応えない。むしろ褒められている気さえしてくる。
FM群馬から、一日中何度も流れてくるあー夏休みを待っていた。あの夏はとにかく何回でもあー夏休みが聴きたかった。
高校を中退した僕にとっては、高校生活、最初で最後の夏休みだった。
夏休みの宿題は謎の石を切る。
夏休みの思い出は謎の石を切った。
夏休みの工作は切った謎の石だ。
海の無い埼玉県の外れで、湘南の海沿いをバイクで風を切る事に憧れながら石を切った。。
うまい。うますぎる。埼玉銘菓十万石饅頭。十万石饅頭にも石という字が入っている。確かフリーメーソンも元々は石工職人の団体だったはず。
これ以上の詮索は危険だ。かなり危険だ。寝不足のおじさんのnoteなんて危険すぎる。
とても大きな敷地に事務所と作業場があるその会社の従業員は三人だけだった。それも謎だった。
社長。部長。おっちょこちょい。の三人だった。
おっちょこちょいは僕がバイトしている期間中に飛んだ。
もしかしたらおっちょこちょいは、自分が作らされている石が何なのか気づいてしまったのか・・
腹を裂かれて謎の石を詰め込まれて井戸に落ちたのか、それとも謎の石を握りしめて、バルスを唱えてしまったかのどっちかだろう。なんせおっちょこちょいだから。
結局そのバイトは夏休みと共に終わった。謎の石は謎のまま終わった。
あー夏休み
湘南で見た 葦簾の君は〜
葦簾(よしず)も当時から謎のままだ。
右や左の旦那様、どうかこの惨めで哀れな三人にお恵みを・・・